せつ菜「勇気のかけら」 1

3ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:21:59.59ID:WBe1vUan

その日、私は裏庭でお昼寝をしていた。
午後の実習が早めに終わってしまったから、部活の時間になるまでほんのちょっぴりお休みしようと思って。

本当は、そんな風に過ごしてちゃいけないのはわかってた。
私は──私達は、やらなくちゃいけないことがあった。
もっと貪欲に、もっと禁欲的に、いなくちゃいけなかった。

それなのに甘えてしまっていた。

どうせ部活の時間になれば厳しい練習が待っているんだから、なにも自主練をしてまで追い込む必要はないって。

そう、甘えてた。

だから──


『せつ菜ちゃん: 業務連絡です』

『せつ菜ちゃん: 本日から、同好会の活動はしばらくお休みとします』

『せつ菜ちゃん: 再開する際には改めてご連絡します』


こんなことになったのは、当然だった。
私達のせいだった。

──────
────
──

 

5ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:24:01.75ID:WBe1vUan

かすみ「えーっ!?こんなに筋トレやるんですか!?」

せつ菜「はい!頑張りましょう!」

かすみ「かすみんー、もっと歌って踊って可愛いポーズの練習とかしたいんですけどぉ」

せつ菜「ふむ…それも大事ですね。わかりました」コク

かすみ「やったぁ!さすがせつ菜せんぱい、話がわかりますねぇ──」

せつ菜「では、筋力トレーニングが終わるのが概ね18時の見込みなので…20分頃からやりましょうか!すべてやると最終下校時刻を越えてしまうので、日替わりでダンス・歌・ポーズや演出などを取り入れるということで」

かすみ「えっ。き、筋トレの後にやるんですか…てっきり筋トレを削って入れるのかと…」

せつ菜「そうしたいところですが、今のラブライブ!の水準を考えると、筋力の底上げは絶対に必要ですからね。逆算して、毎日これくらいの筋力トレーニングは必須の範疇ですから」

かすみ「うげぇ…」

 

6ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:26:02.32ID:WBe1vUan

せつ菜「さあ、ではやりましょう!まずはランニングに行きますよ、皆さん!」オーッ

かすみ「は……はぁ~~い」

エマ「あはは…ほんとに、結構な量のトレーニングだね」

彼方「だね~。彼方ちゃん、毎日こんなについていけるかなぁ」

エマ「わたしもそんなに自信ないよぉ。でもせつ菜ちゃんが考えてくれたメニューなんだから、きっとこれが一番いいんだよね」

彼方「ですなー」

かすみ「……もーっ、彼方せんぱいにエマせんぱい!行きますよ!おさぼりしてたらせつ菜せんぱいに言いつけちゃいますからね!」

エマ「いけない。わたし達も行かなくっちゃ」

彼方「がんばりますか~」


せつ菜ちゃんは唯一のステージ経験者で、知識も豊富で、後輩ながらに逞しく私達を引っ張ってくれた。

…………
……

 

7ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:28:03.69ID:WBe1vUan

しずく「すみません、今週は木曜日と金曜日も、演劇部の方に顔を出してほしいと言われていまして…」

せつ菜「うーん…そうですか…」

せつ菜「しずくさん、演劇部でも筋力トレーニングはされていますよね。どんなメニューか教えていただけますか?」

しずく「はい、演劇部では、──────」

せつ菜 ムム…

しずく「どうしましたか?」

せつ菜「いえ、やっていることが違うので仕方のないことではあるんですが、スクールアイドルとしては不要なメニューも多いなと思いまして」

しずく「それは…そうなのかもしれませんね。でもインナーとか肺活量はスクールアイドルにも活きますし、向こうは向こうでそれなりに追い込んでいるので…」

せつ菜「……不要などころか、スクールアイドルの身体の使い方を考えると、むしろあまり鍛えてほしくない部位への負荷も多いような…」ブツブツ

しずく「せつ菜さん?」

せつ菜「…………すみません、しずくさん。えっと…」カキカキ…

せつ菜「演劇部に参加する日は、筋力トレーニングの内容をこういう風に変更しておいてもらえますか?」っ紙

しずく「え?それって、どういう…」

 

8ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:30:04.33ID:WBe1vUan

せつ菜「しずくさんは、まだ舞台には立ちませんよね?一方ラブライブ!のステージには立つことになるので、身体づくりはスクールアイドルを基準にしてほしいんです。演劇部の方に参加するのは構わないので、しずくさんのメニューを変えるだけなら部にもご迷惑はかからないでしょうから」

しずく「えっ、と……」

かすみ「…演劇部でしず子だけ違うメニューをやるってことですかね?」

彼方「ぽい、かなあ」

かすみ「そういうのっていいんでしょうか。なんていうか、悪目立ちしちゃったりしませんかねぇ…」

せつ菜「よければ私から演劇部の方に話を通しておきましょうか。その方がしずくさんも──」

しずく「あっいえ、それは、大丈夫です。私が自分で話しますから…」

彼方「……う~ん…」


ちょっぴり「ん?」と思うことはあっても、筋は通っているように思えたし、なにより同好会のことを一生懸命に考えてくれてることがわかるから。
具体的に反論することはできなかったし、誰もしなかった。

…………
……

 

10ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:32:05.78ID:WBe1vUan

彼方「あうっ」コケッ

エマ「彼方ちゃん!だいじょうぶ!?」

彼方「うん、平気~。ちょっぴり疲れてきちゃったかも、なんてねぇ…」ヘヘ

せつ菜「…彼方さんは、このくらいの時間になると体力が追いつかなくなることが多いようですね…」ムム

彼方「中学までそんなにスポーツとかしてこなかったからかな。長い時間動いてるとどうしても疲れちゃうかも~」

しずく「…っふう。やっぱりダンスって結構体力を使いますもんね。私もそろそろ疲れてきてしまいました」

彼方「せつ菜ちゃんは声も出しながらなのに、すごいなぁ」

せつ菜「ま、まあ…私は経験が長いので……」

エマ「ねえせつ菜ちゃん、ちょっと休憩にしよう。わたしもだし、みんな疲れてきちゃったよ」

せつ菜「ですが、まだ始めてから十五分ですよ?」

 

11ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:34:06.92ID:WBe1vUan

エマ「うん…でもわたし達、こんなにしっかりダンスの練習するのって初めてだから」

せつ菜「……わかりました。では、五分休憩にしましょう」

彼方「ありがと~」ヘタ…

せつ菜「彼方さん、今のうちに少しいいですか」スッ

せつ菜「見ていた感じ、筋力トレーニングで体力を使いすぎているような気がします。身体の使い方に無駄が多いのが原因だと思うので、家で体幹のストレッチと腸腰筋のトレーニングをしてください。それから…」

彼方「か、帰ってからも…」

エマ「せつ菜ちゃん、せつ菜ちゃん。彼方ちゃんは体力が追いついてないって言ったのに、さらにトレーニングの量を増やしちゃって平気なの?」

せつ菜「ですが、根本を改善しないことには…」

しずく「だ…だったら、こうしませんか?部活の筋力トレーニングの時間を少し削って、体幹のトレーニングに充てるというのは!」

エマ「それ、いいかも!わたし達も一緒にできるもんね」

せつ菜「で、ですがそれでは体力づくりの計画が……」

 

12ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:36:08.39ID:WBe1vUan

せつ菜「…いえ、皆さんのペースを守らないといけませんよね。月曜日までに全体のメニューの改善案を考えてきます」

彼方「ごめんね、彼方ちゃんが体力ないせいで…」

せつ菜「い、いえ。私達はグループですから、全員で支え合うのは当然のことですよ」

彼方「うん…」

かすみ ゼェハァ………

かすみ「…ちょっとはかすみんの心配してくださいよぉ…!」ヒーンッ

しずく「かすみさん、もう限界って言ってからもしばらく頑張れるんだもん」


思えばこの頃から、せつ菜ちゃんは苦しそうな表情をすることが多くなってたんだ。
それは肉体的な疲労とかってことじゃなくて、きっと──

…………
……

 

15ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:38:08.94ID:WBe1vUan

────♪………


ハァ……ハァ………ッ


しずく「…どうでしょうか」フゥ…

せつ菜「はい。しずくさんはやはり肺が強いからか、ダンスしながらでも歌声がブレないのはすごくいいですね」

しずく「ありがとうございます!」

せつ菜「一方で、歌詞に対して感情が乗りすぎな部分は変わっていませんね。ソロなら世界観として特徴にできますが、グループだと浮いてしまうので、全体の雰囲気を見ながらそこはうまくコントロールしてほしいのですが」

しずく「うう…すみません……もうずっと言われてますよね。どうしても、情緒的な歌詞を口にしていると気持ちが高まってきてしまって…」

せつ菜「そうですね、ずっとお伝えしているはずですよ」ピシャリ

しずく「……っ」

彼方「せ、せつ菜ちゃん…!」

せつ菜「…あっ、す…すみません。その、しずくさんのいいところでもあるんです。ただ、グループで歌うということにもう少し焦点を置いてほしいといいますか…」

しずく「は…はい。わかっています」

エマ「せつ菜ちゃん、わたしはどうかな?」

せつ菜「エマさんは、そうですね。とても動きが大きくてしっかりしているのですが、そのせいで遅れている部分が──」

 

16ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:40:10.34ID:WBe1vUan

彼方「しずくちゃん、平気?」ススス

しずく「はい。ずっと同じことを注意してもらっているのに直せていない私がいけないので」

彼方「グループでやるのって、色々難しいんだね」

しずく「みたいですね。私は歌というと、どうしてもミュージカルのようなものが根底にあるので、歌い方がそっちに寄ってしまって…」

彼方「なるほどねぇ。…それにしても、せつ菜ちゃん…」

しずく「…はい。せつ菜さんもお疲れのようですね」

彼方「彼方ちゃん達の練習も見てくれて、自分のこともやってるんだもんね」

しずく「そうですよね…」


せつ菜ちゃんは物事をはっきり言う子だけど、相手のこともしっかり尊重してくれる。
それが、少しずつ余裕のない言い方をすることが増えていたように思う。

…………
……

 

18ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:42:11.44ID:WBe1vUan

ガチャ──


彼方「…せつ菜ちゃん。おはよう」

せつ菜「あ、彼方さん…おはようございます」

彼方「なんで朝から部室にいるの?」

せつ菜「その、少しダンスの練習をしていました」

彼方「えっ、一人で?」

せつ菜「はい。最近あまり練習できていなかったので」

彼方「あ…そっか、せつ菜ちゃん、部活の時間は私達の練習を見てくれてるんだもんね。ごめん…」

せつ菜「い、いえ、そんな。家でやるわけにもいかないですし、早起きは得意なので」

彼方「そういえば、昨日も最後だったよね。何時まで練習してたの?」

せつ菜「ああ…昨日は練習で残ったわけではないんですよ。ライブ用にステージを借りられないか、いくつかの施設にメールを送っていたんです」

彼方「そうだったの…!?」

 

19ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:44:13.00ID:WBe1vUan

せつ菜「ラブライブ!の予選前に、経験を積むためと知名度を上げるために、数回ステージに立った方がいいかと思いまして」

彼方「もう~…そういうの一人でやらないで、頼ってくれたらいいのに。メールするくらい彼方ちゃん達だって

せつ菜「そんなことに時間を割くくらいなら、筋力トレーニングかダンスの練習をしてください」

彼方「ぅ……」

せつ菜「………っあ…違うんです、ごめんなさい…!」ハッ

彼方「う、ううん。ほんとのことだもんね。ごめんね、私達がもっと頼りになればいいんだけど、色んなこと任せちゃって」

せつ菜「すみません、そんなつもりじゃ…」

彼方「うん、わかってるよぉ」アハハ…

せつ菜「……っ」

彼方「…」

せつ菜「…で、では私はそろそろ行きますね。また放課後に」ガタ

彼方「は~い」


せつ菜ちゃんは何度も頭を下げてくれたけど、それは本当のことだったから。
でも、その言葉に気圧されずに、もう一歩踏み込むことができていたら…

…………
……

 

21ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:46:14.06ID:WBe1vUan

ガチャ──


せつ菜「彼方さん…!」

彼方「あ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「私、ノートをその辺りに置いていませんでしたか!?」キョロ

彼方「うん、あったよ。取りに戻ってくるかなーと思ってたとこ。はい」っノート

せつ菜「ありがとうございます」

せつ菜「……中、見ましたか?」

彼方「あはは、まさか~。勝手に見たりしないよ」

せつ菜「そ、そうですか。それでは私はお先に失礼します」ホッ…

彼方「うん、お疲れ様~」


──バタン…


彼方「………」

 

22ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:48:15.83ID:WBe1vUan

──『ステージの使用許可が下りたのはいいけど、この状態でライブができるのか?』

──『エマさんとしずくさんはギリギリ。彼方さんとかすみさんは体力が足りていない』

──『歌、七割。ダンス、四割。かなり低めに設定したつもりなのに、######### 全員頑張っている。わかってる。』

──『ラブライブ!の予選が九月にあるって皆さんわかってるよね? ######### 全員同じ気持ち。私達はグループ。』

──『よくない言い方をしてしまった。謝りたかったけど、こっちを向いてくれなかった』

──『月末にライブは無理では。』

──『###############

──『最悪。ダンス忘れかけてた。時間足りない。##### 私自身の問題。私自身の問題。』

──『全員でライブがしたい。エマさん、彼方さん、かすみさん、しずくさん、私。全員でライブがしたいのに、』


ごめんね、せつ菜ちゃん。

数滴の乾いた跡がノートの端を歪めていた。
ごめんね、せつ菜ちゃん。


彼方「────ごめんなさい────」

…………
……

 

25ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:50:17.49ID:WBe1vUan

かすみ「こうやって~………えへっ♡」キャピッ

エマ「わあ、かわいい!」

彼方「ほんと。こんなパフォーマンスされたら、彼方ちゃんがお客さんならイチコロだよ~」

かすみ「えへへ、そうですか?もっと褒めてください~」

せつ菜「…」

かすみ「どうですか、せつ菜せんぱいっ。かすみん可愛かったですよね?今のとこの振り付け、こっちに変えちゃいませんか?」

エマ「いいと思う、すっごく可愛い動きだし、ばえるよ!」

しずく「せっかくその動きを取り入れるなら、ここではかすみさんがセンターになった方がよくないでしょうか」

彼方「ん~、そしたら立ち位置ちょっぴり調整する?2メロ前からここをさ、しずくちゃんとせつ菜ちゃんがこう…」

しずく「あっ、いいですね。これならほとんど無理なく変更できそうです」

エマ「じゃあ、ここはわたし達がこっちに動きながら…」

かすみ「かすみんがこう動いて………こう!」キャピッ

彼方「いいねいいねぇ、可愛いねーお嬢ちゃん!」

せつ菜「……それって、かすみさんがやりたいだけの動きですよね」ポツ…

彼方「え?」

 

26ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:52:19.38ID:WBe1vUan

せつ菜「振り付けは変更しません。立ち位置もこれまで通りでいきます」


シン……


かすみ「…どうしてですか」

せつ菜「曲調と噛み合わないからです。前後の振り付けとの雰囲気も合いませんし、変更するメリットがありません」

エマ「でも、可愛いよ?」

せつ菜「可愛い曲ならそれは大事なポイントですが、この曲はそうではありませんよね?」

しずく「それは、そうですけど……でもこれくらい思い切ったことができるのもスクールアイドルのよさじゃないでしょうか。プロのアイドルだとそうはいかないのだと思いますけど、私達には好きなことを表現してもいい自由があるはずです」

せつ菜「………確かに、そんな風に曲の雰囲気を無視して個性を取り入れているグループはいくつもあります。スクールアイドルならではの特徴といえるでしょう」

しずく「そ、そうですよね。だったら──」

せつ菜「ですが、それらの曲がラブライブ!の予選を通過した事例はほとんどありません」

せつ菜「曲との不協和を覆せるほどの圧倒的な個性とパフォーマンスがあれば話は別ですが、今の私達にそれは叶いません」

せつ菜「『大好き』を表現するには、まだ──実力が足りません」

 

27ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:54:20.35ID:WBe1vUan

かすみ「………っ…そんなの……」ギリ…

せつ菜「それとも、たった一曲、たった一秒、好きなポーズができれば満足ですか?それで私達のラブライブ!が終わるとしても?」

かすみ「…かすみん達ならできるって、思ってくれないんですか」

せつ菜「…」

かすみ「せつ菜せんぱい、かすみんのこと『可愛い』って言ってくれたじゃないですか。『誰よりも可愛い』って、あんなに言ってくれたじゃないですか…!」

せつ菜「…スクールアイドルが大好きなんでしょう?やりたいんでしょう?それは自分が表現できればいいだけの、誰にも伝わらなくていいような、軽い気持ちじゃないと思っています」

かすみ「だから、一生懸命伝えようと思って──」

せつ菜「──『こんな』パフォーマンスでは、ファンのみんなに大好きな気持ちは届きませんよ!!」

かすみ「……!!」

せつ菜「今の私達がファンのみんなに向けてできることは、王道をしっかり歩んでいく姿勢を見せることだけです!やっと結成した私達のこれからを見ていてくださいと、誠心誠意でパフォーマンスするしかないんですよ!」

かすみ「だってッ……こんなの、全然可愛くないです!熱いとかじゃなくて、かすみんは可愛い感じでやりたいんです!」

かすみ「予選までまだ時間ありますよね?圧倒的な個性とパフォーマンスを下さいよ、せつ菜せんぱいが!私達に、教えてくれたらいいじゃないですか…っ!」

かすみ「信じてくださいよ──頑張りますからッ!!」

 

28ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 21:57:22.81ID:WBe1vUan

せつ菜「…………っ……」

かすみ ハァ……ハァ…ッ

しずく「かすみさん…」

エマ「……せつ菜ちゃん、」

せつ菜「………今日は、終わりにしましょう。また後でグループに連絡します」フイッ

彼方「せつ菜ちゃん…!!」

せつ菜 ………ッ…

せつ菜 スタスタスタ……


──ギィ────バタン──


それから二日間、せつ菜ちゃんは練習に来なかった。

三日目、グループラインで『業務連絡』が告げられた──

──
────
──────

 

29ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:00:24.92ID:WBe1vUan

数日後…


彼方「おつかれさまぁ~…」ガチャ…

しずく「彼方先輩、お疲れ様です!どうでしたか?」

彼方「だめぇ。今日も見つけらんなかったよ~」

しずく「そうですか…私も二年生の先輩達に聞いてみたんですけど、誰も…」フルフル

彼方「もう、どういうことなの?せつ菜ちゃんってほんとはニジガク生じゃないとか?」

しずく「それはさすがに、ない…と思います…けど……」

彼方「でもさ、彼方ちゃん達にお返事くれないのはまだしも、校内のどこにもいないし何組かもわかんないなんて、ちょっと不思議すぎない?」

しずく「…神出鬼没、ですから」

彼方「はぁぁ~~~疲れちゃったよぉ」ドサッ

エマ「あっ彼方ちゃん、お疲れ様。紅茶いれたところなの、飲むでしょ?」ヒョコ

彼方「のむ~~~」ノシ


『業務連絡』から三日目。
せつ菜ちゃんは、個人ライン・グループライン・通話、どれにも応答してくれなくて、ぱったりと音信不通になってしまっていた。

それに…

 

31ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:03:27.64ID:WBe1vUan

エマ「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」コト

彼方「ありがとう。…かすみちゃんは?」

しずく「今日も来ていません」フル…

彼方「そっかぁ…」


ぽつんと空いた椅子。
かすみちゃんがお気に入りでよく陣取っていた席。

部室はすっかり広くなってしまった。

 

32ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:06:29.13ID:WBe1vUan

彼方「かすみちゃんは音信不通になったりしてないよね?」

しずく「それは大丈夫ですよ、個人ラインでは普通にやり取りしていますから」

彼方「よかった」

エマ「練習、どうしよっか」

彼方「そう、だねぇ。この調子じゃ月末のライブだって参加できないかもしれないし、ラブライブ!の予選だってエントリーするか迷っちゃうもん」

しずく「あ、それ…なんですけれど…」

エマ「なあに?」

しずく「…部長が、もしスクールアイドル同好会の活動が少なくなるようなら演劇部にしっかり顔を出さないか、と。夏舞台に向けた練習が始まっていくので、一年生のうちはしっかり見ておいた方がいいだろうと…」

彼方「あー………」

エマ「同好会が、こんな状況なんだもんね…」

 

33ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:09:30.88ID:WBe1vUan

しずく「すみません。不義理だとはわかっているんですけど、こうして部室に来ても学びがないのであれば、…その…」

彼方「ううん、それは当然のことだよ。彼方ちゃん達も、いつまでもこうして放課後の溜まり場として集まるだけじゃよくないよねぇ…」

エマ「そうだね…」

しずく「部室に誰も来なくなってしまったら、同好会は…どうなるのでしょうか…」

エマ「……わたしは来るよ」

彼方「エマちゃん」

エマ「わたしは、放課後にやらなくちゃいけないこととかないから。いつせつ菜ちゃんが戻ってきてくれてもいいように、来るようにするよ。一人でもダンスの練習はできるし、一人ならこの部室でもじゅうぶんな広さだもの」

彼方「彼方ちゃんもバイトがない日は来るようにするよ~。せつ菜ちゃんに会えたら連絡するからね」

しずく「ありがとうございます。かすみさんにも伝えておきますね」

 

34ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:12:35.20ID:WBe1vUan

ピロン♪


エマ「…ぁ…」

彼方「どしたの?」

エマ「うん、スクールアイドルのイベント情報アプリなんだけどね。二週間前通知が来たの」

彼方「へ~。誰のライブ?」

エマ「わたし達のだよ」っスマホ スッ


『×月×日 () 15:00- 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 ダイバーシティ東京 フェスティバル広場大階段』


彼方「わーお…なんだか胸に来るねぇ…」ウッ

エマ「あはは…そうだね」

 

35ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:15:37.80ID:WBe1vUan

しずく「それって、会場の利用申請とかって取り下げなくていいものなんでしょうか」

エマ「えっと、どうなんだろう…」

彼方「その辺みんなせつ菜ちゃんに任せちゃってたんだもんね…」


──せつ菜「ああ…昨日は練習で残ったわけではないんですよ。ライブ用にステージを借りられないか、いくつかの施設にメールを送っていたんです」

──せつ菜「そんなことに時間を割くくらいなら、筋力トレーニングかダンスの練習をしてください」


彼方「……彼方ちゃん、やっとくよ。たぶんあのパソコンからメールしてくれてたはずだから、連絡先すぐにわかると思うし」ガタ…

しずく「あ、ありがとうございます」

エマ「やっぱりライブはできないよね。こんな状態なんだもん」

しずく「そうですね…」

 

36ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:18:39.77ID:WBe1vUan

カチカチ…


デスクトップの数少ないアイコンからメールボックスをひらき、最近のメールを確認していく。
通数が多くないおかげで、すぐにダイバーシティ東京の管理室宛のメールを発見できた。

さっとメールの履歴を確認して、そのままこのスレッドに返信しちゃえばいいよね…

…あれ?

せつ菜ちゃんがメールしたって言ってたの、先々週くらいだったよね。
っていうかこの日付、今週…?

つい数日前に、メールを返信した履歴がある。
誰が。
ううん、一人しかいない。
どうして。
いつの間に。

 

37ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2021/09/08() 22:21:41.77ID:WBe1vUan

頭の中でいっぱいになった「?」を抱えながらメールをひらいて、つい声が漏れる。


彼方「………これって…」

エマ「彼方ちゃん、どうかしたの?」

彼方「エマちゃん、しずくちゃん。見て」

しずく「なんですか?………………………これって…」

エマ「…どういうこと……?」

彼方「わかんない。けど、書いてあることを素直に読むなら…」


彼方「……しずくちゃん。かすみちゃんにすぐ連絡できる?」

*