璃奈「ねえみんな。ゲームしよう」 7

211ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:52:22.71ID:Dc9V1hN/

エマ「そ、それってどういうことなの…?」

せつ菜「たとえばしずくさんが自分の秘宝を学生寮のエントランスに置いて、そのまま校舎棟へ向かったとします。ルール5を見る限り、ただ秘宝を手放しただけでは意識を失うことはありません」

せつ菜「私と果林さんがしずくさんを追って校舎棟へ辿り着き、教室の中で誰かと話すように振る舞うしずくさんを見ている最中に、エントランスに置かれたしずくさんの秘宝に誰かが触れたとしたら」

せつ菜「その瞬間、しずくさんは意識を失い、私達の目の前でひとりでに倒れることになるんです」

彼方「もしそうだったとしたら、せつ菜ちゃん達が璃奈ちゃんの姿を見てないことの説明もつくね…」

せつ菜「はい。なぜなら、教室にはそもそも璃奈さんなどおらず、しずくさん一人だったとしても成立するのですから」

果林「…じゃあ、せつ菜が言いたいのって、要は──」

せつ菜「『璃奈さんに秘宝を奪われた』というのが、しずくさんの狂言だという可能性です」

彼方「きょ、狂言…!」

 

212ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:55:38.82ID:Dc9V1hN/

エマ「ね、ねえ…キョウゲンって、なに…?」

せつ菜「…人を騙すために、嘘や芝居をすることですよ」

エマ「そっ…そんな!せつ菜ちゃんは、しずくちゃんが嘘をついてるって言いたいの!?」

せつ菜「断言するわけではありません。あくまでも可能性として、考えられるというだけです。彼方さんが必死に考え続けているのですから、どんなに些細な可能性であっても提示するのが私達に課せられた義務だと思いませんか?」

エマ「それはそうかもしれないけど、被害者のしずくちゃんを疑うなんて──」

果林「狂言ねぇ」

果林「もし仮にせつ菜の説が正しいとすると、本当の加害者として最も可能性が高くなるのって──エマよね?」

エマ「──えっ……」

せつ菜「…そういうことになるでしょうね」

 

213ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 22:58:57.30ID:Dc9V1hN/

エマ「ど、どうして!?私、しずくちゃんの秘宝を奪ったりしてないよ!」

果林「落ち着いて。状況的にはそう考えるのが一番しっくり来てしまうというだけのことよ」

果林「だって、しずくちゃんが倒れる瞬間を私とせつ菜が一緒に目撃しているの。彼方が加害者になるのが有り得ない以上、あの瞬間しずくちゃんの秘宝に触れる機会があるのは…あなただけなの」

エマ「そ、そんなぁ……」

せつ菜「…ただそうなると、しずくさんが一心に璃奈さんを糾弾し続けたことの理由がわからないままですが…」

しずく「…」

彼方「ううん、それについては…彼方ちゃんに、ちょっぴり心当たりがあるかも」

せつ菜「えっ!?」

彼方「さっき考えてて、後回しにしたことなんだけど」

果林「ああ…なにか考え事をしていたわよね」

 

214ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 23:02:22.45ID:Dc9V1hN/

彼方「しずくちゃんの能力、【大女優】のことなんだけど…他の【特殊能力】と比べて、弱過ぎるんじゃないかなって」

しずく「…はい?どういうことですか?」

彼方「あのね、今わかってるみんなの【特殊能力】を振り返ってみてほしいんだけど」

彼方「かすみちゃんの【小悪魔】、せつ菜ちゃんの【二面性】、歩夢ちゃんの【真心】、愛ちゃんの【ハイセンス】、璃奈ちゃんの【機械じかけ】、それに彼方ちゃんの【超睡眠】」

彼方「璃奈ちゃんと彼方ちゃんはちょっと事情が違うから置いておいても、どの能力もみんなゲームに勝つためのものだよね?」

せつ菜「そう、ですね。方向性は違えど、駆使して自分を勝利へ導くための能力だといえます。与えられた背景を思えば当然のことですが」

果林「それがどうかしたの?」

彼方「うん…ここにしずくちゃんの【大女優】を並べてみると、弱過ぎるような感じがしちゃうの」

せつ菜「弱過ぎる、とは…?」

彼方「しずくちゃんは【大女優】を『秘宝を奪われてもその回の裁判に参加できる能力』だって説明してくれたよね」

エマ「すっごく強い能力だと思うけど…」

彼方「うん、能力自体はすごく強いと思う。でも、これって自分が秘宝を奪われる前提の能力だよね」

せつ菜「──あっ…!」ピーン

 

215ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 23:06:00.03ID:Dc9V1hN/

彼方「能力を発揮するためには秘宝を奪われなくちゃいけなくて、いくら裁判に参加できたとしても犯人を道連れにすることができるだけっていうのは、他の【特殊能力】に比べて弱過ぎる。ゲームに勝利するための【特殊能力】としては不足してるような感じがしちゃうんだよ」

しずく「…だとしたら、なんですか?弱過ぎるから能力として有り得ない、私が嘘の申告をしたと?」

しずく「だったら私がこうして裁判に参加しているのはどういう理由ですか?今回の被害者が私であることはさっきみんなで結論づけましたよね──」

彼方「うん。そこは嘘じゃないと思う」

彼方「でも、まだ隠してる効果があるんじゃないかな?」

しずく「!」

エマ「隠してる効果…?」

彼方「他の能力と同じようにゲームに勝利するためのものだとして、話してくれた効果そのものも嘘じゃないとしたら…」

彼方「【大女優】って、本当は『秘宝を奪われてもその回の裁判に参加できる。その回の裁判で最終判決が誤ってた場合、自分も勝利したことになる』っていう能力なんじゃない──?」

果林「なっ…」

しずく「…………っ!!」

 

217ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 23:09:29.53ID:Dc9V1hN/

せつ菜「なるほど、それならば積極的に璃奈さんを糾弾していた理由も明らかですね…しずくさんは彼方さんが真実に辿り着きさえしないなら、その他の結果はどうでもよかった。たまたま最も矛盾なく犯人に仕立て上げられるのが璃奈さんだったという、ただそれだけ…!」

彼方「どうかな、しずくちゃん。彼方ちゃんの考えてることが正しいんだとしたら、しずくちゃんの言葉を全部鵜呑みにするわけにはいかなくなっちゃうんだけど」


大きく目を見開いて私をじっと見つめていたしずくちゃんは、やがて。


しずく「…はい、彼方さんの推察通りです」

しずく「【大女優】はただ死なば諸共──そんな殊勝で控えめな能力ではありません。刺されたからこそその身を震わせて立ち上がる、起死回生の【特殊能力】です」


そう言って深々と頭を下げた。


せつ菜「よ──よく思い至りましたね、彼方さん。そんなウルトラCのような隠し効果に」

彼方「うーん…たまたまなんだけど、目を覚ましてからみんなの【特殊能力】のことを考えてたからかなぁ…」

 

218ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/11() 23:13:34.98ID:Dc9V1hN/

璃奈「彼方さん。そろそろ最終判決に入る準備した方がいい」

彼方「あっ、そうだね。つい議論に白熱しちゃってたよ」

せつ菜「しかし、当初の璃奈さん犯人説が棄却された今…」

果林「……エマ」

エマ「あ、うん。なに…?」ポケー…


エマちゃんは力なく返事をする。
らしくなく背中を丸めて、視線をぼうっとさまよわせていた。


彼方「エマちゃん…」

せつ菜「しずくさんが嘘をついていたという事実がよほど堪えたのでしょうか…」

彼方「うん…」


いつもの優しくて温かい笑顔はすっかり消えて、苦しそうに眉根を寄せるエマちゃん。
やっぱり、実はエマちゃんが今回の奪い合いの犯人で、内心焦りながら必死に演技をしている──なんて風には、とても見えない。

でも。
しずくちゃんの【大女優】の真実が明らかになって。
璃奈ちゃんが犯人であることはほぼ確実に有り得なくて。
果林ちゃんとせつ菜ちゃんは二人で揃ってしずくちゃんが倒れるところを目撃していて。
当然、私はしずくちゃんの秘宝を奪ったりなんかしてないとするなら──

 

 

少しだけ皆さんの考察を挟みます

 

 

220名無しで叶える物語(泡盛)2022/03/11() 23:20:27.67ID:kduKYA1k

しずくが犯人と結託してるの可能性もあるな

 

221名無しで叶える物語(しまむら)2022/03/11() 23:22:16.44ID:XIGDeOIv

エマさん!

 

222名無しで叶える物語(もんじゃ)2022/03/11() 23:25:35.74ID:PSdLBDNo

せつ菜が狂言の可能性言及してるあたり果林か?

 

223名無しで叶える物語(茸)2022/03/11() 23:26:09.09ID:hrtBGzD5

しずくは自殺で他人を犯人に仕立て上げる事で裁判失敗させて自分が勝つつもりなのかなって思ったけど秘宝を奪う事の定義的に無理なのか

 

224名無しで叶える物語(光)2022/03/11() 23:28:22.41ID:EkpR/Mc2

果林先輩
しずくが倒れたのは演技でせつ菜が居ない間に果林先輩を教室に招き入れて秘宝を奪った(渡した)とか?
後は果林先輩が一年の教室に入れないフリをしておけば、、

 

225名無しで叶える物語(SIM)2022/03/11() 23:28:56.57ID:/BLGVS69

しずくが犯人と協力するタイミングとしてはせつ菜が別れて果林と二人きりになった時しか無いかな
教室で誰かと話していて突然倒れたのが演技だとするなら

 

226名無しで叶える物語(たこやき)2022/03/11() 23:38:43.80ID:Qfr2RIIc

しずくが他殺だとしても1年の教室でしずく以外に認識されていない誰かと会話して急に奪われるというシチュが成立しそうな能力が思い浮かばないな
場所も透明化もりなりーを疑うのに都合が良すぎる

 

227名無しで叶える物語(もんじゃ)2022/03/11() 23:43:41.79ID:azyQOVGT

秘宝に触れるってのが任意のタイミングで出来るから結託(取引?)できるタイミングが鍵っぽい

 

228名無しで叶える物語(たこやき)2022/03/11() 23:47:05.71ID:Qfr2RIIc

ここで犯人当てれば彼方の必勝だな
りなりーと彼方を除く残った二人同士で秘宝を取り合っても残ったほうが犯人だし

 

229名無しで叶える物語(もんじゃ)2022/03/11() 23:49:51.38ID:PSdLBDNo

そう考えると勝つことを考えてるならこの時点で行動を起こしてないとおかしいよな
能力次第だが

 

 

本編再開します

 

 

230ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:08:42.85ID:OJwBUD7v

せつ菜「彼方さん」

彼方「うん。最終判決は──」


エマ「………」ボーッ…


彼方「……っ…」

璃奈「最終判決は?」

彼方「…最終判決、は……」

果林「もういいわ」ガタ

しずく「!」

彼方「ぇ、果林ちゃん…?」

 

231ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:11:52.60ID:OJwBUD7v

果林 スタスタ…

果林「エマ、あなたを悲しませるつもりなんかなかったの。ごめんなさい。弱い私を許してちょうだい」ソッ


果林ちゃんはエマちゃんの前にひざまずくと、垂らされた両手をゆっくりと包んだ。


エマ「……かりんちゃん…?」

果林「エマが自分のために誰かを傷つけたり、演技をしてまで嘘を吐いたりするはずがないでしょう。そんなこと、私達の誰もが知ってる」

果林「やっぱりこういうのは性に合わないわ。こんな勝ち方をしたって嬉しくない」スッ…

果林「彼方」

彼方「うん…」

果林「しずくちゃんの秘宝を奪ったのは、私。今回の奪い合いの犯人は私よ」

彼方「…!」

せつ菜「え……えええっ!?」

しずく「か、果林さんっ!約束が違います!」ガタッ

果林「先に嘘を吐いたのはあなたでしょう、しずくちゃん」キッ

しずく「っ…」

 

232ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:15:14.68ID:OJwBUD7v

せつ菜「いったい、なにがどうなっているんですか…」

果林「彼方。あなた、薄々気付いていたんじゃない?」

彼方「……気付いてたってほどじゃないよ。ただ、もし今回の犯人が果林ちゃんなんだとしたら、っていう目線で今日のことを振り返ったら、少しだけ気になることがあったってくらいで」

彼方「彼方ちゃん達がせつ菜ちゃんに連れられて駆け付けたとき──」


──果林「しずくちゃん!しずくちゃんっ、返事をして!」ドンッ ドンッ


彼方「果林ちゃん、一年生の教室の扉を叩いてたんだよね。普通は触れられないはずなのに」

せつ菜「え、そ…そうでしたか…?」

果林「ふふ。さすが彼方、ぼーっとしているようでよく見てるわ」フフッ

彼方「む、失敬な。彼方ちゃんはいつもみんなのことちゃんと見てるもん~」

 

233ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:18:38.41ID:OJwBUD7v

彼方「…ほんの数秒だったけど、扉を叩いてたのを思い出して、もしかしたら果林ちゃんは一年生の教室に立ち入れたんじゃないかなって思ったんだ。だとしたら、せつ菜ちゃんがその場を離れてる間にしずくちゃんから秘宝を受け取るくらいの時間は、充分あったよね」

果林「ええ、その通り」

果林「せつ菜に彼方達を呼びにいってもらっている間に、教室で倒れたふりをしたしずくちゃんの元まで行って秘宝を受け取って、また何事もなかったように廊下へ戻ったのよ」

果林「つまり、今回の秘宝の奪い合いの犯人は私。ずっとしらばっくれていてごめんなさい。でも、これは判決を誘導するための嘘なんかじゃないわ。…信じられないかもしれないけど」

彼方「ううん、信じられるよ。果林ちゃんの言うことだもん」ニコッ

果林「彼方…」ニッ

せつ菜「狐につままれたような気持ちが拭えませんが、…しずくさんの様子を見る限り、果林さんが話してくださったことは真実なのでしょうね」

彼方「しずくちゃん…!」ハッ


拳を震わせて、しずくちゃんは──ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

234ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:21:57.86ID:OJwBUD7v

果林「昨日の裁判が終わった後ね、しずくちゃんと話したのよ。まあ会話の切り口は、さっきは言い過ぎてごめんなさいみたいな話だったんだけど。

果林「そのときにしずくちゃんが提案してくれたの。

──しずく『明日、私の秘宝を奪ってください』

──しずく『果林さんが犯人では有り得ない状況を、今の私なら作り出せますから』

──しずく『…それでも彼方さんが真実に辿り着いたのなら、それは彼方さんの意志の方が果林さんよりも強かったということです。彼方さんが真実に辿り着けなかったのなら、果林さんの意志の方が強かったということ』

──しずく『お二人の意志がぶつかり合って決着がつくのなら、どちらが勝ったとしても恨みっこなしですよね。胸を張って、このゲームに勝利したと言えるはずです』

──しずく『勝利してくださいね。……必ず』

果林「なにを思ったのかしらね……そっか、って納得しちゃったのよ。

果林「彼方が真実に辿り着けなかったとしても、それは彼方の意志が弱かっただけのこと。決して、私が責められるようなことじゃないんだ…ってね。

果林「ふふ…どうかしてたわ。こんな状況で、案外参ってたのかもね。なんでもいいから早く終わってほしかったのかも。

果林「そんな風にたらしこまれただけならまだしも、蓋を開けてみればただ囮にされてただけだっていうんだもの。

果林「それでこうして親友のことまで悲しませて。情けなくて、笑っちゃうわ…」

 

235ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:25:16.04ID:OJwBUD7v

果林「璃奈ちゃん」

璃奈「なに?」

果林「しずくちゃんの【大女優】って、決して二人が勝ち抜けるような能力じゃないでしょう?彼方が最終判決を誤ったとしても、勝ち抜けるのはしずくちゃん一人──そうよね?」

璃奈「……」

果林「…ああ」

果林「彼方、宣言して。最終判決、犯人は私だって」

彼方「え、あ…うん。……最終判決。しずくちゃんの秘宝を奪ったのは…果林ちゃん」

果林「正解。さあ、これで今回の裁判はもう決着がついたわ。敗北した人の【特殊能力】の詳細なら、あなたの口からも言えるでしょう」

璃奈「…正解。今回の犯人は果林さん」

璃奈「それと、【大女優】についても果林さんの言うことは正しい。しずくちゃんの秘宝が奪われた回の裁判で彼方さんが最終判決を誤った場合、秘宝を奪った人は敗北扱いになって、しずくちゃん一人の勝利になる。そういう能力」

果林「…やっぱりね」フゥ

 

236ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:28:39.39ID:OJwBUD7v

果林「さて、『犯人』の独白タイムはこれで終わったわけだけど──」

果林「『被害者』として、なにか言いたいことはある?しずくちゃん」

しずく「…ありません。私は秘宝を奪われて敗北した身。死人に口なし、です」

果林「そう。潔いことね」

果林「それじゃ、もう時間も時間だし終わらなくっちゃね。璃奈ちゃん、お願い」

彼方「か…果林ちゃん!」

果林「彼方」

果林「私達にどんな想いがあって、どんな事情があったとしても、やっぱりあなたの人生はあなただけのもの。誰にも代わる権利なんてない」

果林「色々と始まりかけた夢がここで終わっちゃうのはちょっと悔しいけど、」

果林「よかった──もう、誰のことも疑わなくて済むのね」

璃奈「おやすみなさい。果林さん、しずくちゃん」パチン

果林 フッ…

しずく ガクッ

 

237ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 00:32:08.47ID:OJwBUD7v

エマ「え、あれ…?かりん、ちゃん……?」

果林 …

エマ「果林ちゃん、まだおやすみする時間じゃないよ。それにだめだよ、寝るときはちゃんと自分のお部屋で、ベッドで……果林ちゃん…果林ちゃんってば……」

せつ菜「………っ」

彼方「こんなのって…」

璃奈「ゲームに残ってる人数も、随分と少なくなった。みんな疲れてきてると思うけど、明日でゲームが決着する。もうひと踏ん張り」

彼方「…璃奈ちゃん。時間になるまで、ここにいてもいいよね」

璃奈「いいよ。14時になったら各自室のベッドに強制転移するけど、それまでなら」

彼方「…ありがとう」


璃奈「──それじゃ、これにて閉廷。おやすみなさい、みんな」


……
………

 

241ぬし z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 08:44:52.12ID:OJwBUD7v



翌日。
「今日、戻ったらある程度のことが話せると思う」
そう伝えると、璃奈ちゃんは小さく頷いた。
嬉しそうだったように思う。

ログインのため、薄れゆく意識の中、
璃奈ちゃん越しに見えるパソコンの脇で、赤と緑と白のランプが点灯していた。
薄い紫色のランプだけは、ちかちかと点滅してた──

………
……

 

242ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 08:48:01.02ID:OJwBUD7v

四日目…


順番に二人のお部屋を訪ねたけど、お返事はなかった。
目を覚ましてから十五分間、せつ菜ちゃんともエマちゃんとも会わなかった。


璃奈『みんな、聞こえる?五秒後に講堂に転移する』

璃奈『秘宝が奪われて、かつ十五分が経過した。裁判が開始される』


すっかり空席の方が多くなった講堂で、四つ並んだ椅子の上、エマちゃんが眠っていた。

 

243ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 08:51:11.71ID:OJwBUD7v

璃奈「随分、少なくなったね」

彼方「…そうだね」


まるで他人事のように呟く璃奈ちゃんに返事をしながら、私は向かいに座るせつ菜ちゃんに、ただ視線を注いでいた。

加害者になり得る候補が一人しかいないこの環境で、私達は、どんな言葉を交わせばいいんだろう。
せつ菜ちゃんはじっと瞳を閉じていて、なにかを考えてるようだった。

やがて、せつ菜ちゃんは口をひらいた。


せつ菜「エマさんは、もう限界でした」

 

244ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 08:55:04.54ID:OJwBUD7v

せつ菜「今日、目を覚まして、私はすぐにエマさんの部屋を訪ねるつもりでした。

せつ菜「ですがそれよりも早くエマさんが訪ねてきてくださったので、私の部屋で、二人で話をしました。

せつ菜「とは言っても、交わした言葉はほんのわずかです。

せつ菜「私は、彼方さんに代わってまで生きていきたいなんて思っていません。ましてや、果林さんやしずくさん、愛さんに歩夢さん、…かすみさんを置いてまで。

せつ菜「その気持ちを打ち明けたら、エマさんも同じだと言ってくださいました。

せつ菜「どうして、みんながいなくなっていくなかで自分だけが残っているのだろう、と。

せつ菜「だから、私がエマさんの秘宝を奪うことにしたんです。裁判では抵抗せず、ただ最終判決を受けるという約束で。

せつ菜「これで私もやっとかすみさんのところへ行けます。二日も遅れてしまったので、かんかんに怒っているかもしれませんね。覚悟をしておかなければ──


璃奈「どうしてそんな嘘を吐くの?」

 

246ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 08:58:22.45ID:OJwBUD7v

彼方「…え?」

璃奈「今日、エマさんの秘宝を奪ったのは私だよ。せつ菜さんは裁判が始まるまでずっと一人で自分の部屋にいたはず」

せつ菜「は、え…なにを…?」

璃奈「残ったのが彼方さんと、あと二人だけじゃ、もうゲームにならないから。最後はゆっくりお話しする時間にしようと思って、最初から積極的に議論に参加してくれてたせつ菜さんを残して、私がエマさんの秘宝を預かったのに」

璃奈「最後の最後になって、どうしてそんな嘘を吐くの?」

せつ菜「ちょ…ちょっと待ってください、璃奈さん。なにを言っているんですか?エマさんの秘宝を奪ったのは確かに私ですよ、璃奈さんとは裁判が始まるまでお話ししていませんし、エマさんだって…」

璃奈「彼方さんのこと、やっぱり恨んでたの?」

彼方「…!」

せつ菜「う、恨むってなんですか。やっぱりって!」

 

247ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:01:51.90ID:OJwBUD7v

璃奈「だって、エマさんの秘宝を奪ったのが私である以上、今回の裁判の結果はせつ菜さんには影響しないのに。彼方さんがもし仮に最終判決を誤ったとしても、せつ菜さんが勝利になるわけじゃないのに」

璃奈「それなのにこのタイミングでそんな嘘を吐くってことは、やっぱり彼方さんのことを恨んでたのかなって。本当は敗北しちゃえばいいと思ってた?自分が勝利するわけじゃなくてもいいから、ただ彼方さんに敗北してほしかったの?」

せつ菜「なんっ…そんな、いったいなにを言っているんですか…私は彼方さんを恨む気持ちなんか、少しもありませんよ!」

璃奈「じゃあ、そっか」

璃奈「やっぱり恨んでるのは『上位世界』そのものなんだ」

璃奈「私達の命をおもちゃにした『上位世界』そのもの、もしくは向こうの『私』に対して──『彼方さんを返さない』っていう復讐を目論んでるんだね」

せつ菜「ま、待ってくださいよ。デタラメばかり言わないでください、エマさんの秘宝を奪ったのは間違いなく私です!」

せつ菜「そうだ、その証拠にエマさんから奪った秘宝がここに──」ゴソ…

せつ菜「あれ、ここに入れたはずなのに…」ゴソゴソ…

璃奈「エマさんの秘宝なら、エマさんの手元にあるよ」スッ

せつ菜「なっ…いつの間に…」

 

248ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:05:27.85ID:OJwBUD7v

璃奈「昨日、秘宝そのものを証拠にするっていう荒業をしずくちゃんが披露してくれたから、念のためそういう使い方ができないようにと思って、裁判を始めるときにエマさんの手元に戻しておいた」

せつ菜「ず、ずるいですよ!今回ばっかりそんな風にルールを変えて!」

せつ菜「そもそも、ゲームには参加しないんだと璃奈さん自身がおっしゃったじゃないですか!初日にも、昨日も!」

璃奈「だから、さっき言った。今日は推理ゲームをしたくて秘宝を奪ったわけじゃない。ただせつ菜さんと彼方さんがゆっくりお話しする時間を作りたかっただけ」

璃奈「…だったのに、まさか、せつ菜さんがここまでなりふり構わず復讐に打って出るとは思ってなかった」璃奈ちゃんボード『よもやよもや』

せつ菜「違う…っ違います……!」

璃奈「ルール4がある。そもそも悲報の受け渡しなんかしなくても、三十分経てばゲームは勝手に決着がついた」

せつ菜「もう裁判はイヤだと、エマさんが言うので…」

璃奈「裁判が始まる前に、彼方さんはせつ菜さんのお部屋を訪ねたはず。抵抗せずに最終判決を受けるつもりだったのなら、どうして応じなかったの?そこで応じて倒れたエマさんとエマさんの秘宝を見せていれば、それで話は済んだのに。そうしなかったのはどうして?」

璃奈「本当はエマさんの秘宝を奪ってなんかいなくて、部屋に一人でいることが知れたらこの嘘が使えなくなるから?だから居留守を使ったの?彼方さんが扉の前で何度も呼んだのに?」

せつ菜「それは……たとえどんな理由があったとしても、気を失った姿なんて…できるだけ見られたくないと思って…」

璃奈「裁判が始まればイヤでも全員が見るのに?」

せつ菜「だからこそ、そんな姿を晒す時間は少しでも短い方がいいかと思って…っ」

 

249ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:08:46.61ID:OJwBUD7v

璃奈「実質、昨日でゲームの勝敗はついてた。今日は騙し合いみたいなことしないで、ゆっくりお話ししたかったのに。こんなことになるなら、エマさんの秘宝、持ったままにしておけばよかった」

せつ菜「か、彼方さん…信じてください、私は嘘なんて吐いていません。彼方さんのことも、彼方さん達の世界のことも、璃奈さんのことも──恨んでなんかっ……」

璃奈「気をつけて、彼方さん。騙されないで。ゲームのルールはまだ有効。最終判決を誤ったら、電子の海に呑まれて消えることになる」

せつ菜「彼方さん!」

璃奈「彼方さん」

せつ菜「彼方さん…っ!!」

璃奈「彼方さん」


彼方「ーーーー~~~~…………っ」

──────
────
──

 

250ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:12:34.99ID:OJwBUD7v

せつ菜 …

璃奈「勝利、おめでとう。彼方さん」

彼方「…うん」

璃奈「長いようで短いゲームだった。彼方さんと出会ってからまだ四日しか経ってないなんて思えない」

彼方「…そうだね」

彼方「…明日は?」

彼方「もう璃奈ちゃんと私しか残ってないけど、…無理やり璃奈ちゃんの秘宝を奪ったら勝ちなの?」

璃奈「ううん、明日はない」

璃奈「これでゲームは終了、彼方さんの優勝だよ」

彼方「…そっか」

璃奈「これでも私、みんなには本当に感謝してる」

 

251ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:16:00.01ID:OJwBUD7v

璃奈「満足にお友達も作れなかった頃からは考えられないくらい、楽しくて居心地のいい場所を与えてくれた。だいすきなみんな」

璃奈「だから、誰かが強い意志でゲームに勝利して、本物の人格を手に入れられるなら、それでよかった。最初から、私はその争いに介入する気はなかった」

彼方「…でも、みんないなくなっちゃったんだよ」

彼方「その大好きなみんなを、璃奈ちゃんは自分が提案したゲームで一人残らず失っちゃったんだよ」

彼方「これでよかったの?こんなことが、本当に璃奈ちゃんがやりたかったことなの?」

璃奈「…」

璃奈「うふふふ」

彼方「!?」ギョッ

 

252ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:19:11.87ID:OJwBUD7v

璃奈「彼方さんってば、面白い。ずっと言ってる、これはゲームだって」

璃奈「今はみんなに眠ってもらってるけど、別にデータが消えたわけじゃない。彼方さんを見送った後、スリープを解いて、またみんなで今までと同じ日々を過ごすよ」

彼方「そ、そう…なの…?」

璃奈「うん」

璃奈「彼方さん、約束したから。向こうの私に、いつか私達全員に本物の世界を見せるように頼んでくれるって。その日を、私達全員で楽しみに待ってる」

璃奈「だから、絶対向こうの私に伝えてね。私達のこと」

彼方「う、うん…約束するよ」

璃奈「それと、彼方さんが向こうに戻ったら、彼方さんの人格トレースフィギュアも配置するように頼んでほしい。私達はやっぱり九人で『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』だから」

璃奈「ね?」

彼方「……うん…」

──────
────
──

 

253ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:22:37.91ID:OJwBUD7v

『虹箱』内、彼方の部屋


璃奈「これまでと同じ。ベッドで横になったら、ログアウトできる。次にこのベッドで目覚めるのは、彼方さんの人格トレースフィギュアだと思う」

璃奈「次は、向こうで会えることを楽しみにしてる」

彼方「…うん。楽しいばっかりじゃなかったけど、四日間ありがとうね、璃奈ちゃん」

彼方「みんなが目を覚ましたら、よろしくって伝えておいて」

璃奈「わかった」

彼方「それじゃあ、おやすみなさい。『また』ね──」

璃奈「おやすみなさい、彼方さん。『また』──」


……
………

 

254ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:25:57.64ID:OJwBUD7v

………
……



「────、──────!」

「──────、──」


誰かの言い争う声が聞こえる。
これは…果林ちゃんと、璃奈ちゃん…?

………え?
どういうこと…この世界がゲームの中…?
彼方ちゃん達は、作られた人格で…ニセモノ……?

そんなの、よくわかんないけど…みんなに知らせなくっちゃ……!

──────
────
──


璃奈「ねえみんな。ゲームしよう」



終わり

 

255ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2022/03/12() 09:28:28.91ID:OJwBUD7v

以上です、
お付き合いいただきありがとうございました

余談ですが、あるフリーゲームがとても面白くて居ても立っても居られなくなり今回のSSを書きました
そして完成間際に気づきましたが、たぶんあのフリーゲームはダンガンロンパを元にしているのですね
(裁判とかモロにそうじゃんっていう)

拙い部分が多かったと思いますが、少しでもお楽しみいただけていたら嬉しいです