璃奈「ねえみんな。ゲームしよう」 2

38ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:03:21.89ID:gNbk3Ma2

璃奈「──全員行き渡った?」


璃奈ちゃんのその言葉を皮切りに、みんなが自分の手元から視線を上げて周りを見渡す。
表情は一様に戸惑いばかりで、かく言う私だって同じだ。

私の──みんなの手の中には、カラフルな宝石が握り締められている。


愛「りなりー、これは?」

璃奈「『秘宝』」

かすみ「秘宝…?」

璃奈「一人格ごとに一つ、秘宝を配った。せっかくだから色はみんなのイメージカラーにしてみた」璃奈ちゃんボード『ささやかな気遣い』


確かに、私の手元にある宝石はすみれ色に輝いている。


せつ菜「一人格に一つずつ、ですか…?」

璃奈「そう。ゲームの内容は単純、その秘宝をお互いに奪い合うの」

「「「!!」」」

 

39ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:06:58.24ID:gNbk3Ma2

璃奈「その秘宝はそれぞれ好きな形に変えられるから、肌身離さず身に着けるようにしてほしい。ただ、ポケットに入れたりペンダントにして首にかけたりするくらいはいいけど、呑み込んじゃったりして容易に奪えないような状態にするのは禁止」

かすみ「う、奪うって…暴力ってこと?」

歩夢「私、みんなにそんなひどいことできないよ…!」

璃奈「別に暴力をふるわなくても、こっそり後ろから近づいてパッとひったくるのでもいいし、『ちょうだい』って言って貰っても構わない。要は相手から秘宝を引き剥がせばそれでいい」

歩夢「だからって…」

璃奈「もちろん、それがイヤだったらやらなくていい」

歩夢「え?」

璃奈「誰かの秘宝を奪うのがイヤなら、無理に奪わなくていい」

果林「それでいいなら、みんなそうするわよね…?」

璃奈「誰かに秘宝を奪われて、椅子に座る権利を失うだけだから」

かすみ「そ、そんな…」

 

40ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:10:51.51ID:gNbk3Ma2

せつ菜「つまりはこういうことですか」

せつ菜「全員でお互いの秘宝を奪い合い、最後まで奪われずに残った人が勝利となる。そして勝利した人が、優勝杯を手にする」


優勝杯、という言い方は独特のものだけど、みんながぼんやりと理解したことをせつ菜ちゃんがはっきりと言葉にしてくれた。

璃奈ちゃんはこくりと頷く。


璃奈「その通り。さすが、こういう展開には物語で慣れてる?理解が早くて助かる」

せつ菜「まあ、物語ならば好きな方でわくわくする展開であることは否定しませんが」

せつ菜「いい趣味とは言えませんね、璃奈さん」ギロ

彼方「……っ」

 

41ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:14:19.98ID:gNbk3Ma2

エマ「ねえ、彼方ちゃん」

エマ「私達のことはいいから、自分の世界に帰りなよ」

彼方「ぇ…」

かすみ「え、エマせんぱい!?」

エマ「だってそうでしょ。秘宝の奪い合いなんて、彼方ちゃんは得るものもないのに危険に晒されるだけだよ」

かすみ「ちょ、ちょっと!いいんですか!?それじゃかすみん達、結局このまま──」

エマ「かすみちゃん。みんなも、よく考えて」

エマ「秘宝の奪い合いなんて言ってるけど、これ、誰が彼方ちゃんを殺すかってお話だよ?」

かすみ「こ…ッ」

エマ「彼方ちゃんは、私達と元々住んでる世界が違うんだもの。私達の事情に巻き込まれる必要なんかないはずでしょ」

しずく「それは、確かにそうですね…」

エマ「コピーとして産み出された、そのことに言いたいことがあるのはみんな同じだと思う。でも、それは彼方ちゃんにぶつけることじゃないよね。私達全員がそれをちゃんと理解していれば、秘宝の奪い合いなんて起こらないよ」

彼方「エマちゃん…」

エマ「ね、璃奈ちゃん」

エマ「私達の気持ちを汲んで提案してくれたんだっていうことはわかってるよ。でも、やっぱり違うと思うの。だからこの秘宝は必要ないよ」

璃奈「…全員がそれで納得するのなら、いずれにせよ私は退くことを決めた身だから」

エマ「みんな、いいよね?」

 

42ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:17:48.66ID:gNbk3Ma2

ぐるりと伝うエマちゃんの視線。

当然と頷く子、難しく押し黙る子、不安そうに周りを見る子、どこか安心したように息を吐く子。
それぞれ反応は違ったけれど、一向に反対意見の手が挙がる様子はなかった。


エマ「これがみんなの気持ちだよ、璃奈ちゃん」

璃奈「わかった」

璃奈「それじゃ、この話はなかったことにしよう」


その一言が、張り詰めていた空気をふっと緩いものに変えた。


エマ「この宝石、返すね。とってもキレイだからなんだかもったいないけど」コト

しずく「高校生が持つには少し重過ぎますね」コト

歩夢「こんなに大きな宝石、指輪にしたらすごく迫力あるよね」コト


一人、一人、順番に宝石を返す。
璃奈ちゃんの足元には三つ四つと宝石が増えていく。

──でも。

 

43ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:21:20.92ID:gNbk3Ma2

せつ菜「かすみさん、私達も行きましょう」

かすみ「……やだ…」

せつ菜「!」

かすみ「かすみんは、イヤです…っ。このままいつ消えるかわからない未来に怯えながら、偽物の人生を送っていくなんて…イヤ、です…」グス

せつ菜「かすみさん…」

果林「私も…イヤだわ」

しずく「か、果林さん!?」

果林「私は今の自分が好きだし、これからもっと魅力的になってもっと好きになっていきたい。そんなささやかな夢を諦めきれないことは、悪いことかしら」

しずく「でも、それは…」

果林「わかってる。わかってるのよ、しずくちゃん。私だって彼方の人生がどうなってもいいなんて思ってるわけじゃない。でも、私のこの想いは許されないものなの?友人の人生と天秤にかけて苦しまなければならないほどのいけない願いかしら!?」グス…

彼方「果林ちゃん…」

果林「どうすれば…どうすればいいのよ…っ」


そう呟くと、とうとう果林ちゃんは顔を両手で覆ってその場にうずくまってしまった。
かすみちゃん、寄り添うせつ菜ちゃんも足を竦ませ、…ううん、それだけじゃない。
エマちゃんや歩夢ちゃんでさえ、璃奈ちゃんの足元に置いた自分色の宝石に名残惜しそうな視線を向ける。

この場に溢れる想いの数々が、ただ言葉にならないだけ。ただ形にならないだけ。
私にはしっかりと聞こえるし、見える。
きっと、私以外の全員にも。

 

44ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:25:03.17ID:gNbk3Ma2

璃奈「彼方さん」

彼方「なに?」

璃奈「向こうの世界に戻って私にありのままを話せば、きっと私はこの世界を丸ごとデリートすると思う」

彼方「!」

璃奈「私達が産まれたときから育んできたと感じている想いも、願いも、そして今みんなを襲う葛藤も、全てをまっさらに戻してくれると思う。それでいいのなら、彼方さんは私にこのことを話せばいい。そうすれば今日の夜にはもう私達のことなんか忘れられる。明日からも変わらず、誰の支えも必要としない本物の人生を歩んでいくことができるはず」

璃奈「それで、いいのなら」

璃奈「勝手に産み出されて勝手に消される、そんな私達が悪い存在じゃないのなら──悪いのは、一体誰なんだろう」

璃奈「悪いのは──誰なの?」

彼方「悪い、のは…」


私の胸の内を見透かしたような問いかけが、じわじわと答えの輪郭を描き出す。

違う、そうじゃない。
悪いのが誰かなんて、立場が変われば答えも変わるものでしかない。
だから──だから──


──璃奈「私の暴走を止めてほしい」


彼方「………っ」

 

45ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:28:37.73ID:gNbk3Ma2

彼方「…わかったよ、璃奈ちゃん」

彼方「かすみちゃん、果林ちゃん。みんなも」

果林「…?」

かすみ「わかったって、なにがですか…」

彼方「彼方ちゃんは逃げない。ここでみんなと戦うよ。やろう、秘宝の奪い合い」

果林「は…はあ!?あなた、正気なの!?」

璃奈「…」

彼方「正気だし本気だよ。でもこれは、自分の人格を守るためじゃない。もちろん果林ちゃん達を哀れんだからでもない」

彼方「みんなの気持ちをきちんと知るために戦って、そして自分の気持ちをきちんと知るために勝つ。なによりも、向こうに帰って璃奈ちゃんにきちんと『全て』を話すために。そしてお願いする」

彼方「いつか必ずもう一人の璃奈ちゃん達──もう一人の九人に、本物の世界を見せるようにって」

「「「………!!!」」」


彼方「そのために、やろう。秘宝の奪い合い。みんなの気持ちを全部私に教えてよ」

──────
────
──

 

47ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:32:37.95ID:gNbk3Ma2

愛「その、ほんとによかったわけ?カナちゃん」

彼方「うん、いいんだ。愛ちゃん達は、彼方ちゃんが一緒に頑張ってきた愛ちゃん達とは違うのかもしれないけど、でもやっぱり愛ちゃん達であることには変わりないからね。みんなのこと好きだって気持ちは彼方ちゃんの中にだってあるのさ~」

愛「カナちゃんってば…お人好しなんだから」ハァ

彼方「はっはっは~、愛ちゃんに言われたくないな」

愛「アタシ?」

彼方「璃奈ちゃんが椅子を譲るって言ったとき、真っ先に気遣ったのは愛ちゃんだよ。璃奈ちゃんが『やっぱり自分が座る』って言い出しちゃうかもしれなかったのに」

愛「あのときは…アタシも混乱してたし、よくわかってなかっただけだから…」ゴニョ

彼方「ふふふ。…それにね、このまま彼方ちゃんが何事もなく向こうに帰っちゃうわけにはいかないと思うんだ」

愛「え、なんで?」


璃奈「みんな、改めて手元に秘宝は行き渡った?これからゲームのルールを説明するからよく聞いておいて──」


彼方「ここで私がいなくなったら、みんなの強い気持ちは行き場を失っちゃうでしょ。自分の中でその気持ちを処理しきれなくなったとき、……誰に向けられるのかはわかりきってる」

愛「りなりーを、守るために…?」

彼方「間違って紛れ込んだ彼方ちゃんとは話が違うから。璃奈ちゃんがここでみんなと過ごしてきた時間は本物でしょ。そんなお友達と仲違いしちゃうなんて、絶対にあっちゃいけないことだもん」

愛「そう、だね」

 

48ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:35:59.71ID:gNbk3Ma2

璃奈「ゲームのルールを説明する」

璃奈「この場の全員、一人格ごとに一つ、秘宝を渡した。それを奪い合って、最後まで奪われずに持ち続けてた人の勝利。それはさっき話した通り」

璃奈「でも、それだけじゃゲームとしてあまりに無秩序だから、少し特別な形式を導入する」

せつ菜「特別な形式、ですか?」

璃奈「裁判制度」

エマ「さ、さいばん…?」

璃奈「裁判長は私が、そして名探偵は彼方さんが、それぞれ務める」

彼方「彼方ちゃん、名探偵なの?」

璃奈「名探偵」コク

果林「裁判に名探偵なんて出てこないと思うんだけど…」

璃奈「誰かの秘宝が奪われたら裁判を始める。彼方さんはみんなの話を聞いて、誰が秘宝を奪った犯人なのか当てる。それが正解なら彼方さんの勝ち、不正解なら犯人の勝ち」

璃奈「単純でしょ」璃奈ちゃんボード『わかりやすさが命』

エマ「裁判ってよくわからないんだけど…」

璃奈「エマさん、今私が説明した内容はわかった?」

エマ「それは、うん」

璃奈「だったらそれで大丈夫。裁判にはとらわれなくていい」

エマ「そ、そうなんだ」

果林「だったら裁判なんて言い方しなければいいんじゃ…」

璃奈「質問は?」

 

49ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:39:30.33ID:gNbk3Ma2

かすみ「誰かが誰かの秘宝を奪う、奪ったら裁判をする、裁判の結果しだいで彼方せんぱいか犯人のどっちかが勝ち、ってことだよね。それくらい単純なら、特にわからない部分はないけど…」

しずく「ううん、確認しなきゃいけないことだらけだよ。かすみさん」

かすみ「え、そうなの?」

しずく「いい?」スッ

しずく「二つ以上の秘宝が奪われた場合はどうなるの?逆に二人以上で手を組んで奪った場合は?彼方さんが名探偵だって言うけど、肝心の彼方さんが秘宝を奪うか奪われるかした場合は?いつまで経っても、誰も秘宝を奪わなかったら?……私がぱっと思い付くだけでも、これだけあるよ」

かすみ「ぅ、しず子するどい…」

しずく「璃奈さんがわざと話していないのかわからないけど、こういう細かい部分もはっきりさせておかなくちゃ。私達、すごく大切な戦いを始めようとしてるんだもん」クルッ

しずく「璃奈さん、答えてくれるよね?それともうやむやにしておかないと都合が悪い?」

璃奈「ううん、そんなことない。さすがしずくちゃん、そうやって質問してくれた方が細かい部分は説明がしやすいから助かった」

 

50ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:43:01.02ID:gNbk3Ma2

璃奈「秘宝が二つ以上奪われることはない。一つ奪われるごとに裁判をする」

璃奈「これをより明確化するために、ゲームは何日かに分けて行う」

璃奈「このゲーム中、一日は彼方さんの世界のお昼休みである13時から14時までの一時間だけになる」

彼方「あ、合わせてくれるの?」

璃奈「そうじゃないと彼方さんが一方的に不利になるから。お昼休みになって彼方さんがログインしてきたら一日が始まる。それ以外の二十三時間は、こっちの私達は眠って過ごす」

歩夢「眠って過ごすんだ…」

璃奈「例外はあるけど、基本的には全員眠っていてもらう。14時になった時点で、全員強制的に自分の部屋のベッドで入眠するようにプログラムを書き換える」

果林「自分の意思以外で行動させられるのがわかりきっているなんて、なかなか怖いわね」

璃奈「もちろん、14時になる前に自らベッドに入ってくれても構わない。目が覚めるのは翌日の13時きっかり」

果林「だったら私は五分前にでも自分でベッドに入っちゃうけど」

璃奈「一日の中で、秘宝を奪うことができるのは全体で一度だけ。二度目はない」

璃奈「誰かの秘宝が奪われて、かつ一日の四分の一が経過したら、裁判が開始になる」

歩夢「四分の一ってことは十五分?」

璃奈「そう。秘宝が奪われた瞬間に裁判が始まっちゃうと、場合によっては犯人が丸わかりになるから。それを防止するための措置」

璃奈「加えて、秘宝を奪われた人が発言できるとこれはこれで裁判の正常な進行に支障を来たすから、秘宝を奪われた人はその場で眠ってもらう」

彼方「あんまり気持ちのいい眠りにはならなさそうだね…」

 

51ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:46:32.16ID:gNbk3Ma2

かすみ「ちょ、ちょっと待ってりな子。そんなにいっぺんに説明されてもわかんなくなるってば」

エマ「私も、混乱しちゃうよ~」

せつ菜「では私がルールをメモしておきましょうか。解釈を誤ってしまわないかドキドキしますが…」

璃奈「気が付かなくてごめん。それは私がやる」パチン

かすみ「…わ!字が!」


璃奈ちゃんが指を鳴らすと、ホワイトボードにじわじわと文章が浮かび始めた。


『一人格一つずつ「秘宝」を持つ』

『裁判では彼方が判決を下し、それが合っていれば彼方の勝ち、誤っていれば犯人の勝利』

『ゲーム内の一日は一時間。ニジガクの昼休みである13時から14時の間』

『一日が終わる(14時になる)と、全員が自動的に自室のベッドで入眠する。翌13時になると眠っている全員が目を覚ます。ただし彼方だけは例外、ゲームにログインした時点で目を覚ます』

『一日にゲーム内全体で一度だけ、誰かが誰かの秘宝を奪うことができる』

『誰かが誰かの秘宝を奪う、かつ十五分が経過する、の両方を満たすと裁判が開始される』

『秘宝を失ったメンバーはその時点で意識を失う』


璃奈「後から整理しておくけど、とりあえず説明したルールをここに書いていく」

彼方「なんでもありですな…」

愛「ほんとだね…」

 

52ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:50:16.00ID:gNbk3Ma2

せつ菜「璃奈さん」

璃奈「なに?」

せつ菜「細かいことですが、『裁判が開始される』と受動的な表現なのはどうしてですか?」

璃奈「仕様の問題。裁判開始の条件が満たされたら、自動的に全員が裁判所に集められて裁判が開始されることになる。来ない人がいると裁判に支障を来たすから、その防止措置」

せつ菜「なるほど」

歩夢「さ、裁判所ってどこ?怖いところ?」

璃奈「ううん、裁判は講堂で行うから、便宜的に講堂を『裁判所』って呼ぶ」

歩夢「講堂かあ。よかった、だったら怖くないね」

果林「ってことは、十五分経つ前に講堂へ行っておけば無理やり移動させられずに済むのね」フン…

璃奈「裁判所には裁判のとき以外は立ち入り禁止」

果林「ちょっと、それじゃ結局自分の意思と関係なく行動させられちゃうじゃない」

璃奈「裁判所になにか細工をされると困るから。平等な進行のために、そこは諦めてほしい」

果林「もう、いいけど…」


『裁判はゲームに残っている全員で行う』ジワ

『講堂は裁判中にしか立ち入ることはできない』ジワ…

 

53ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:53:58.73ID:gNbk3Ma2

璃奈「二人以上で手を組んで秘宝を奪うことも別に禁止はしないけど、『犯人』になるのは実際にその手で秘宝を奪い取った人。二人以上が同時に同じ秘宝を触ることはできないようにしてるから、実行犯が二人以上になることはない」

璃奈「反対に、誰も秘宝を奪わない状態が続いた場合。これは…」

璃奈「彼方さんの勝利ってことにしよう」

「「「!!」」」

璃奈「例えば秘宝の奪い合いに消極的な人だけが残った場合、誰もゲームを進めようとしなければ自動的に彼方さんが勝利して決着がつく。盤面によってはこれも一つの選択肢になる」


『誰も秘宝を奪われないまま半日(三十分)が経過したら、彼方の勝利』ジワ…


璃奈「加えて、彼方さんは秘宝を奪うことはできないし、奪われることもない。しずくちゃんの指摘した通り、彼方さんが被害者か加害者になっちゃうと裁判が成立しないから」

彼方「…なんだか、彼方ちゃんだけ随分みんなと立ち位置が違うような」

璃奈「それは最初からそう。彼方さんは私達と立ってるステージが違う。他のプレイヤーとは違うルールの中にいてもらわないと」

彼方「こういう特別扱いみたいなの、苦手なんだけどなあ…」

璃奈「しずくちゃんの疑問は、これで解決した?」

しずく「うん、した。ひとまず私は大丈夫だよ」

璃奈「他に確認しておきたいことがある人は?」

 

54ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/09() 23:57:22.65ID:gNbk3Ma2

かすみ「他に、確認しておかなくちゃいけないこと…」

せつ菜「このゲームがいつまで続くのか、というのが明確ではありませんね」

歩夢「え?それは最後の一人になるまでなんじゃ…」

せつ菜「それは、エンディング条件の一つでしかありませんよ。それとは異なるエンディングに辿り着く可能性が、今提示されているルールでは有り得ますよね」

せつ菜「彼方さんが判決を誤った場合、つまり秘宝を奪った犯人を言い当てることができなかった場合、そこに記載してあるルールに則ると『彼方さんの負け』だそうですが──この場合、ゲームはどのように続行するんですか?」

彼方「あっ、確かに…」

璃奈「さすがせつ菜さん。いいところに気が付く」

せつ菜「…」

璃奈「そんなに怖いカオしないで。指摘されなくてもちゃんと説明するつもりだった」

 

55ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:01:21.42ID:NmoQXQSU

璃奈「彼方さんが『負け』た場合、これは犯人の勝ち。ううん、勝利」

歩夢「勝ちと勝利は、なにか違うの…?」

璃奈「違う。勝利は、優勝。つまり、優勝者としての権利を獲得する」

かすみ「! それって──」

璃奈「こういうこと」パチン


『秘宝を失う、自分が誰かの秘宝を奪ったことが裁判で明らかにされる、あるいは裁判で判決を誤る、のいずれかを満たすとゲームから追放される』ジワ

『自分が誰かの秘宝を奪った日の裁判で彼方が判決を誤る(自分が犯人だとバレずに裁判が終わる)、あるいは最後の一人になるまで追放されない、のどちらかを満たすと勝利。勝利すると彼方に代わって生きていくことができる』ジワ…


果林「…随分と重要なルールをもったいぶったわね」

璃奈「順番だけの問題。隠すつもりはなかったよ」

せつ菜「…それが本当であることを祈りますよ、璃奈さん」

 

56ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:05:13.11ID:NmoQXQSU

璃奈「他に、確認したいことがある人は?」

果林「それはむしろこっちから聞きたいくらいね。他に隠しているルールはない?」

かすみ「そ、そうだよりな子!言ってないことがあるなら全部言って!」

璃奈「別に隠してたつもりはないんだけどな」

璃奈「でも、うん。これで本当に全部だよ。あとは戦略上の要素を二つ、追加する」

せつ菜「戦略上の要素ですか?」

璃奈「一つはゲーム中に利用できる場所。ゲーム中は、この部室と各学年の教室、みんなのお部屋、それと裁判所だけが利用可能になる」パチン


『行動可能範囲は部室、一年生教室、二年生教室、三年生教室、寮、講堂(裁判所)の六ヶ所』ジワ

『教室は各学年のメンバーしか立ち入ることができない。ただし室内にいるメンバーの誰かが許可すれば他学年のメンバーも立ち入ることができる』ジワ

『寮内、他人の部屋には部屋の主が入室を拒否すると立ち入ることができない』ジワ…


璃奈「教室は状況によってすごく強力な籠城場所になるかもしれない」

かすみ「も、もう一つの要素は!?」

璃奈「そう焦らないで。すぐにわかる」ス──

 

57ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:09:02.21ID:NmoQXQSU

璃奈 パチン

しずく「!」

歩夢「!」

愛「!」

せつ菜「!」

果林「!」

エマ「!」

かすみ「!」

彼方「…!」

せつ菜「これ、は…」

璃奈「今、みんなに【特殊能力】を与えた。自分の能力の詳細はそれぞれ把握できたと思う」

璃奈「【特殊能力】はみんなの個性に合わせて、全員異なるものを用意した。時間制限があるものは13時でリセットされる」

璃奈「秘宝の奪い合いを、そして裁判を戦い抜くためにその【特殊能力】をどう扱うかはすごく重要になると思うから、上手く使いこなしてほしい」

せつ菜「こんなことが…」

璃奈「私が用意したゲームのルールは、本当にこれで全部。それじゃ始めよう、楽しいゲームを──!」

 

58ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:12:12.90ID:NmoQXQSU

ホワイトボード記載事項(ルール)


1.
一人格一つずつ「秘宝」を持つ

2.
ゲーム内の一日は一時間。ニジガクの昼休みである13時から14時の間

3.
一日にゲーム内全体で一度だけ、誰かが誰かの秘宝を奪うことができる(「秘宝を奪う」とは、自分以外の秘宝に自分だけが触れている状態になることを指す)

4.
誰も秘宝を奪われないまま半日(三十分)が経過したら、彼方の勝利

5.
秘宝を失ったメンバーはその時点で意識を失う(「秘宝を失う」とは、自分の秘宝に自分以外の誰か一人だけが触れている状態になることを指す)

6.
行動可能範囲は部室、一年生教室、二年生教室、三年生教室、寮、講堂(裁判所)の六ヶ所

6-1.
教室には各学年のメンバー以外立ち入ることができない。ただし室内にいるメンバーの誰かが許可すれば他学年のメンバーも立ち入ることができる

6-2.
寮内、他人の部屋には部屋の主が入室を拒否すると立ち入ることができない

6-3.
講堂には裁判中以外立ち入ることができない


7.
誰かが誰かの秘宝を奪う、かつ十五分が経過する、の両方を満たすと裁判が開始される

8.
裁判はゲームに残っている全員で行う

9.
裁判では彼方が判決を下し、それが合っていれば彼方の勝ち、誤っていれば犯人の勝利

10.
秘宝を失う、自分が誰かの秘宝を奪ったことが裁判で明らかにされる、あるいは裁判で判決を誤る、のいずれかを満たすとゲームから追放される

11.
一日が終わる(14時になる)と、全員が自動的に自室のベッドで入眠する。翌13時になると眠っている全員が目を覚ます。ただし彼方だけは例外、ゲームにログインした時点で目を覚ます

12.
自分が誰かの秘宝を奪った日の裁判で彼方が判決を誤る(自分が犯人だとバレずに裁判が終わる)、あるいは最後の一人になるまで追放されない、のどちらかを満たすと勝利。勝利すると彼方に代わって生きていくことができる

 

イメージ図

(フレーバーなので厳密に把握していなくて大丈夫です)

敷地内見取り図

学生寮平面図・縦図

59ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:18:03.73ID:NmoQXQSU

璃奈ちゃんが声高らかにゲームの開始を宣言して、彼方ちゃん達は、


シン…


当然、誰もなんの反応もできずにいた。
さすがのせつ菜ちゃんでさえ、現実に降りかかった『アニメ的状況』にすぐに順応することは難しいみたい。

手元で自分色の宝石を転がしては形を変えてみる子、
関連性に応じてルールが並べ替えられたホワイトボードを眺める子、
不安そうにアイコンタクトを取り合う子、
それに──深く考え込む子。

訊きたいことや言いたいことはいっぱいあるけど、それを上手く言葉にできる自信がない。
言葉にできてその返事が貰えたとして、納得できる自信がない。
色々な事柄の優先順位に差はあっても、みんなだいたい同じような状態だと思う。

 

60ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:21:56.65ID:NmoQXQSU

ルールは大方理解できた、はず。
もっとしっかり細部を確認して詰めておかなくちゃいけないのかもしれないけど、今の混乱した頭では満足に整理できないし、他のみんなからも声が上がらないなら、ひとまず重要なポイントは出尽くしたってことなんだろう。

私は、みんなとは違う立場にいる。
秘宝を奪うことも奪われることもない代わりに、裁判で全てを明らかにしなくちゃいけない。
みんなとは、考えるべきことも気をつけるべきことも全く違う。

いつ、誰が、誰の秘宝を奪うかわからない。
全体にまんべんなく気を配っておいて、できるだけ起こる全てのことを把握しておかなくちゃ。
そのために知っておきたいのは、やっぱりみんなの【特殊能力】だけど──


愛「みんな、そんなカタい表情なしにしようよ」

彼方「!」

 

61ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:25:14.30ID:NmoQXQSU

愛「そりゃ昨日まで考えもしなかったような事実を知っちゃって、今から秘宝の奪い合いなんてことしなくちゃいけなくなって、色んな…ホントに色んな気持ちがみんなの中に溢れ返ってると思うよ。アタシだってそうだし」

愛「必死に勝利を掴み取りたい人もいるよね。反対に、そんなのどうだっていいからみんなと争いたくないって人もいると思う。それぞれの想いがあっていいと思うんだ」

愛「秘宝を奪わなくちゃいけないかもしれない、奪われるかもしれない、裁判ではイヤな言い争いになるかもしれない。でも、このゲームやるってみんなで決めたんじゃん」スタスタ…

愛 ポン

璃奈「愛さん」

愛 ニッ

 

62ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:28:51.16ID:NmoQXQSU

愛「戦うことも戦わないこともできるようにりなりーが調整だってしてくれた。それに、万が一負けちゃってもいいって思えるような約束をカナちゃんがしてくれた。だったらさ、もう楽しもうよ。それしかないじゃん!」

愛「みんなも【特殊能力】貰ったっしょ?ワクワクしない、こんなの。愛さんの能力はねー…って、これはさすがにナイショだけどさ、スーパーヒーローにでもなったみたいじゃん。ね、せっつー」

せつ菜「え!?は、はい…そうですね。理屈を超えた能力を手に入れるというのは王道の展開で、こんな状況ですが胸が高鳴ってしまいます」

愛「それにこの秘宝も、スゴいんだよ。アタシなんかブレスレットにしちゃったもんねー、超~~~オレンジのブレスレット!可愛くない!?」キラーン

愛「歩夢とかアクセ好きっしょ?愛さんなんかよりもっとオシャレでカワイイやつにして見せてよ!」

歩夢「う、うん。そっか、ブレスレットなんかにもできちゃうんだ。どうしよっかな…」ヘヘ

愛「みんなも!どんな状況だってお互いの気持ちを尊重し合って、そんで楽しむ!ニジガクのスクールアイドル同好会魂を見せつけてやろうぜー!」

果林 ……クス

 

63ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:32:28.24ID:NmoQXQSU

果林「愛ってば、私達しかいないのにそんなの誰に見せつけるっていうのよ」

愛「えー…あ、ほら、もう一人のりなりーとか?」

果林「もう、適当ばっかり。でも、そうよね。下を向いてちゃ誰とも目を合わせられない、そんなんじゃ誰かを虜にすることなんかできやしないものね。よーし、いっちょやったりましょう!」

愛「その意気だー、カリン!」

しずく「演劇をたしなむ者は、強いんです」ボソ

彼方「え、なに?しずくちゃん」

しずく「演者は、人生におけるあらゆる出来事を自身の糧とすることができる。喜び、悲しみ、怒り、戸惑い、焦り、恥ずかしさも悔しさも。積み重ねたものが多ければ多いほど演者としてのステージを引き上げることができます。だから、私は前へ進みます!」

しずく「勝って咲こうと、負けて散ろうと、明日立つ舞台の衣装に変えて」

しずく「桜坂しずく、全力でこのゲームを戦い抜いてみせます!」

愛「おっ、やる気じゃんしずくー。いいぞいいぞ、負けないからね!」

しずく「こちらこそ!」

 

64ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:36:19.37ID:NmoQXQSU

エマ「ねえ、彼方ちゃんに学校を案内しようよ」

彼方「え?」

エマ「だって彼方ちゃん、さっきここに来たばっかりなんでしょ。しばらくここでゲームするんだから、学校のこと知っておいた方がいいよ」

愛「おー、エマっちナイス!そうしよ!」

彼方「え?え?彼方ちゃん、ここに来る前もニジガクにいたからわざわざ案内してもらわなくても…」チラ

璃奈 スク (肩をすくめる)

歩夢「ゲームで使えるのは各学年の教室と寮、講堂だったよね。まずは近い教室から見て回ろっか」

しずく「賛成です!」

彼方「……まあ、いっか」

果林「行くわよ、彼方。きちんと聞いておかないと迷子になっちゃっても知らないからね」

彼方「果林ちゃんじゃないんだから、自分の学校で迷子になんてならないよ~」

果林「わ、私だってならないわよ!」


ワイワイ…

 

65ぬし ◆z9ftktNqPQ (秋と紅葉の楼閣)2022/03/10() 00:39:52.24ID:NmoQXQSU

せつ菜「…行きましょう、かすみさん」

かすみ「皆さん、元気ですね」

せつ菜「元気でなくてはならないんですよ。どんな戦いになったとして、どんな結果になるとしても、明日も私達が私達でいるためには」

かすみ「わたしは、そこまで強くはなれません」

せつ菜「いいんじゃないですか。強く明るく振る舞うばかりが強さではありません。怖いことを怖いと言えることだって確かな強さです」

せつ菜「かすみさんの強さは、そういう素直な部分にあるんだと思いますよ」

かすみ「…」

せつ菜「ほら。早く行かないと置いていかれてしまいますよ」

かすみ「もう、置いてはいかれてますよ」

せつ菜「えへへ、そうでした」

かすみ「…ふふ」

かすみ「ねえ、せつ菜せんぱい」

せつ菜「なんですか?」


かすみ「せつ菜せんぱいの能力──【二面性】って、どんな能力なんですか?」

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