希「ギャグまんが体質」 2

37ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/01() 22:46:47.48ID:yPGCWe2Z

大会も中盤に差し掛かり、両親と昼食を食べていると、クラスメイトが訪ねてきた。 


「東條、応援団そろそろテント前に集合だってよ」 

希「もうそんな時間?やばいやばい」 

「がんばってね希ちゃん!」 

希「うん、ありがとう!」 


おにぎりをお茶で流し込んで立ち上がる。 

クラスメイトと両親の激励を背中に受けて、気合いは充分。 

テント前にはもう団員のほとんどが集まっていた。 


「来たか、団旗係」 

希「ちょっと遅れました」 

「いいよ、いいよ。それより頑張ろうな!この応援で一気に一位になろう」 

希「はい!」

 

38ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/01() 22:49:52.57ID:yPGCWe2Z

応援は午後一発目のプログラム。 

しかもかなりの点数が割り振られることになっており、どの組も円陣や掛け声で激しく盛り上がっている。 

最終確認を済ませ、いざ。 

衣装の長ランを身にまとい、ハチマキをぎゅっと締めれば、怖いものなどなにもなくなる。 

真っ赤な団旗を見上げる。 

はたはたと揺れるその姿は威風堂々、際限なく士気を高めてくれた。 


「さあ、行こうか!」 


踏み出した団長に、団員が続く。 

お偉いさんのテントを背に、一列に並び立つ。 

静まり返る校庭。 

全校生徒と先生方、みんなの家族。 

生唾が音を鳴らすほどの緊張に、否応でも胸は躍り―― 


――――パチン 


そんな音が聞こえた気がした。

 

39ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/01() 22:53:04.54ID:yPGCWe2Z

「そお~れっ!!」 


けたたましい音楽。 

唸りにも似た応援の声。 

団長を囲うようにダンスが展開され、いよいよ団旗を翻す。 

――グッ。 


希「!?」 


団旗が持ち上がらない。 

もちろん軽く振り回せるものではないにせよ、これまで毎日毎日振ってきた。 

持ち上げることすらできないなんて、そんなわけがない。 

応援は進む。 

すでにいくらか出遅れている。 

汗で滑る手に力を込めて、渾身の力で団旗を振り抜いた。 


――それと同時に、後方のテントが一斉に崩れ落ちた。

 

40ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/01() 22:56:09.34ID:yPGCWe2Z

「「「……!?!?」」」 


声にもならないどよめきが校庭に満ちる。 

後から知ったことで、団旗の先がテントの端に引っ掛かっていたという。 

それを無理やり引き抜いたものだから、支えを失いテントは崩れ、お偉いさんたちは一人残らず下敷きになった。 

応援は続いたものの、団長すら含めて、そんなものに集中している人は誰一人いなかった。 

幸い、派手に幌を被っただけで怪我をした人はいなかったようで。 

のそのそと這い出てきたうちの一人が、傍に転がっていたマイクを手に取った。 


「えー…ずいぶん大掛かりな応援でしたね。ありがとう」 


校庭は笑いで包まれ、おおごとにはならずに済んだ。 

おろすことも忘れ高々と掲げられたままの団旗が、強く強く風になびいてはためいていた。 


…… 

………… 

………………

 

41ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/01() 22:59:16.58ID:yPGCWe2Z

他の年の体育大会などろくに記憶にないけれど、あの年だけはずっとずっと心の片隅に巣食っている。 

急な事情で転勤が早まり、体育大会の数週間後にはまた引っ越すこととなった。 

まるで、失敗に蓋をして逃げ出すかのように―― 


希「思い返せば、ウチ失敗してばっかりやんなあ」 


恥ずかしい恥ずかしい。 

高校に入ってからは、かなり注意深くなったこともあって大きな失敗はなくなった。 

あんな姿、えりちにもにこっちにも見られたくないもの。 


希「たま~に思い出してしまうんよねえ、昔のこと」 


胸がきゅうっとなるけれど、だからといってどうすることができるわけでもないのに。 


希「さてさてさ~て」 


ぐうっと背伸びを一つ。 

どうやってにこっちとあの子たちを引き合わせようかなあ。 

***

 

47ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/02() 05:43:21.27ID:ayzzUxqy

16時半。 

室内には二人きり、書類をめくる音とペンを走らせる音。 

ぎ、と背もたれが鳴く。 


希「ふう…」 

絵里「あら、希。もうお疲れ?」 

希「放課後からずっとやもん、そりゃ疲れるよ。平然としとるえりちがおかしいんやってば」 

絵里「慣れたのよ。もう半年にもなるもの」 

希「それやとウチも慣れてないとおかしいんやけどなあ」 

絵里「貴方には貴方のペースがあるんだから、それでいいのよ」 

希「今日はあの子らも来んしな」 

絵里「…静かで仕事がはかどるわ」 


うそつき、と心の中で。 

気になってるくせに。

 

48ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/02() 05:43:56.40ID:ayzzUxqy

希「窓、開けてもええ?」 

絵里「どうぞ」 


木々は揺れてない。 

遠慮せずにガラリと開けると、湿っぽい空気が流れ込む。 

心地よいとは言いがたいけれど、それ以上に窓を開けたかった理由がある。 


――ワン ツー スリー フォッ ファイ シックス セブン エイッ 

――花陽、少し遅れていますよ! 

――凛は走り過ぎです! 

――もう一回! 


希「なんや、元気そうやね」 


ちらりと見遣る。 

青い瞳は書類に落とされたままだ。

 

49ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/02() 05:44:39.88ID:ayzzUxqy

希「6人になったんやってな」 

絵里「らしいわね」 

希「6人ってことは、部の申請ができるやんな」 


カリカリ…と続いていたペン先の声が止む。 


絵里「余計なこと考えてるんじゃないでしょうね」 

希「ウチが部の申請をそそのかすって?そんなことせんでも、じきに来るやろ」 


こめかみをぐりぐりといじめてから、えりちは生徒手帳を取り出す。 


絵里「部の申請に関する記述はどこだったかしら」 

希「18ページやなかった?」 

絵里「どうして即答できるのかしら」

 

50ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/02() 05:45:42.22ID:ayzzUxqy

黙読の後、心底残念そうに嘆息。 


希「どうしたん?」 

絵里「申請を断る正当な理由はなさそう」 

希「えりちはいじわるやなあ」 


正当な理由がないなら認めればいいだけなのに。 

難しいカオをして、再び生徒手帳を熟読し始める。 

けれど、その表情からは光明を見出だせなかったことが見て取れる。 

まあ、知ってるけど。 

だからこそ、 


希「あー、でもやっぱりだめなんちゃう?」 

絵里「えっ、どうして?」 

希「だってもうあるやん、スクールアイドル部。すでにある部の申請はさすがにあかんよなあ」 

絵里「!」 


この糸を掴まずにはいられまい。 

………………

………

 

51ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/02() 05:46:46.18ID:ayzzUxqy

夕焼けに並んで歩く。 


希「今日は結局来てくれんかったな、穂乃果ちゃんたち」 

絵里「来たって一緒よ」 


心なしか声が明るい。 


絵里「だって、申請を認めるわけにはいかないんだもの」 

希「…そうやね」 

絵里「残念ね。あの子たちはあの子たちで一生懸命なんでしょうけど、校則が許さないんだから仕方がないわ。部でもない有志の団体に学校の名前を背負わせるわけにはいかないし」 


うんうんと頷きながら独りごつ。 

珍しく饒舌な方だけど、その言葉はどうしても自身に言い聞かせているようにしか聞こえない。 

幸せそうに口角を上げて。 

苦しそうに眉根を寄せて。 

そんなカオ、してほしくないよ。

 

52ぬし z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/02() 05:47:49.36ID:ayzzUxqy

希「じゃあね、えりち。また明日――」 

絵里「あ、希。なにか甘いものでも食べにいかない?」 

希「え?今から?寄り道はあかんのやなかったん?」 


帰り道の分岐点で、手を振る姿を呼び止められる。 

あまりに予想外の誘いに、思わずそんな風に返してしまってから、しまった――だけど、もう遅くて。 


絵里「そ、そうよ。学校の帰りはだめ。土曜日に行きましょう」 

希「あ、えっと、えりち。ウチは今からでもええよ」 

絵里「…だめよ。校則でしょ」 

希「……うん…」 


瞳は夕焼けに紅く染まり、宿す色を読み取ることができない。 

また明日ね。 

紅を反射しつつ翻る金髪に見蕩れるだけで、それ以上の言葉は紡げなかった。 

***

 

53ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 05:50:27.17ID:azmfGS+I

穂乃果「失礼します!」 

海未「失礼します」 


いつにない勢いで、扉が開け放たれた。 

現れたのはもちろん穂乃果ちゃんと、半歩後ろに寄り添うは海未ちゃん。 

やっと来た。 


絵里「今日はなんの用?」 

穂乃果「部活動申請をしにきました!」 


分かってたはずだろうに、その言葉を待ってから背筋を伸ばすえりち。 

視線で続きを促す。 


穂乃果「私たち、人数が6人になったんです!だから部活動申請をしたくって!」 

海未「校則では、『一の目的に賛同する生徒が五人以上となった場合、この目的を達するため代表の者は部の発足を申請することができる』とあります。その他の条項も満たすことを確認してきました」 

絵里「…そのようね。部活動の申請要件に不備はないようです」 

穂乃果「それじゃあ、」 

絵里「申請は認めません」

 

54ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 05:52:01.95ID:azmfGS+I

穂乃果「ええ!?なんでですか!?」 

海未「申請要件は満たしていると、たった今会長ご自身も――」 

絵里「申請の要件は満たしています。けれど、承認の要件は満たされていない」 

海未「承認の要件…ですか?」 

絵里「すでにあるのよ、この学校には。スクールアイドル部が。残念だけれど、活動目的を同じにする部を複数存在させるわけにはいきません」 

穂乃果「そんなあ…」 

絵里「諦めてちょうだい。これは校則で決まっているの」 

穂乃果「う、海未ちゃん…」 

海未「すみません、穂乃果。まさかスクールアイドル部がすでに存在するなどとは知らず…確認不足でした」 

絵里「話は終わり?なら下がってもらえるかしら。公務に取り掛かりたいの」 

海未「…出直しましょう。ことりたちに話をしなければいけません」 

穂乃果「分かった…」 

海未「失礼しました――」 

希「ちょい待ち」

 

55ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 05:53:06.02ID:azmfGS+I

穂乃果「え?」 

絵里「希!?」 

海未「なにか…?」 

絵里「貴方、今度はなにを吹き込むつもり?この子たちを応援したい気持ちは分かるけれど、校則で決まってるの!認められないの!貴方だって昨日そう同意したでしょう!?」 

希「えりち」 


立ち上がらんとする肩をそっと押さえる。 

入口できょとんと立ち呆ける二人。 


希「確かに、もうある部の申請を承認することはできん。同じような部が二つも三つもできたってしゃあないからな」 

絵里「そう、その通りよ。だからこれ以上この件で話すことは」 

希「せやけど、すでにあるスクールアイドル部に入部することはできるな」 

穂乃果「入部…」 

絵里「希!」

 

56ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 05:55:08.81ID:azmfGS+I

海未「入部するということは、必ずしも私たちの思うように活動できるとは限らないということですね…」 

希「もちろん、どうするかは穂乃果ちゃんたちの自由や。後から入った身分で、主導権を握れるもんでもないやろうしね」 

海未「それでは意味が…」 

希「でも、現状それ以外にスクールアイドルの活動をする手だてはないんと違う?」 

絵里「待ちなさい。スクールアイドル部は活動休止中でしょう?いくら人数を集めて入部したからといって、そんな部の活動はどっちにしたって――  希「活動休止中なんかやあらへんよ」 

絵里「の、希…?」 

希「スクールアイドル部は活動休止中なんかやない。目立った功績はないかもしらんけど、部員は一人かもしらんけど、今だって活動してるよ。……ま、やからこそ、部長さんと話をつけんことにはどうにもならんけどね」 


しんと静まる室内。 

えりちも口を噤み、あちゃあやっちゃったかな…と思い始めるとどちらが早いか。 


穂乃果「行こう、海未ちゃん」

 

57ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 05:57:12.08ID:azmfGS+I

穂乃果ちゃんは迷いのない声で言った。 


穂乃果「スクールアイドル部の部長さんに会いにいこう」 

海未「しかし、」 

穂乃果「話してみなきゃ始まらないよ。どうなるにしたって」 

海未「そう…ですね。穂乃果の言う通りです」 

穂乃果「それに、一人になったって活動し続けるなんてすごいよ。きっとスクールアイドルのことが大好きなんだね。そんな人が入ってくれたら、ミューズはきっともっと良いグループになるよ!」 

海未「ふふ、穂乃果ったら。会ってもいないのに勧誘するつもりでいるのですか?」 

穂乃果「希先輩、ありがとうございます!私たち、スクールアイドル部の部長さんと話をしてきます!それじゃ!」 

海未「あっこら穂乃果!し、失礼しましたっ」 


相変わらず去り際は慌ただしく、室内には再び静寂が訪れる。

 

58ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 05:59:14.38ID:azmfGS+I

希「にこっちと上手くやり合えるかなあ」 

絵里「にこ…?思い出したわ。スクールアイドル部の矢澤にこさん。貴方のお気に入りね」 

希「そうそう、可愛いんよにこっち。にこにこでぷりてぃなん。もうほんまにアイドルって感じでな」 

絵里「その人とあの子たちを一緒の部に押し込めようってことね。希…貴方って人は」 

希「悪いことしてないやん。好きなもんが同じ者同士、手を取り合えたら力はもっと強くなる。『好き』ってそういうもんやろ」 

絵里「もういいわ。結局なにもかも貴方の思い通りに進んでいるもの。矢澤さんとあの子たちが和解する未来だって、貴方にはもうはっきりと見えているんでしょ」 

希「ウチにはな~んも。ただ、カードがウチにそう告げるだけ」 

絵里「はいはい…希には敵わないわ」 


やれやれと首を振って、えりちは席を立つ。 


希「あれ?もう帰るん?」 

絵里「ええ。頭が痛むの」 

希「そう…気ぃ付けてな」 

絵里「希もね」

 

59ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 06:01:22.18ID:azmfGS+I

絵里「…私、思うのよ」 

希「なに?」 

絵里「貴方はあの子たちを応援してる。あの子たちが気になって仕方がないんでしょう?」 

希「うん。一生懸命に頑張る人は応援したなってまうよね」 

絵里「だったら」 


絵里「だったら、貴方も仲間に加わったらいいのに、って」 


絵里「…余計なお世話だったかしらね。今日は一人で帰るわ」 

希「…うん、また明日」 

絵里「また明日ね」 


退室際、小さな小さな一言。 


絵里「きっとあの子たちは、成功するんでしょうね」 


パタンと扉が閉められた。 

***

 

60ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 06:03:25.04ID:azmfGS+I

♪私たちの想いが集まれば なんとかなるかも 

♪小さなちからだけど 育てたい夢がある 

♪わからないことだらけ ポケットに地図なんて持ってない 

♪少しずつでもいいんだね 胸張って進もうよ 


絵里「飽きないわね」 


歌詞を合間を縫ってそんな茶々。 


希「なんで分かったん?」 

絵里「貴方がイヤホンしてるのなんて、ここ数ヶ月で初めてなんだもの」 

希「にこっちにお願いしたら入れてくれたん」 

絵里「なるほどね。希は機械の扱い苦手そうだものね」 

希「うん。ウチ、パソコンとかからっきし」 


これを機に、とμ'sの曲を全てスマートフォンに入れてもらった。 

とは言え、全部でたったの三曲だけだけれど。 

プレイリストとやらに並ぶその曲たちは、どれも愛おしくなるほどに繰り返し聴いている。

 

61ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 06:05:27.65ID:azmfGS+I

希「聴く?」 

絵里「ううん、いい」 


片方を差し出したイヤホンは、しかし断られる。 

しょんぼりと耳と尾を垂らしたようにでも見えたのか、えりちがやや慌てた様子で取り繕う。 


絵里「違うの、嫌いとかじゃないのよ。その…私も入れてるから。聴こうと思えば自分で聴けるの」 


言うや、ぷいっと向こうを向いてしまった。 

その事実が嬉しくて、そんな様子も可愛くて、つい頬が緩んでしまう。 


絵里「曲は、いいわね。詞も曲も、決して最高級ではないけれど、なんだか一生懸命って感じがして、つい聴いちゃうわ」 


照れ臭いのか、ぽつりぽつりと捻り出すように。 

パフォーマンスは?と余計なことは訊かない程度の心遣いはある。 

肯定するのも否定するのも、今のえりちにはきっとつらいから。

 

62ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 06:07:31.43ID:azmfGS+I

希「歌ってもいい?」 

絵里「え?いいけれど」 

希「♪うなずいてよ おおきく!笑ってみて!えがおの hi hi hi だいじょうぶ 間違えることもあるけど one, two, three, four やっぱあっちです!」 

希「♪Something いま何か あなたの元へと Something いま何か すてきな気持ちを そう伝えたいと思う だから待ってて 楽しみがもっともっと もっともっとこれから!」 

絵里「希は気持ち良さそうに歌うのね」 

希「えへへ…へたっぴなもん聞かせてごめんな」 

絵里「ううん、そんなことないわ。すごく…いつまでだって聴いていたくなる歌声よ」 


いつの間にかえりちは手を止め、瞳を閉じていた。 

唇をぎゅうっと噛み締め、なにかに耐えるように。

 

66ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 07:22:30.34ID:azmfGS+I

希「なあ、えりち」 

絵里「…無理よ」 

希「そんなことない。何回だって手は伸ばされてたやん。あとはえりちがその手を取るだけ」 

絵里「………」 

希「えりち」 

絵里「無理よ!!」 


頭を抱え、金髪が振り乱される。 


絵里「今さらあの子たちにどんな顔を向けられるっていうの!?そんなの、どうしたって許されるわけが…」 

希「許してくれるよ。あの子たちなら」 

絵里「なんだってそんなことが言えるの。みんな真っ直ぐで良い子たちなのは知ってる。知ってるけど…」 


小さく丸まる背に、想いを込めてワンフレーズだけ。 


希「♪だいじょうぶ 間違えることもあるけど one, two, three, four やっぱあっちです!」

 

67ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 07:23:03.45ID:azmfGS+I

だいじょうぶ。 

何回間違えたっていい。 


希「『やっぱりあっち』が許されるんや。えりちには、これからまだまだ続いていく時間があるんやから」 


希「なあ?みんな」 


はっと面が上げられる。 

一瞬だけ交錯する視線。 

その瞳はすぐに後方へ向けられ―― 


穂乃果「絵里先輩」 

絵里「貴方たち…」 

穂乃果「私たちに力を貸してください。絵里先輩が必要なんです」 

絵里「………!」 


――8人目。 

その名を頂いた女神たちは9人。

 

68ぬし z9ftktNqPQ ()2018/04/02() 07:23:36.60ID:azmfGS+I

希「これで…後1人やね」 

絵里「何言ってるのよ」 

希「え?」 

絵里「貴方が9人目よ」 

希「…」 

穂乃果「希先輩」 

穂乃果「μ'sに入って下さい!」 

希「……」 

希「ごめんな」 

穂乃果「え…?」 

希「ウチは、何かを真面目にやる気はないんよ」 

絵里「ど、どうして!?」 

希「ウチの人生はね、程々でいいんだ」 

希「その方がみんなも、そして私も…楽しく生きていけるから…」