607>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:02:25.58ID:MkwL5rSO
寮、果林の部屋…
ゆうぽむ「「お邪魔しまーす」」
果林「どうぞ」
侑「果林先輩、こちら、話した璃奈ちゃんです」
果林「!」
璃奈「は…初めまし、て。天王寺璃奈、です」
果林「初めまして。朝香果林よ」
果林 ジーッ
璃奈「…」ソワソワ
侑「ほら璃奈ちゃん、渡すものがあるよね」ヒソ
璃奈「う…うん」
608>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:06:52.88ID:MkwL5rSO
璃奈「あ、あの」
果林「なに?」
璃奈「こ…これ、どうぞ」っパッケージ ズイッ
果林「…うまい棒?貰ってもいいの?」
璃奈「どうぞ、お土産、です」
果林「…ふっ」
果林「ふふ…うふふっ。面白い子ね、あなた。お土産にうまい棒をくれるなんて」ククッ
璃奈「美味しいし、いっぱい入ってる、ので」
果林「ええ、ええ、知ってるわ。そうね、美味しいしこれだけあったらたくさん食べられるわ」
侑「それ、クレーンゲームで果林先輩にって取ったんですよ。璃奈ちゃんすごく上手なんだよねー」
果林「そうだったの。わざわざありがとう、璃奈ちゃん。ありがたく頂くわね」ガサ
璃奈 ホッ…
609>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:13:05.37ID:MkwL5rSO
果林「そっちのチョコレートもお土産なの?」ス
璃奈「これは私の。一週間のおやつ」
果林「あらそう。それじゃ貰っちゃうわけにいかないわね」
侑「果林先輩、うまい棒って食べますか?取った後になって、もしかしてそういうのあんまり食べないかなーとか思ったんですけど」
果林「たまにはお菓子だって食べるわよ。なにも毎日三食サラダばっかりなわけないでしょう?」
侑「よかった!それもサラダ味だから、お昼ごはんにできますよ!」
果林「……こういうお菓子の『サラダ味』って、サラダ油を使ってるってことよ」
侑「…えっ」
果林「別にトマトやカボチャの味なんかしないでしょ?味付けはたぶんほとんど塩だと思うし」
侑「野菜ってことじゃないんだ…!?」
歩夢「野菜だと思ってたの…?」
610>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:16:55.74ID:MkwL5rSO
果林「立たせっ放しでごめんなさいね。さ、上がってちょうだい」
歩夢「失礼します」
璃奈 …クイクイ
果林「? どうかしたの?」
璃奈 ゴソゴソ…
璃奈「あげる」っチョコバー
果林「いいの?あなたのおやつが減っちゃうわよ?」
璃奈「チョコ、好きみたいだから。食べてください、です」
果林「…」
611>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:20:26.96ID:MkwL5rSO
果林 ゴソゴソ
果林「それじゃ、私もこれあげる」っうまい棒
果林「お土産に貰ったものを返すようで悪いけど、交換っこしましょう。これならあなたのおやつも減らないし、私もチョコが食べられる」
果林「ウィンウィンでしょ?」
璃奈「……ありがとう」
果林「こちらこそ」ニコッ
612>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:26:31.19ID:MkwL5rSO
服の山 コンモリ…
侑「これ、全部ですか…?」
果林「ええ。着るものは取り上げてクローゼットにしまってあるから、これはみんな処分しちゃっていい分よ」
璃奈「すごい量」
歩夢「そうだね…こんなにあったらファッションショーができちゃいそう」
果林「欲しいものがあったら持っていっていいわよ。合うサイズのものがあればね」
侑「うーん…」ヒョイ
侑「どう?」スッ
歩夢「裾が引いちゃいそうだね」
璃奈 ヒョイ スッ
侑「短めのワンピースみたいになってるよ」
歩夢「普通のシャツなのにね…」
璃奈「合うもの、なさそう」
613>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:31:26.13ID:MkwL5rSO
歩夢「まずはアイテムごとに仕分けしよっか。それからまとめて処分を考えよう」
侑「璃奈ちゃん、フリマアプリの使い方ってわかった?」
璃奈「完璧」コクン
侑「さっすが!それじゃ、璃奈ちゃんは果林先輩にフリマアプリの使い方を教えててもらってもいい?私と歩夢で服の仕分けやっちゃうからさ」
璃奈「わかった」
果林「あなた、アプリとか得意なの?」
璃奈「それなりに、わかる」
侑「璃奈ちゃんスマホとか直せちゃうんですよ。も~~、最強の助っ人です!なんたって情報処理学科だもんね!」
歩夢「学科がどうこうってレベルの話かなぁ」
果林「へえ。それなら私より詳しくて当たり前よね。気兼ねなく教えてもらえるわ」
614>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:36:11.97ID:MkwL5rSO
侑「それで、これどうやって分けたらいい?」
歩夢「まずはトップスとボトムスに分けちゃおっか。それからそれぞれの量を見てさらに細かく種類分けしよ」
侑「と、トップス…?ボトムス…??」
歩夢「上に着る服がトップスで、下に穿くものがボトムスだよ。ズボンとかスカートとか」
侑「こういうワンピースみたいなのは?」
歩夢「うーん…別枠にしておこっか。見た感じそれ系はあんまり多くなさそうだね」
侑「じゃあ私はワンピースみたいのとポップスを中心に集めていくね!」
歩夢「うん、お願い。あとトップスね」
615>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:40:36.50ID:MkwL5rSO
ワイワイ…
果林「歩夢がいるから向こうは大丈夫そうね」
璃奈「AndroidとiPhone、どっちです、か?」
果林「スマホの種類よね?えっと…スマートフォンよ」
璃奈「…」
果林「…」
璃奈「見せて」
果林「はい」っスマホ
璃奈「アプリを落とすから、プレイストアを開いて」
果林「うん。落とすのね?スマホを?」
璃奈「…」
果林「…」
璃奈「触ってもいい?」
果林「どうぞ」
616>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:47:39.70ID:MkwL5rSO
璃奈 スマスマスマスマ…
果林「へえ、さすが情報処理学科。慣れたものね」
璃奈「ここ、入力してください」スッ
果林「振込先口座を指定するのね。えーっと」スマスマ…
璃奈「読者モデル、なんですか」
果林「そうよ。侑達に聞いた?」
璃奈「はい」
璃奈「楽しい?」
果林 …ピタ
果林「どうかしらね」
果林「楽しい、と思う瞬間があるのは確かね。よりベストな角度を見つけたときとか、納得のいく写真を撮ってもらったときとか」
璃奈「…そう、ですか」
果林「はい、入力できたわ」
果林「興味があるの?」
璃奈「…わかんない、です」
果林「…そう」
617>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:51:32.49ID:MkwL5rSO
侑「終わったー!」
果林「ちょうどよかった。こっちも準備が整ったそうよ」
歩夢「私達の方はトップスとボトムスに分けただけなので、ここからもう少し分けていこうと思います」
侑「あれ!?まだ終わってない!?」
歩夢「もう、聞いてなかったでしょ」プクー
侑「あはは…」
侑「でもアプリの準備できたんですね」
果林「璃奈ちゃん、すごいわね。ほとんどみんな任せちゃった」
璃奈「ほとんどみんな任された」
歩夢「ありがとうね、璃奈ちゃん」
618>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 08:58:33.32ID:MkwL5rSO
果林「ふうん、こんな風に分けてみたことなかったから新鮮ね」マジマジ…
果林「…ん?」
侑「どうかしましたか?」
果林「このパンツは穿くやつね。危ない、見落としてたみたい」ヒョイ
侑「わ、見つかってよかった」
歩夢「念のためさっと確認してもらった方がいいかもしれませんね」
果林「昨日ちゃんと見たもの、もう大丈夫よ。………あら、そのアウター…」ヒョイ
侑「…」
果林「これ来週の撮影に持っていこうと思ってたのよね…こっちはクリーニングに出してしまっておくやつだわ…」ゴソゴソ…
歩夢「…」
果林「んー…ちょっと待って、これかなり使いやすそうね。あのときのコーディネートにアクセントとして加えたらぐっとよくなりそう…」ゴソゴソ…
璃奈「…」
果林 ゴソゴソ…ゴソゴソ……
果林 …………………ハッ!!
619>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 09:02:08.55ID:MkwL5rSO
侑「…果林先輩、この山ってほんとにみんな処分しても…」
果林「だ、だめなやつが少し…少しだけ混じってる、かも…」
歩夢「…クローゼットにしまったっていう方には、処分するやつは残ってないですか?」
果林「それはさすがに…」
果林 スタスタ… ガラッ ガサガサガサ…
果林「………これと、…これ、…………これ、……これと」
果林「あと…これ。この辺はもう着ないわね」フム
ゆうぽむりな「「「………」」」ジーーーッ
歩夢「改めて、整理し直しましょうか」
果林「ご、ごめんなさい……」
620>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 09:08:17.78ID:MkwL5rSO
しばらくして…
果林「……………うん、バッチリ。こっちはみんな処分してよくて、だめなやつはクローゼットにしまったわ。完璧ね!」
侑「や、やっと終わったぁ…」クタ
璃奈「疲れた」パタリ
歩夢「アイテムが多いだけに時間かかっちゃったね」フゥ…
侑「見てるうちに果林先輩コーディネートとか考え出すんだもん。いるやつどんどん増えてっちゃうし…」
果林「わ、悪かったわね。今まで全部並べて見てみたことなんかなかったんだもの、新しい可能性がたくさん見えたのよ」
歩夢「そうやってすぐに組合せを判断できるのはすごいですけどね」
璃奈「私にはできないこと、尊敬する」
果林「続きやる前にランチにでも行きましょうか」
侑「さんせー!」
果林「いいお店に連れていくわ。…その、ちょっぴり迷惑かけちゃったお詫びに、ね」
621>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 09:15:53.46ID:MkwL5rSO
イタリアンのお店
「雲丹のペペロンチーノです」コト
侑「来たぁ!」
果林「これでみんな揃ったわね」
歩夢「それじゃ、手を合わせて」人
ゆうりな 人
果林「えっ?」
歩夢「…?いただきますしないんですか?」
果林「え、ああ、する…けど…」
果林 人…
「「「いただきます」」」
果林「い、いただきます…」//
622>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 09:18:54.49ID:MkwL5rSO
侑「ん!美味しい…!」
歩夢「果林先輩の、なんでしたっけ?」
果林「茸と松坂牛のタリアテッレよ」
侑「た、たりあ…?」
歩夢「私達には難しいね…」
璃奈 モグモグ…
侑「ああほら璃奈ちゃん、ソースついてるよ」キュ
歩夢「そう言う侑ちゃんもついてるよ」キュ
果林「…うふふ」
果林「たまにはいいわね、こういうのも♪」
623>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 09:22:17.23ID:MkwL5rSO
「「「ごちそうさまでした」」」
果林「ごちそうさま」
侑「大満足だよ~」
歩夢「だね」
璃奈「ミートソース以外のパスタ、初めて食べた」
果林「クリームペンネも美味しかったでしょ?」
璃奈「もちもちしてた」
果林「ここ、ピザと生ハムも美味しいのよ。また来ましょうね」
璃奈「うん」
璃奈 ジッ…
果林「どうしたの?」
624>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 09:26:31.22ID:MkwL5rSO
璃奈「果林、さん、ぱい」
果林 …クスッ
果林「果林でもさんでもいいわよ。なに?」
璃奈「どうして優しくしてくれるのかなって」
果林「どうしてって?」
璃奈「私、笑わない、から。『なにを考えてるのかわからなくて不気味』とか、その…」
果林「璃奈ちゃんに対して?思うわけないじゃない」
果林「侑達があなたのことを可愛がってる姿を見たら、悪い子じゃないことはわかるもの。それに、今日この時間までに話しただけでも、私自身もそう感じたわ」
璃奈「…」
果林「笑わないのを気にしてるの?」
璃奈「私、あんまり、感情を表現するの、得意じゃなくて」
果林 …フフッ
625>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 09:29:58.33ID:MkwL5rSO
果林「なあに、そんなこと」
璃奈「!」
果林「笑うのが女の愛嬌なら、笑わないのは女の仮面よ」
果林「ここぞというときにとびっきりの笑顔ができればそれでいいの。笑顔も涙も安売りしない女の方が、私は好きよ」ツン
璃奈「…」
侑「えー、璃奈ちゃん好きだって!いいないいな、果林先輩、私はどうですか!?」
果林「もっと落ち着きを持ちなさい」
侑「うっ」グサッ
果林「歩夢はいい女よ」
歩夢「やったぁ!」
侑「私だけやだぁ~!」
果林の部屋の片付けをみんなでやりました! ▼
627名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/12/16(水) 10:20:19.59ID:rnJ1Kp+7
乙です
かすみんに果林ちゃん、とりなりーが順調に裏主人公歩んでる件w
628名無しで叶える物語(庭)2020/12/16(水) 19:50:26.81ID:mf4jPDX+
大変ほっこりいたした
629>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:23:55.67ID:MkwL5rSO
夕方…
歩夢「それじゃまたね、侑ちゃん」
侑「うん。お疲れ様~」
友達と遊んだ日にしては少し早めの帰宅。
果林先輩を友達って言うべきかはちょっと難しいところだけど…
とにかく、無事に全てのいらない服をフリマアプリに出品し終えたその帰り。
侑「ほんとにお疲れ様だったなぁ」クタ
630>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:29:31.26ID:MkwL5rSO
お昼ごはんから戻ってからの作業。
アイテムごとに一つひとつ写真を撮って、簡単な説明文を書いて、出品金額を決める。
なんてことないそんな作業もあれだけ数があるとさすがに堪えた。
四人で交代しながら出品作業をしつつ、手が空いたらおやつの買い出しに行ったりして、楽しく過ごす午後だった。
「適当にしまうと、売れたときにどれがそのアイテムかわからなくなる」という璃奈ちゃんの鋭い指摘に従って、アイテムごとにタグを作ってくっつけたり、番号を振って整理したり…
引越業者さんとかこんな感じなのかなぁ、なんて頭の片隅で思った。
ようやく全部終わったのがついさっきのことで、璃奈ちゃんをお家の傍まで送って、やっと二人で帰り着いたところだ。
631>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:31:57.51ID:MkwL5rSO
晩ごはんまではまだ時間がありそうだし、お母さんに呼ばれるまで寝ちゃおうかな。
ベッドに身体を放り投げてぼーっとしてるうちに、うとうと瞼が下りてくる………
♪
侑「…ん」
かろうじて意識が途切れる寸前にスマホが震えた。
侑「……あっ」
632>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:35:22.33ID:MkwL5rSO
目が覚めた、とは言わないけど、声が漏れるほどには意識を取り戻す。
『しずくちゃん:もういくつ寝ると、あなたの傍へと行けるのでしょう』
すぐにもう一言、
『しずくちゃん:私は、明日、剣を取る』
侑「……」
どうしようかな? >>633
1.会いにいく
2.電話をかける
3.メッセージを返す
4.反応しない
633名無しで叶える物語(たこやき)2020/12/16(水) 20:38:29.63ID:V7WqgUj6
2
634>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:42:22.75ID:MkwL5rSO
いつもに比べると、時間が早い気がする。
…ああ、今日は短めなんだって言ってたっけ。
そっか、ってことはもう部活終わったのかな。
明日はいよいよ演劇の本番だもんね。
きっとしずくちゃん、一人で堪えきれないくらいの色々な気持ちを抱えてるんだろうな。
支えたいなぁ。
なにもできることなんかないけど、それでも傍にいたいなぁ。
頭を撫でてあげたら緊張を解くくらいのことはできるかもしれない。
635>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:43:37.45ID:MkwL5rSO
でも、
──『しずくちゃん:だから侑先輩にお願いすることがあるとしたら、私に会おうとしないでください』
──『しずくちゃん:公演の日が近づくにつれて会いたくなってしまうと思います。私から連絡をしてしまうと思います』
──『しずくちゃん:でも、どうか公演が終わるまで、鬼になって私を突き放してください』
──『しずくちゃん:お願いします』
たった一つだけのお願い事だもん、それくらいはせめて守らなくちゃね。
636名無しで叶える物語(たまごやき)2020/12/16(水) 20:47:25.29ID:xzuIcUvv
そういや明日か
637>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:47:37.59ID:MkwL5rSO
鬼になって突き放す。
それって、会いにいかなければいいだけなのかな。
今のしずくちゃんは、しずくちゃんじゃない。
歴史の中に生きる一人の革命家。
いよいよ明日に迫ったこの瞬間に『私』が会いにいっちゃったら、きっと作り上げた役とか気持ちみたいなものがみんな壊れちゃうんだよね。
だから、会いにはいけない。
だったらどうすればいいんだろう。
会っちゃいけないけど、電話ならいい?
メッセージを返すのは?
………そのどれだって私は私で、彼女をしずくちゃんに戻してしまうような気がする。
638>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:49:09.22ID:MkwL5rSO
だったらここは鬼になって、無視をするのが正解──
──『しずくちゃん:あ、でもお返事くらいは下さると嬉しいです』
──『しずくちゃん:わがままですけど、無視されちゃったら寂しいですから…』
──じゃ、ない、はずだ。
639>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:53:39.32ID:MkwL5rSO
しずくちゃんはすごい役者だけど、そうである前に高校一年生の女の子だもん。
大舞台を控えた今、どんな気持ちでいるのか、これまでたいした大勝負なんて経験してこなかった私には想像すらできない。
だけど、『桜坂しずく』として誰かに縋りたいって本音がないわけがない。
そんな本音を私にぶつけてくれたんだ。
応えたい。
応えたい。
今、私ができる最善のことはなんだろう。
会いにいくことじゃない。
電話で話すことでもない。
メッセージを返すのも、無視をするのも違うなら。
『しずくちゃん:私は、明日、剣を取る』
しずくちゃんの心情に最も誠実に応えるには──
640>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 20:57:19.49ID:MkwL5rSO
『通話』ボタンにそっと触れる。
画面がぱっと切り替わって、特徴的な呼び出し音。
一秒。
私はすぐに『終話』のボタンを押した。
641>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/16(水) 21:03:41.57ID:MkwL5rSO
侑「……………ふぅぅぅううう……」
スマホ画面がトークルームに戻ったのを見て、大きく息を吐く。
たった一秒のはずなのに、まるで限界まで息を止めてたみたいに心臓がばくばく暴れてる。
しずくちゃんが応答しちゃったらどうしようかと思った。
顔は合わせない。
言葉も交わさないし、触れることもない。
だけど、私はここにいるよ。
しずくちゃんが伸ばした手を確かに取ったから。
今は、ただ──一人の革命家として前を向いていてほしい。
これが、今の私にできるきっと最善だよね。
明日、しずくちゃんに戻ったしずくちゃんに会えたら──言いたいことが、たくさんあるから。
頑張れ。
しずくから連絡がありました! ▼
643名無しで叶える物語(八つ橋)2020/12/16(水) 21:11:21.50ID:jTPAUjX1
なんて素敵な
644名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/12/16(水) 22:59:30.41ID:IzHnK1B6
今日もありがとう
明日はついに……!!
645>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:01:38.80ID:J/biDMab
翌朝…
侑「お母さん、髪変じゃない?」
高咲母「変じゃない。もう、何回聞いたら安心するの?」
侑「だってえ…」
侑「演劇観にいくのにツインテールって子どもっぽいかな?ハーフアップの方がいい?」
高咲母「子どもでしょ」
侑「そういうこと言わないでよー!」
高咲母「侑は侑らしいのが一番よ。その髪型が一番可愛いってば」
侑「…そう?」
高咲母「そうよ。自信持って」
侑「うん…わかった、ありがとう」
高咲母「お餅何個食べる?」
侑「三つ!」
高咲母「はいはい」
646>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:04:39.67ID:J/biDMab
侑「いただきます」
高咲母「どうぞ」
高咲母「今日、学校でやるのよね?お母さんも観にいこっかなー」
侑「んぐっ!?」
侑 ゴホッゴホッ
高咲母「ちょっと大丈夫!?はい、お茶飲んで!」サッ
侑 ゴクゴクゴク…
侑「っはぁぁ~~~………」
侑「いきなり変なこと言わないでよ!」
高咲母「そんなに変なこと言った…?」
647>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:08:53.95ID:J/biDMab
侑「お母さんもお友達と出かけるんでしょ。余計なこと考えてないで、めいっぱい楽しんできてよ」モグ…
高咲母「余計なことって」
侑「ただの部活の演劇だよ。わざわざ予定変えて観にいくほどのものじゃないってば」
高咲母「しずくちゃんが出ないなら、そうよねえ」
侑 ピタ…
侑 ジロッ
高咲母「だって出るんでしょ?しずくちゃん」
侑「…出るけど、ちょっとだけだよ。主役は三年生達だって言ってたから」
高咲母「そう。どんなだったか教えてね」ニコニコ
侑「………うん」モグモグ…
648>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:14:52.85ID:J/biDMab
時刻は10時。
開演の30分前には学校に着いておきたいし、そろそろ出なくちゃ。
ああ、なんだかどきどきしてきた。
人は多いのかな。
時間はどのくらいなんだろう。
くしゃみしちゃったらどうしよう。
ストーリー難しくないかな。
演劇を観にいくなんて初めて──じゃなかった。
じゃないのに、なんでこんなに。
前のときも楽しみだったけど、こんな緊張するような気持ちなんかなかったよ。
うう…
ああっもう、とりあえず行こう!
649>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:22:59.22ID:J/biDMab
『出発します、お掴まりください…』
虹ヶ咲学園行きのバスに乗り込んで、がらがらの最後席に座る。
場所が学校でよかった。
深く考えずに制服を着ておけばいいから。
朝からこんな調子なのに格好まで考えなくちゃいけなかったら、もういっぱいいっぱいになっちゃってたに違いないもん。
ラインのトーク画面を開く。
夕方に発信した『応答なし』の通知っきり、メッセージは一通もない。
一言、応援の言葉を贈りたい気持ちはある。
でもそれはこの不在着信を上から塗り潰す行為だ。
ぐっと堪えて、私は遠く佇む虹ヶ咲学園をぼんやりと眺め続けた。
650>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:27:41.37ID:J/biDMab
『終点、虹ヶ咲学園です。お忘れ物のないようご注意ください…』
何回こうしたかも数えられないくらい当たり前のことなのに、バスから降りる一歩が強張った。
ほんの一瞬、このまま折り返して帰っちゃおうかと思った。
運転手さんの不思議そうな視線を感じてすぐに降りたけど。
日曜日の学校。
初めてでもなんでもないのに、なんとも言えない緊張がずっと付きまとってる。
…いいよ。
今のうちに思う存分緊張しててよ、私。
その代わりに演劇が始まったら集中してよね。
651>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:33:04.30ID:J/biDMab
講堂に近づくにつれて人は少しずつ多くなっていった。
日曜日だって部活動があるところはあるし、それになにより演劇の公演があるから。
入口に着く頃にはがやがやと喧騒を感じるくらいにはなってて、なんとなく、ほっとした。
侑「お手洗い行っとかなくちゃ」
入場受付はもう始まってるみたいだから、いい席が残ってたらいいんだけどな。
…いい席ってどこなんだろう。
他校の制服もちらほら見かけて、やっぱり虹ヶ咲の部活動は注目されてるんだなぁ、なんて思った。
652>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:37:56.98ID:J/biDMab
講堂
侑 ストン…
ほとんど真ん中で、ちょっと前寄りの席。
ちょうどそんなところが空いてたからそこに決めた。
うん、舞台もよく見える。
前回はしずくちゃんに連れられて席に座ったし、そもそもどの席がいいかなんて考えることすらなかった。
一人で来るのはわかってたんだから、オススメの席くらい確認しとけばよかったな。
周りを見ると、広い講堂もそれなりに埋まってる。
うちの生徒、他校の生徒、保護者。
みんな隣に座る誰かと話をしていて、一人でぽつんといるのなんて私くらいだった。
でも、いいんだ。
私は誰と来たかったわけじゃない。
演劇を観るために来たんだもんね。
653>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:47:35.84ID:J/biDMab
もう、開演の時刻がすぐそこまで迫ってた。
講堂内の喧騒は一番大きくなってて、私の両隣にも人が座った。
今さらながら、受付で貰ったパンフレットに目を落とす。
『名誉の涙』
『脚本・演出:葉月春奈(虹ヶ咲学園演劇部)』
大瀬夢見じゃない、よね。
そりゃそうだ。
でも高校の演劇って脚本まで部員が書くんだ。
すごいなぁ。
654>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 08:57:11.12ID:J/biDMab
時代や国ははっきりと記されてないけど、王政ってことはフランスかイギリスなのかもしれない。
登場人物の名前もみんなカタカナだから、さすがに日本ってことはなさそうだよね。
あらすじを一言で表すなら、王政の崩壊を目指すレジスタンスの奮闘記、という感じだ。
暴君の末弟がお祭りの日に町へ抜け出して、そこで初めて王政への不満と民の暮らしに触れる。
自分の無知を恥じた末弟は密かに集められてたレジスタンスに加わって、たくさんの人達の想いを受け取りながら王政の崩壊へ踏み出す──
ストーリーとしてはわかりやすくて王道だ。
あんまり難しい政治の話が出てくるとまずかったけど、これくらいなら私もついていけそう。
655>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 09:03:21.08ID:J/biDMab
末弟から始まって、役の名前と簡単な説明、役者の名前が並んでる。
そのページの最後の方に役者名だけが何人分か並んでいて、
『桜坂しずく(一年生)』
端役、としずくちゃんは言った。
役の名前もなければ説明もない、男か女かもわからない。
そんな役だけど、確かにここにいる。
『名誉の涙』といういくつもの人生の交差点に、一人の人間として登場する。
端役なんてものは存在しないんだ。
彼女は彼女の人生の主人公だもん。
私はそれを見届けるために、今日、ここに来たんだ──
客席の照明がゆっくりと落ちて、幕が上がった。
656>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 09:13:19.21ID:J/biDMab
賑やかなお祭りの音楽が流れて、そこかしこで町の人達の踊りや歌、腕相撲を楽しんでいる。
明らかに浮いた衣装の男が物珍しそうに騒ぎの中を歩いて抜ける──主人公だ。
始めは無邪気にお祭りの様子を楽しんでいた主人公だけど、ふとした拍子に路地裏へ迷い込み、そこで表の賑わいとは全く異なる町の顔を知る。
城へ戻った後もその光景を忘れられなかった主人公は、今度は自分の意思で町へ下り、酒場でレジスタンスのリーダーに出会う。
王家の者に話すことなどない、とお酒をかけられたり、時には若いレジスタンスから追い回されたりもした。
それでも主人公は挫けずに、何度も何度も町へ足を運んではリーダーと話をしようと繰り返す。
次第に主人公のことを受け入れようという気持ちがレジスタンスグループの中に湧いてきて──
657>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 09:19:26.90ID:J/biDMab
侑「………!」
とある酒場でのシーン。
明るく照らされた店内の隅、座る女の姿。
しずくちゃん…?
髪型も服装も普段とはまるで違う。
壁を向いて飲み物を片手に俯いてる。
なに一つはっきり見えないけど、あれはしずくちゃん──だと、思う。
店内の中央で客同士の言い争いが始まる。
耐え忍ぶことこそが強さだという。
意思を示すことこそが強さだという。
そうして殺された者を何人も見てきた。
耐え忍んでいた者は一人も死ななかったか。
圧政で余裕がなくなった客達は、小さなきっかけを得たことで口々に本音を吐き出した。
店の奥に座る女の手は、小さく小さく──けれど強く強く──震えている。
658>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 09:27:14.59ID:J/biDMab
とうとう客同士の争いが言葉のやり取りを超えかけたとき、奥で男が立ち上がった。
「耐え忍んで変わる明日ならば、なぜおれ達は今なおこんなにも苦しい!叫ぶだけで雲が晴れるならば、なぜこの町は今なお暗雲で覆われている!」
「それだけでは足りぬのだ。気づけ、皆!おれ達が求める明日がどうすれば手に入るのかを、考えろ!ここで酒を喰らうだけの日々がなにを生む!」
──ガタ──
「…明日もまた、同じ日が来るのだろう」
「幸福は一生来ないのだ…!」
「けれども── パァンッ
乾いた音が、若い女革命家の言葉を遮った。
659>>1 ◆1Y9DDrqNbw (茸)2020/12/17(木) 09:32:53.67ID:J/biDMab
「………っふ…」
吐息を漏らした女革命家は、一歩、二歩、よろよろと踏み出して──
そのまま酒場の床に倒れ込んだ。
「おまえらレジスタンスが余計なことをしたせいで、うちの畑は王家の奴らに持っていかれた!なにが明日だ、今日食う麦だってもうねえのに!」
男革命家は倒れた女に呼びかける。
客の一人が撃った男に殴りかかる。
逃げ惑う客、叫ぶ革命家、──店の入口で茫然と立ち尽くす王家の末弟。
物語は佳境を迎え、終わりへと動き出した──
661名無しで叶える物語(たこやき)2020/12/17(木) 10:10:02.32ID:Bm9jSDgJ
おつやで
アニメネタ取り入れてくるのアツい