璃奈「ねえみんな。ゲームしよう」 6

169ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 20:44:37.33ID:Dc9V1hN/



翌日。
お昼休みになると同時に部室へ駆け込んだ私を、璃奈ちゃんは当然のように先にいて出迎えてくれた。
「今日も行くんだね」
そう言って、すでにログインの準備が済んでいるアカウントを指差した。

「そろそろなにかわかりそう?」
我ながらそそくさとした雰囲気で手早くログインの支度をする私に、璃奈ちゃんは小さく問いかけた。
「……うん、もうすぐ」

璃奈ちゃんは、『虹箱』の中で行われていることのどこまでを把握しているんだろう。
動きが見えてるだけで、会話は聞こえてないのかな。
それとも動きだって見えてないのか。
…そうじゃ、ないんだとしたら。

間を置いて「そう」と聞こえるのと同時に、私の意識はふっと途切れた──

………
……

 

170ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 20:47:52.34ID:Dc9V1hN/

三日目…

『虹箱』内、彼方の部屋


彼方「ん──」パチ…

彼方 (この部屋で目を覚ますのは三回目か。昨日は、起きたら横に果林ちゃんがいたけど) チラ


枕元にはもちろん誰の姿もない。

昨日、眠る愛ちゃんに挨拶をしてたら思いのほか講堂を出るのが遅くなってしまい、14時前ギリギリになんとか部屋に辿り着いた。
机にあった小さなメモ用紙に『入っちゃダメ』と殴り書きして、部屋の扉に貼って。
ベッドに滑り込んだところでちょうど14時を迎えて、私は元の世界に戻った。

その張り紙がなくても、昨日の今日で私の寝覚めをお出迎えしてくれようなんて子はいなかったと思うけど。

時刻は── 134分。あ、5分。
授業が終わって駆け足で部室に向かっても、やっぱりこれくらいになる。
普通に考えればたいした時間のロスじゃないけど、早ければ十五分には裁判が始まることを思うと、のんびりしているわけにはいかない。


彼方「とりあえず、誰かに会わなくちゃ」

 

171ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 20:51:17.78ID:Dc9V1hN/

昨日と一昨日はたまたまうまくいったけど、一歩違えばあっさり敗北してた。
起こることの全ては把握できなくても、せめて誰か一人くらいの行動は確実に把握しておかないと、裁判で勝つことなんて──


彼方「…今日も、誰かが誰かの秘宝を奪うのかな」


残っているのは、果林ちゃん、せつ菜ちゃん、エマちゃん、しずくちゃん。
このうちの誰も、積極的に誰かの秘宝を奪おうとするとは思えない。
いや、そんなことを言うなら、かすみちゃんだって愛ちゃんだってそうだった。
だけど、状況がそうさせたんだ。
それを悪いことだって言うつもりはない。でも、裁判で敗北するつもりもない。

私は勝つ。
勝って、璃奈ちゃんにこの『虹箱』で起こったことの全てを打ち明ける。
みんなが必死で生きていたこと、私達と同じだけの夢や熱意があったこと、そして──みんなと交わした約束のこと。
そのためにも、勝たなくちゃいけない。勝利しなくちゃいけないから。

 

172ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 20:54:46.73ID:Dc9V1hN/

もうなにも起こらなければいい、誰にも傷つけ合ってほしくない。
そんな弱気になる思考を振り払って顔を上げる。


彼方「そういえば、果林ちゃん…」


部屋を出たところで、隣の部屋に目をやる。
果林ちゃんもなんとか間に合ったみたいで、ドアには『勝手に入らないこと』と書いた紙が貼られている。
この分なら、少なくとも昨日の歩夢ちゃんみたいに夜のうちに危険が迫ったなんてことはないよね。

そもそも、夜の間に一人だけ自由に動き回れるなんて愛ちゃん以外には──


──愛「…それで借りたのは【機械じかけ】。ゲーム終了まで眠らなくなるっていう能力だった」


ううん、愛ちゃんが眠らなかったのは璃奈ちゃんの【特殊能力】を借りたから、だっけ。

 

173ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 20:58:12.19ID:Dc9V1hN/

──璃奈「もう時間もギリギリ、そろそろ14時になる。【特殊能力】は全員違うから、私以外、今夜以降行動できる人はいないけど、念のため自分の部屋には入らないように意思を表明しておくことをお勧めする」


璃奈ちゃんの言葉を信じるなら、もう夜の間に誰かの秘宝が奪われるなんてことはないはず。

だから、目を覚ましてからのほんの短い時間で全てのことが起こるんだと思っていい。
気をつけておくべきなのは、みんなの行動と……それと、【特殊能力】だよね。

今のところ判明してる能力は、かすみちゃんの【小悪魔】、せつ菜ちゃんの【二面性】、歩夢ちゃんの【真心】、愛ちゃんの【ハイセンス】、璃奈ちゃんの【機械じかけ】、それに彼方ちゃんの【超睡眠】。
果林ちゃん、エマちゃん、しずくちゃんの能力がまだわかってないんだ。

昨日の裁判では、果林ちゃんとしずくちゃんがお互いにちょっと険悪になっちゃったけど…

 

174ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:01:36.99ID:Dc9V1hN/

彼方 コンコン

彼方「果林ちゃーん、おはよう~。彼方ちゃんだよ~~」


シン…


あれ、お返事がない。
寝坊…は、しないんだったよね。うん。
彼方ちゃんが秘宝を奪いにきたと思って警戒してるとか、かな。
昨日の今日でそんな風に思われちゃってたら悲しいけど、自己防衛のためには仕方ないかなぁ。


彼方「……!」ピーン

彼方「果林ちゃーん、本物の彼方ちゃんだよ~。偽物じゃないよ~」


シン…


……むぅ。
【特殊能力】で彼方ちゃんに扮した偽物を警戒してるのかもしれないと思ったけど、そういうわけでもないのか。

 

175ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:05:04.48ID:Dc9V1hN/

すやぴしてるわけでもなければ、身を守るために籠ってるのでもないとしたら。
彼方ちゃんが呼びかけてもお返事がないのは、どういうこと?
お部屋にいないか、もしくは──


彼方 (──どっちだとしても、ここで応答がない果林ちゃんを待ち続けるのは得策じゃない)


そう判断して、足早に五階を離れる。
果林ちゃんの動向がはっきり掴めないのなら、他の誰かに目を向けなくちゃいけない。
まだゲームに残ってるのは、四階のエマちゃん、三階のせつ菜ちゃん、二階のしずくちゃん。

ひとまず一番近いエマちゃんと話そう。
そう決めて、四階で方向転換。

 

176ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:08:26.51ID:Dc9V1hN/

彼方 コンコン

彼方「エマちゃーん、いるぅ?彼方ちゃんだよ~」


…ガチャ


彼方「!」

エマ「あ、彼方ちゃん。おはよう」

彼方「おはよう、ってもうお昼なんだけどねぇ」

エマ「うふふ、そうだね。…彼方ちゃん、一人なの?」

彼方「うん、一人だよ──」


──果林ちゃんのお部屋を訪ねたけど、お返事がなくて。

そう言いかけて、言葉を止める。
考えたくないけど、エマちゃんが果林ちゃんの秘宝を奪っていたとしたら。
少しでも本人に話してもらった方が、情報を──

 

177ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:12:19.51ID:Dc9V1hN/

エマ「…彼方ちゃん?どうかしたの?」

彼方「あ…ううん…」

彼方 (イヤだな、どんどん裁判に向かう考え方になってきてる。エマちゃんのことも、他の誰のことも、疑いたくなんかないのに…)

エマ「もしかして、果林ちゃんになにかあったの?」

彼方 ハッ…

エマ「そうなんだ…!行こう彼方ちゃん、果林ちゃんの部屋!?」グイ

彼方「あっううん、その、お部屋を訪ねたんだけどお返事がなくって。だから、どこにいるのかわからなくて…」

エマ「そっか。何度か声をかけたんだよね?」

彼方「うん、ノックして呼んだんだけど」

エマ「だったらお部屋にはいないのかもしれないね。捜しながら、他のみんなと合流しよう」

彼方「……うん」


そう言って私の手を引くエマちゃんの表情は、とても演技なんかには見えなくて。
ただただ、友人になにかがあったのかもしれないと心配する、いつもの優しくて強いエマちゃんだった。

 

178ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:15:47.00ID:Dc9V1hN/

エマちゃんに手を引かれて下りる階段に足を掛けた、そのとき。
バタバタと慌ただしい音が響いてきた。
それは真下の方から聞こえてきて、徐々に近づいてくる──つまり、階段を駆け上がる音。

隣のエマちゃんに声を掛けるよりも早くその音の主は私達の視界に辿り着いた。


──タンッ


せつ菜「っぁ…彼方さん、エマさん!」ハアッ

彼方「せ、せつ菜ちゃん。そんなに急いで、どうしたの?」

せつ菜「ちょうどよかった、お二人を呼びにいくところだったんです。早く、一緒に来てください!」

エマ「せつ菜ちゃん、落ち着いて。なにかあったの…」

せつ菜「しずくさんが──しずくさんがっ……!」

かなエマ「「…!」」

──────
────
──

 

179ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:19:17.58ID:Dc9V1hN/

一年生教室前…


果林「しずくちゃん!しずくちゃんっ、返事をして!」ドンッ ドンッ

かなエマ「「…………!!」」

せつ菜「果林さん、お二人を連れてきました!」

果林 ハッ…

果林「彼方、エマぁ…」ヨロ…

エマ「果林ちゃん、だいじょうぶ!?」タタッ

果林「うん、うん…私は平気、なんともないわ。だけどしずくちゃんが…中で…」

彼方「中『で』…?も、もしかして──!」タタタ


急いで教室の入り口まで駆け寄って、扉に手を掛けようとしたところで──


彼方「……っ、手が…進まない…!」ググ…

せつ菜「彼方さん、他学年の教室には…」

彼方「そっか、室内の人から許可を貰わないといけないんだよね…」

 

180ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:22:38.30ID:Dc9V1hN/

ぴたりと閉じられた扉。
設けられた窓から覗く室内には──


彼方「…しずくちゃん…!」


教壇に伏すしずくちゃんの姿があった。


エマ「彼方ちゃん?しずくちゃんが、どうかしたの?」

彼方「…倒れてる。全然動かないみたい…」

エマ「そ、そんな…!」

彼方「しずくちゃん、しずくちゃん!聞こえる!?返事をして、彼方ちゃんに入っていいよって言って!」

せつ菜「しずくさん!無事なら顔を上げてください、しずくさん!」

果林「…エマ、私は平気だから。今はしずくちゃんを起こさないと」ス…

エマ「うん…」

 

181ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:26:01.89ID:Dc9V1hN/

果林「しずくちゃん、演技なんでしょう!?演技なのよね!?」

エマ「しずくちゃんっ!起きて、起きて!」


四人で繰り返し名前を呼ぶけど、しずくちゃんは指先一つ動かしてくれない。


せつ菜「…まずいです」

彼方「えっ?」

せつ菜「間もなく1315分になります。もし、しずくさんがただ気を失っているだけではないとしたら…」

彼方「…!」

エマ「も、もしかして…しずくちゃんが気を失ってるのって…」

せつ菜「……っ」ギリ…

果林「ここからじゃそれを確かめることだってできやしないわ。とにかく呼びかけて、しずくちゃんが目を覚ますことに賭けるしかないでしょう!」

 

182ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:29:19.55ID:Dc9V1hN/

彼方「そ、そうだよね。しずくちゃん!しずくちゃんってば!」

せつ菜「起きてくださいしずくさんっ!お願いします、しずくさん!」

エマ「しずくちゃん、いなくなっちゃやだよ!目を覚ましてよ!」

果林「もう、イヤよ…誰もいなくならないでよ……しずくちゃん…!」

彼方「しずくちゃんっ────」


…だけど、私達のそんな叫びにしずくちゃんが応えてくれることは、とうとうなくて。


璃奈『みんな、聞こえる?五秒後に講堂に転移する』

璃奈『秘宝が奪われて、かつ十五分が経過した。裁判が開始される』

──────
────
──

 

184ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:32:40.15ID:Dc9V1hN/

講堂


不思議な感覚が身を包んだかと思うと、私達は講堂にワープした。
それぞれの定位置で、まばらに椅子を埋めるかたちで。


彼方「ぁ…」

エマ「そんな、しずくちゃん…」

せつ菜「…間に合いませんでした…」


講堂への強制ワープ。
それは紛れもなく誰かの秘宝が奪われた証拠で、今回誰がその目に遭ったのかは明白だった。
知らないところで奪い合いが起こるのは苦しいけど、ああやって目の前で友達が倒れていたのに、なにもできないままタイムリミットを迎えてしまうのだって──


果林「あ、ら……?」

果林「しずくちゃん…?」

 

185ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:36:09.76ID:Dc9V1hN/

彼方「えっ」

エマ「…あれ!?」

せつ菜「し、しずくさん!」


しずく「──はい。本物の桜坂しずくです」


果林ちゃんのとぼけた声に視線を上げると、そこには確かにしずくちゃんがいた。
前回と同じ位置で、綺麗に背筋を伸ばして椅子に座って。


彼方「しずくちゃん、どうして…ううん、よかった。何事もなかったんなら、それに越したことないんだけど…!」ホッ

エマ「よかったよぉ、しずくちゃん。心配したんだよ~」

しずく「皆さんの声は聞こえていました。それなのに返事ができず、ご心配をおかけしてすみませんでした」

果林「ううん、いいのよ。無事だったのならそれで…」

しずく「いえ、残念ですが無事ではありません」フル…

エマ「え?」

 

186ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:39:51.13ID:Dc9V1hN/

彼方「無事じゃないって、でもしずくちゃんはこうやって…」

しずく「私は、すでに秘宝を奪われています。その状態で1315分を迎えたので、今この瞬間、私はもうゲームに敗北しています」

果林「そ、それならどうして…」

せつ菜「【特殊能力】、ですか」

せつ菜「私が【二面性】という能力によって秘宝を奪われていながら裁判に参加できたよう、しずくさんもなんらかの能力によって、今こうしている──と」

しずく「はい。せつ菜さんのおっしゃる通りです」

しずく「私の能力は【大女優】──今せつ菜さんがおっしゃったそのままで、秘宝を奪われてもその回の裁判に参加できるという能力です。大女優は転んでもただでは起きません。自らを刺した犯人の喉笛に喰らいつき、決して自分一人で舞台を降りることはないんです」

彼方「しずくちゃんが秘宝を奪われちゃったこと自体は、もう取り返せないとしても…」

せつ菜「その犯人が誰であったかを、他ならぬ被害者であるしずくさんがはっきりと告げてくださるということですか」

エマ「だ、誰なの!?しずくちゃんにひどいことしたのは!」

 

187ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:43:16.37ID:Dc9V1hN/

しずく スッ──

「「「………!!」」」


しずくちゃんが細く長い人差し指を向けたのは、


しずく「璃奈さん」

璃奈「…私?」

果林「り、璃奈ちゃん?」

せつ菜「璃奈さんは、その、…あれ…?」

エマ「ま、待って。璃奈ちゃんって秘宝の奪い合いには参加しないんだって言ったよね?」

璃奈「うん。私はみんなの【特殊能力】を把握してるし、この空間の支配権を持ってるから、公平を期すために参加してない。それにゲームを始める前にもちゃんとそう言った」

彼方「だ、だよね。名探偵の彼方ちゃんと裁判長の璃奈ちゃんは参加しないって…」

しずく「でもルールにその記載はありませんよね?」

 

188ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:46:46.76ID:Dc9V1hN/

しずく「口では確かに参加しないと言いましたけど、『璃奈さんは秘宝の奪い合いに参加しない』というルールは記載されていませんよ」

せつ菜「た、確かにそれはそうですが」

しずく「彼方さんの最終判決が勝敗を決する以上、彼方さんが被害者か加害者になってしまったら裁判は成立しない。でも、璃奈さんだったらどう?璃奈さんが加害者になったところで、裁判は破綻しないよね?」

しずく「どう?璃奈さん」

璃奈「…なるほど」


璃奈ちゃんは小さくそう呟いたきり、反論に口を開くことはなかった。

 

189ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:50:16.72ID:Dc9V1hN/

数分、重い沈黙が流れた。
ううん、実際にはもっと短かったと思う。
でも、ちょっと整理が追いつかない──混乱して、それどころじゃないのにしばらく呆けてしまっていた。


果林「一応、話し合ってみましょうか。時間はまだあるもの」


今回も沈黙を破ってくれたのは果林ちゃんの言葉で、みんなでおずおずと頷いた。
しずくちゃんもとっくに手を下ろしていて、小さく頷いた。

被害者であるしずくちゃんが犯人を璃奈ちゃんだと言う以上、正直、それよりも有力な証拠や証言はない。
まさか璃奈ちゃんが秘宝を奪うなんて。
有り得ないと思ってた行為に対するそんな感情さえ抜きにして考えれば、状況は完璧に決してる。
ただ…


──せつ菜「お願いです、どうか……真実に辿り着いてください」


完璧に決してるように見えた場面から、前回の裁判はあっさりと覆ったんだ。
今回だって時間があるんだから、話し合って損することはない。
話し合っても他の真実が見えてこなかったら、信じられなくてもやっぱり璃奈ちゃんが犯人だったってことがはっきりする。
それだけ。

 

191ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:53:38.83ID:Dc9V1hN/

彼方「璃奈ちゃんがしずくちゃんの秘宝を奪った」

彼方「今回の真実がそうじゃないとしたら、どんな可能性があると思う…?」

果林「…そうねぇ」

せつ菜「真っ先に考えられるのは、実は秘宝を奪われたのがしずくさんではない、という可能性ではないでしょうか」

せつ菜「しずくさんが被害者ではなく加害者だったとすれば、最終判決を璃奈さんにあてがうことで自分が勝利する、というメリットがあります」

エマ「でもそれだったら、しずくちゃん以外に秘宝を奪われた人がいるってことだよね?私達の中に」

果林「……その子は、しずくちゃんの【大女優】みたいに、もしくはせつ菜の【二面性】みたいに、秘宝を奪われたのに裁判に参加できているってことになるわね」

しずく「せつ菜さんのご指摘はもっともですが、私が被害者であることは皆さん自身がすぐに確認できると思いますよ」

彼方「え、どうやって?」

しずく「簡単なことです。皆さん、自分の秘宝をお手元に出してください」

彼方「ああ…!」

 

192ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 21:57:05.85ID:Dc9V1hN/

せつ菜「その手がありましたか。…私はここに」ゴソ

エマ「私もあるよ」スッ

果林「もちろん、私も持ってるわ」ス…

彼方「当然だけど、彼方ちゃんも」スッ

しずく「璃奈さんも、持ってるよね?」

璃奈「持ってる」サッ

せつ菜「全員、自分の色の秘宝を持っていますね。秘宝を奪われていれば手元にはないはずですから、これで被害者がしずくさんであることは間違いないと確認できました」

エマ「それに秘宝を奪われたのに裁判に参加できてるんだったら、自分が被害者だって名乗り出ない理由がないと思うよ」

せつ菜「ま、まあ…ほとんどの場合そうですね…」

彼方「それじゃ、今回の裁判で秘宝を奪われたのがしずくちゃんっていうのは間違いないとして、だとしたらあと考えられるのは、奪ったのが璃奈ちゃんじゃない可能性かぁ…」

 

194ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:00:35.77ID:Dc9V1hN/

しずく「繰り返しになりますが、私の秘宝を奪ったのは璃奈さんです。教室で話しているときに面と向かって奪われたので、間違いありません」

果林「もし璃奈ちゃん以外の人が奪ったんだとしたら、しずくちゃんがこう積極的に璃奈ちゃんを糾弾する理由がないと思わない?」

彼方「む、そうだね…」

果林「つまり、こうは考えられないかしら。──誰かが璃奈ちゃんのふりをして、しずくちゃんの秘宝を奪った」

せつ菜「しずくさんの勘違いを誘ったということですか…!」

エマ「他の誰かに変身する【特殊能力】ってこと?」

せつ菜「そうですね。しずくさんがここまではっきり璃奈さんだと認識している以上、ちょっとやそっとの変装とは考えづらいですからね」

彼方「でも、すでにみんなの【特殊能力】って割と判明してるんだよね。あと能力がわかってないのって、」チラ

果林「私とエマだけね」

 

196ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:04:05.33ID:Dc9V1hN/

エマ「そ、それだったら私、自分の能力教えるよ。隠す理由もないもの。私の【特殊能力】はね──」

果林「やめなさい。エマ、言わなくていい」

エマ「えっ…ど、どうして?」

果林「あなたを責めるようになるのはごめんなさい。でも、あなたが申告したことが本当なのか嘘なのか、私達の誰も判別することができないからよ。…当然、私が自分の【特殊能力】を申告した場合にも同じことが言える」

果林「今わかってるみんなの能力は、ある程度状況から裏付けが取れてる。でも私やエマの申告したことが嘘じゃないって、判別しようがないでしょう。もし私かエマが嘘をついていて、それが今回の真実を左右する重大なものだった場合、彼方の判決は取り返しがつかない方向へ進んでいくことになる」

果林「私達自身の潔白を明確に証明できないリスクを抱えても、そっちを避ける方が大事だと思うの」

果林「どうかしら?」

せつ菜「…私は果林さんの意見に賛成です」

せつ菜「そもそもが今は反証の最中なわけですから、他に疑わしい点が出てこなければ璃奈さんが犯人という帰結に落ち着くだけです。真偽の精査ができない情報を持ち出すタイミングではないと思います」

 

197ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:07:37.69ID:Dc9V1hN/

せつ菜「お二人はいかがですか?」

エマ「う、うん。難しいことはよくわかんないけど、言わない方がいいのなら、もちろん言わないよ」

彼方「……」


誰かに変身する【特殊能力】があれば、しずくちゃんに「自分の秘宝を奪ったのは璃奈さん」だと思わせることができる。
それができれば、他でもないしずくちゃんの証言で私の判決をかなり有利に動かせる──けど。


彼方 (それって、しずくちゃんの【特殊能力】を知らないと考えつかないことだよね…)

彼方 (しずくちゃんに限らなくても、秘宝を奪われた側が裁判に参加して証言することが前提の立ち回りになると思う)

彼方 (それ以外だと、…わざと誰かに秘宝を奪うシーンを目撃させる、とかかな)

彼方 (なんにしても、このゲームのルールを考えると結構窮屈そうな能力かも)

彼方 (………窮屈そうな能力、か…)

せつ菜「彼方さん?いかがでしょうか」

彼方「!」ハッ

 

198ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:10:58.29ID:Dc9V1hN/

せつ菜「真偽を確かめることができない前提にあってでも、エマさんと果林さんにご自身の【特殊能力】を打ち明けてもらう方がいいですか?」

彼方「あ、ううん。だいじょうぶ。ごめんね、いったんそれは置いといて話を進めよっか」

果林「なにか気になることでもあった?」

彼方「えっとー…あんまりたいしたことじゃないから、今はいいや。後で時間が余ったら話させてもらうかも」

果林「わかったわ。彼方がそれでいいのなら」コク

彼方「とりあえず、今日目を覚ましてからどんな風に過ごしたのか、みんなに聞かせてほしいな」

しずく「私から話しましょうか」ノ スッ

彼方「うん、そうだね。お願いしていいかな」

しずく「はい」

 

199ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:14:23.90ID:Dc9V1hN/

しずく「私は、目を覚ましてすぐに自分の部屋を出ました。教室に向かうためです。

しずく「全員が近くにいる寮内よりも、校舎棟──教室内の方が安全じゃないかと考えたんです。

しずく「かすみさんはゲームを敗退してしまいましたから、残る一年生は私と璃奈さんだけ。この状況下なら、教室はほぼ完璧な条件で籠城できますから。

しずく「…まさか璃奈さんがゲームマスターの立場を捨てて秘宝を奪ってくるなんて思いもしませんでしたよ。

しずく「教室で一人で過ごしていたら、璃奈さんが入ってきて…いつもみたいに適当な会話を振ってくれたので、私、なんというか…安心してしまって。

しずく「このゲームが始まってから、璃奈さんのことが怖かったので…ほんの数日前まであんなに楽しく過ごしてたのにどうしてって、思っていたので…

しずく「今までみたいな普通の話ができて、気を抜いてしまったんです。

しずく「気がついたら璃奈さんがすごく近くまで来ていて、あっと思ったときには秘宝を奪われていて、私は意識を保ったまま倒れてしまいました。

しずく「意識はあるのに身体が動かなくて、去っていく璃奈さんを呼び止めることも、本当の気持ちを聞かせてってお願いすることもできなくて…

しずく「…しばらくして、皆さんが駆けつけてくださって、名前を呼んでくれる声は聞こえていたんですけど……なにもできなくて。ごめんなさい…」

 

201ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:18:07.40ID:Dc9V1hN/

エマ「しずくちゃんが謝ることなんか一つもないよっ」ギュッ

しずく「エマさん…」

エマ「だってそうでしょう、しずくちゃんはただ璃奈ちゃんとお話ししてただけなんだもの。私だって教室で果林ちゃんや彼方ちゃんと一緒にいたら楽しくお話ししたいもん!それってなにも悪いことじゃないよ!」ギュ…

彼方「璃奈ちゃん、今のしずくちゃんの話だけど、なにか付け加えることとかってある?」

璃奈「…私は裁判中の議論に直接口を出すつもりないから」

璃奈「ただ一つ言っておくなら、今の話はほとんど嘘。少なくとも私の認識とは違う。私は今日裁判が始まるまでしずくちゃんとお話ししてないし、一年生の教室に近づいてすらいない」

しずく「璃奈さん…」

璃奈「私は起こったことを全て把握してるから、あんまり発言するわけにはいかない。あくまでも『天王寺璃奈』という個体の観点から、さっきの点だけ伝えておく」

彼方「…わかったよ」

せつ菜「あのとき、教室にはしずくさんだけでなく璃奈さんもいたということですか…」

果林「どうやらそうみたいね」

彼方「えっと、」

果林「私から話すわ」

 

202ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:21:35.99ID:Dc9V1hN/

果林「私も今朝目を覚まして、すぐに部屋を出たのよ。しずくちゃんとは目的が違って、彼方の部屋を訪ねるつもりでね。

果林「ただ当然というか部屋には立ち入れなかったし、まだ彼方は目覚めていなさそうだったから、部屋の前で待っておこうと思ったの。

果林「それでなんとなく外を眺めてたら、しずくちゃんが校舎棟に行くのが見えてね。

果林「まだ目を覚ましてから一分とか二分しか経ってないくらいなのに、随分迷いのない足取りだったからどうしたんだろうと思って…彼方が目を覚ますまでには時間があるだろうし、様子を見にいくことにしたのよ。

果林「それで、一人で行ってもよかったんだけど、なにかあったときのためにせつ菜にも声を掛けて一緒に校舎棟へ向かったの。ね?」

せつ菜「はい。目を覚ましてから、これからどのように立ち回るのがいいかを考えようと思っていたところ、果林さんが訪ねてきてくださいまして。一緒に校舎棟へ向かいました」

果林「校舎棟に着いたときには、しずくちゃんの姿は見当たらなかったんだけど…すぐに見つかったわ。

果林「一年生の教室の前を通りかかったとき、扉の窓から中が見えてね、しずくちゃんが誰かと話しているみたいだった。

果林「私もせつ菜も扉に近づけないから、窓から覗いて見るだけだったんだけど、……見ていたら、突然しずくちゃんが倒れたの。

果林「びっくりして二人で呼びかけたんだけど、反応がなくて…せつ菜に彼方達を呼びにいってもらって、私は残ってしずくちゃんに呼びかけてて…後は、みんなと合流してからは知っての通りよ」

 

203ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:24:59.21ID:Dc9V1hN/

しずく「待ってください」

しずく「私が突然倒れたって、璃奈さんの姿は見えていなかったんですか?私の姿が見えていたなら、絶対に見えていたと思いますが…」

果林「それが、璃奈ちゃんの姿は見てないのよ。せつ菜もそうでしょう?」

せつ菜「はい。私達から見ていた限り、しずくさんは誰かと会話しているような素振りの後、ひとりでに倒れてしまったんです」

せつ菜「璃奈さんの姿が見えていたら、裁判が始まった時点ですぐに言及しています」

果林「そうね。倒れた理由がわからなかったからこそ、かなり驚いたんだもの」

しずく「…そんな…」

彼方「果林ちゃん達が璃奈ちゃんを見てたら、決定的だったんだけどね…」

エマ「でも当のしずくちゃん自身が言ってるんだよ。私は…しずくちゃんの言葉を信じる」

果林「それってつまり、璃奈ちゃんが犯人だと思うってことよね?」

 

204ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:28:20.64ID:Dc9V1hN/

エマ「うん…璃奈ちゃんのことを疑いたくなんかないけど、しずくちゃんの気持ちを考えたら…私は…」

せつ菜「……」ジッ

彼方「…エマちゃんは、彼方ちゃんがお部屋に迎えにいったんだよ」

彼方「お隣の果林ちゃんのお部屋を訪ねたけどお返事がなかったから、次に近いエマちゃんのお部屋に行ったの。135分を過ぎてすぐくらいだったはずだから、せつ菜ちゃん達に気づかれないようにしずくちゃんの秘宝を奪ってお部屋まで戻るような時間はなかったと思うよ」

せつ菜「!」

せつ菜「そ、そうですか…そうですね…」

果林「せつ菜とエマの話は、あまり聞くまでもなさそうね。二人とも、目を覚ましてからしばらくして私か彼方が訪ねるまで部屋にいた。それだけでしょう?」

せつ菜「は、はい」

エマ「私も…そうだよ」

彼方「……むむむ…」

 

205ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:31:42.05ID:Dc9V1hN/

整理すると、こうかな。

しずくちゃんは目を覚ましてすぐに校舎棟に向かった。
果林ちゃんはたまたまそれを見かけて、せつ菜ちゃんと一緒に追いかけた。
その先でしずくちゃんが教室で誰かと話してて、二人の目の前で倒れてしまった。
しずくちゃんが言うには話し相手は璃奈ちゃんで、璃奈ちゃんに秘宝を奪われたからそうなった。
ただし、果林ちゃんもせつ菜ちゃんも璃奈ちゃんの姿は見ていなくて、しずくちゃんがひとりでに倒れたように見えた。

同じくらいの頃に私が目を覚まして、エマちゃんのお部屋を訪ねた。
校舎棟から私達を呼びにきてくれたせつ菜ちゃんと合流して、すぐに果林ちゃんと合流した。
それからは──みんなでしずくちゃんに呼びかけてるうちにタイムリミットになって、裁判が始まった。

 

206ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:35:06.31ID:Dc9V1hN/

彼方「こんな感じだと思うけど、なにか補足とかある人、いる?」


シン…


せつ菜「状況を整理すると、私達の誰にもしずくさんの秘宝を奪うひまはなかったように思えますね」

エマ「……璃奈ちゃん以外はね」

彼方「エマちゃん…」

エマ「だってそうだよ、他のみんなは誰かと一緒に過ごしてたのに、璃奈ちゃんだけは誰とも一緒にいなかったんだもの」

せつ菜「ですが、私も果林さんも、璃奈さんの姿を見かけていないんですよ。しずくさんが身につけていた秘宝を直接奪ったのだとすれば、視界に入らないはずがありません」

彼方「まず、秘宝を奪ったのが璃奈ちゃんだとしてもそうじゃないとしても、しずくちゃんが倒れた瞬間は、一人だけだったんだよね?」

エマ「それは…璃奈ちゃんが、自分の姿を見えなくしてたらどう?」

エマ「璃奈ちゃんはなんでもできるんだよね?しずくちゃんには見えて、教室の外の果林ちゃん達には見えないようにすることもできるんじゃない?」

せつ菜「それは、さすがに…」

果林「そんなことをされちゃったら、このゲームは全然成り立たなくなるわよ」

 

207ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:38:33.51ID:Dc9V1hN/

彼方「…璃奈ちゃん、念のため…なんだけど」

璃奈「できる」

璃奈「できるかできないかで言えば、できる。今この場でだって、私自身を全員に認識させないようにすることも、その認識疎外を彼方さんだけに与えることも、当然できる」

彼方「…っ」

果林「あなたには自己防衛という概念がないのかしら」ハァ…

璃奈「議論に必要な情報なら、嘘を吐くつもりもないし黙秘するつもりもないだけ」

せつ菜「ま、まあ。ここで璃奈さんが『できない』と答えていたとしても、私達はその可能性を完全に切ることはできなかったと思います」

せつ菜「逆に、今の正直な回答こそが璃奈さんの潔白だと考えることも──」

しずく「もう一つ、今回の犯人が璃奈さんであることを決定的に裏付ける状況証拠がありますよ」

彼方「えっ!?」

せつ菜「それは、一体…?」

しずく「考えてみてください。私が秘宝を奪われたのは一年生の教室なんですよ」

果林「…ああ」

彼方「う、そっか…」

 

208ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:41:53.75ID:Dc9V1hN/

しずく「私はそもそも籠城したくて教室を訪れたんです。そんな中で、不用意に他の人の入室を許可すると思いますか?現に、果林さんとせつ菜さんは教室の入り口に近づくことすらできなかったんですよね?」

しずく「室内の人間から許可を貰わなくても教室に立ち入ることができるのは」

せつ菜「……その学年の方、だけ」

しずく「璃奈さんならそういう制約は無視して他の学年の教室にも立ち入れるんだと思いますけど、そもそも一年生の教室なら、もっとずっと話は簡単です」

エマ「一年生の璃奈ちゃんは、いつでも自由に一年生の教室に出入りできる。しずくちゃんの許可を貰う必要だってない、ってことだよね」

しずく「はい」

 

209ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:45:36.53ID:Dc9V1hN/

彼方「うう…考えれば考えるほど、璃奈ちゃん以外には有り得ないような…」

しずく「なぜ彼方さんは、そこまで璃奈さんが犯人であることを除外して考えたがるんですか?」

彼方「だって、やっぱり璃奈ちゃんが奪い合いに参加しちゃうのってあんまりにも不公平だと思うんだよ…」


ゲームが始まる前に、はっきりと『私はこの争奪戦から降りる』って璃奈ちゃんは言ったんだもん。
いくらルールに記載がないとはいっても、それで実は参加してましたっていうのは、盤外戦術が過ぎるというか。

それを抜きにしたって、


──璃奈「この世界は、ほぼ完全に私の管理下に置かれてる。オブジェクトを自由に配置して」

──視界の端に、必勝だるまがころんと落ちる。

──璃奈「自由に削除することもできるのに」

──そして廊下の隅には、もうなにもない。

──璃奈「01に変換された彼方さんの動きを止めることくらい、造作もない」


璃奈ちゃんは『強過ぎる』。
一応は議論を経て判決を下すことを推奨してる中で、私だけじゃなく他の誰も想定できないような能力を駆使されたら、ゲームは体を為さなくなっちゃう。

そんななりふり構わないやり方をするくらいだったら、最初からこんなゲームは提案しないと思う。
全員の動きを止めて、ただ私の意識を乗っ取っちゃえばそれで話は終わるんだもん。

だから、ぎりぎりまで犯人が実は璃奈ちゃんじゃない可能性を考えたい…

 

210ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:49:00.65ID:Dc9V1hN/

彼方「むむむ~~……」グヌヌヌ…

せつ菜「…」

せつ菜「まだ、可能性として考えられる余地があります」

彼方「えっ…」

せつ菜「いたずらに議論を引っ掻き回すだけかと思って言及していませんでしたが、彼方さんがここまで諦めずに考えているのだから、私も出し惜しむことはやめます」

せつ菜「ルール5を見てください」スッ


全員の目がさっとホワイトボードに集まる。
ルール5、それは「秘宝を奪われること」について記したルール。


5.
秘宝を失ったメンバーはその時点で意識を失う(「秘宝を失う」とは、自分の秘宝に自分以外の誰か一人だけが触れている状態になることを指す)


せつ菜「わかりますか?」

せつ菜「厳密には、自分の手元から秘宝が離れることと、意識を失うことは、全く同じタイミングではないんです」

せつ菜「すなわち、私と果林さんはしずくさんが倒れる瞬間を目撃しましたが、あの時点で──しずくさんが一年生の教室にいることを私達が発見した時点で、すでにしずくさんは秘宝を持っていなかった可能性があるんです」

彼方「……!」