ことり(18)「今日からあなたの専属メイドになることりです。まりちゃんよろしくね♡」鞠莉(11)「ふんっ…」 9

247>>1(しうまい)2020/05/23() 17:30:46.25ID:krBraYn6

ブレイク ブレイク スタイル 1/6


鞠莉ママ「オォ………ォ…」

まり「じゃーんっ、どうママ!?ことりと一緒に作ったのよ!」

マカロン テテーン

まり「どう?どう??」

鞠莉ママ「──────」カタカタ

ことり (あ、これ感動のあまり大宇宙感じてるやつだ)
※ ことりも大宇宙の経験者だよ!

鞠莉ママ ──ハッ

鞠莉ママ「イエノォ!!スグに coffee を!!」

家野「ご用意できています」カチャ

鞠莉ママ「マリ、コトリ、座りなサイ。スグに頂きまショウ!」

まり「うん!」

ことり「はい!」

 

248>>1(しうまい)2020/05/23() 17:31:12.38ID:krBraYn6

ブレイク ブレイク スタイル 2/6


まり「こっちのがココア味で、こっちが抹茶。これはね、えへへ…コーヒー味よ」

鞠莉ママ「こんなにたくさん、大変だったでショウ」

まり「それがことりったらすごいんだから!レシピほとんど見てないのに、次から次に色んなことやっちゃうの。まりが聞いたこともすぐ教えてくれるのよ!」ニコニコ

鞠莉ママ「ホウ…」

鞠莉ママ「アリガトウ、コトリ」

ことり「いえいえ。まりちゃんとお菓子作りできてとっても楽しかったですから」

鞠莉ママ「…おや、マリはなにを飲んでいるの?」

まり「ホットミルクよ」

鞠莉ママ「ホットミルク…!?」

家野「奥様はこちらを」カチャ

鞠莉ママ「アラ?紅茶?」

家野「召し上がるとおわかりになるかと思いますが、やや濃い目の味になっています。ハイマウンテンの浅煎りでもいいのですが、私はウバの方が合うと感じましたので」

鞠莉ママ「そう、イエノがそう言うのなら文句はありまセン。マリはホットミルク、ワタシは紅茶。なんだか不思議な光景ね」

 

249>>1(しうまい)2020/05/23() 17:31:38.29ID:krBraYn6

ブレイク ブレイク スタイル 3/6


四人「「「「いただきます」」」」

パク…

鞠莉ママ「...Fine Del Mondo...!!

まり パァ

鞠莉ママ ス…

鞠莉ママ「…なるほど。ウバの渋味と非常に match しマス」

ことり「アフタヌーンティーって言うからには、お菓子によっては紅茶を合わせるのもいいですよね」

鞠莉ママ「そうね」

まり ソワソワ

鞠莉ママ「? どうしたのデスか、マリ」

まり「ねえママ、一緒にコーヒー味の食べましょ」

鞠莉ママ「言われなくても、ぜひ」ヒョイ

まり「せーので食べるわよ。せーのっ」

まり パク

鞠莉ママ パク

モシャ…モシャ…モシャ…

鞠莉ママ「これもとても美味しいわね。coffee がかなり濃いけれど、マリは平気なの?」

まり「うん、ミルクと合わせたらちょうどいいわ」ゴク

 

250>>1(しうまい)2020/05/23() 17:32:10.01ID:krBraYn6

ブレイク ブレイク スタイル 4/6


鞠莉ママ「そう、ミルクと合わせるために濃くしてあるのデスね」

鞠莉ママ「ワタシも coffee を飲まなくても満足なほど濃いけれど、マリも食べられるならば──」

ことり ニコニコ

鞠莉ママ「……なんデスか、ニヤニヤして」

ことり「に、にやにやしてないですもん!」

まり「きもちわるい」

ことり「まりちゃんまでぇっ!!」

まり「…あのね、ママ。コーヒー味をこんなに濃くしたのはことりが考えてくれたことなのよ」

鞠莉ママ「ハイ?レシピがコトリのものだというのなら、当然のことでショウが…」

まり「そうじゃないの」

まり「まりが、ママとコーヒーブレイクを楽しめるようにって。考えてくれたのよ」

鞠莉ママ「エ──…?」

ことり「まりちゃんは、まだコーヒーを飲むのは難しいかなって思うんですけど。お菓子ならこれくらい濃くても食べられるみたいだから」

ことり「一緒にコーヒーを飲めないのなら、一緒にコーヒーを『食べる』コーヒーブレイクにしちゃえばいいんじゃないかなって、思ったんです」

鞠莉ママ「────………!!」

 

251>>1(しうまい)2020/05/23() 17:32:37.85ID:krBraYn6

ブレイク ブレイク スタイル 5/6


──鞠莉ママ「まずは好き嫌いデスか。マリは coffee がニガテなようで…」

──ことり「小学生ですよね!?飲めなくて普通だと思いますっ」

──鞠莉ママ「でもワタシはマリと coffee break を楽しみたいのデース!」イヤイヤ

──ことり「ふええ……小原さんの願望じゃないですかあ…」


鞠莉ママ (私が言ったほんの些細なことを、ずっと気にしてくれていて)


──鞠莉ママ「ワタシの tiramisucoffee の風味が強く感じマスね」

──家野「奥様の分とまりお嬢様の分とで、分量を変えて作っていらしたようですよ」


鞠莉ママ (そう、この子は…マリと実際に会うよりもずっと前から、私達のことを一生懸命に考えてくれていて。ここにいる間も、きっとずっと考えてくれていたのね)


──鞠莉ママ「コトリは kitchen でなにをしているのデスか?」

──家野「お嬢様のおやつを作っているのだと思っていましたけど、どうかしましたか?」

──鞠莉ママ「umm...ワタシが覗いたら、とても慌てた様子で追い出されてしまったのデス」

──家野「あら」


鞠莉ママ「…………」

 

252>>1(しうまい)2020/05/23() 17:33:04.25ID:krBraYn6

ブレイク ブレイク スタイル 6/6


まり「ごちそーさまでしたっ」

家野「どの味も、とても美味しかったですね」

鞠莉ママ「エエ」

家野「日持ちはそんなにしませんよね。残った分はどうしましょうか」

まり「あ、それ明日かなん達に持っていくの」

家野「そうでしたか。では簡単にラッピングをしてから冷やしておきますね」

まり「ありがとう!」

ことり「私、洗い物してきますね」ガタ

まり「あー、お菓子作り楽しかったわ。ちょっと面倒くさかったけど、ことりがちゃんと教えてくれるならたまにやってみてもいいわね。ねえママ、なにか作ってほしいお菓子ある?よくわかんないけど、ことりなら作り方知ってると思うから一緒に作って……… …ママ?」

鞠莉ママ「コトリ、イエノ!こちらへ来なサイ!」

鞠莉ママ「…マリ、話しておくことがありマス」

まり「…?」

 

253名無しで叶える物語(光)2020/05/23() 17:47:59.09ID:pLzgkoQL

>>247
大宇宙すき

 

255名無しで叶える物語(SIM)2020/05/23() 20:19:36.54ID:5jrsT9v5

面白い
頑張って

 

256名無しで叶える物語(SB-iPhone)2020/05/23() 21:41:58.24ID:rDm3Ld+e

離れて欲しくない…
ことりちゃん鞠莉ちゃんの専属メイドになって欲しい
🥺

 

257名無しで叶える物語(はんぺん)2020/05/23() 21:53:31.92ID:z2dKPG5F

ssやあ…

 

259名無しで叶える物語(やわらか銀行)2020/05/24() 02:45:56.77ID:f7WfwBp2

ロリまりがくそかわ

 

260名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/05/24() 02:58:45.21ID:Gjs7aUcB

ロリーはロリの中でもトップクラスの可愛さだから是非映像化してほしい

 

261名無しで叶える物語(えびふりゃー)2020/05/24() 08:51:41.18ID:7jncnDKj

面白い

 

262名無しで叶える物語(らっかせい)2020/05/24() 09:54:43.74ID:bQXKLy+6

あああああー、癒されんるんじゃーーー

 

263名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/05/24() 09:56:25.38ID:usi7nzxS

いいぞ

 

264>>1(しうまい)2020/05/24() 10:14:40.10ID:qLct1x7D

残酷な通達 1/8


十二日目、日曜日


ことり「……」

家野「保冷剤は入れていますが、黒澤さんのお家に着いたら、おやつの時間までは冷蔵庫に入れさせてもらうんですよ」

まり「わかってる、ありがと!」

鞠莉ママ「わざわざハグゥとデスワァに分けなくても、ワタシがみんな一人で食べるのに」ムスー

まり「ママってば、そんなこと言わないの!」

家野「果南さんを呼びにいかれている間に、船の準備をしておきますからね」

まり「うん、ちょっと呼んでくるわ!」

ことり「まりちゃん、

まり「あ。そうだいえの、今日、四時くらいにお迎えにきてもらってもいい?」

家野「わかりました」

ことり「あ、わ、私お迎え行こうか!?」

まり「………ことりは運転できないでしょ?運転ができる人に来てもらうから、大丈夫よ」ニコッ

ことり「そ、そっか…そうだね…」

家野「……」

鞠莉ママ「……」

まり「じゃあ呼んでくる!」タタタ

 

265>>1(しうまい)2020/05/24() 10:15:07.56ID:qLct1x7D

残酷な通達 2/8


かなん「いってきま~す!」ノシシシ

まり「いってきます」

ブ…

ブゥゥゥゥン…

ことり「………」

家野「ことりさん」

ことり「あ、いえ、大丈夫です。昨日、覚悟はしてたので」

家野「…そうですか」

鞠莉ママ「コトリ、」

ことり「はい」

鞠莉ママ「…イエ、なんでもありまセン」

家野「ホテルのことは時間があれば、で構いません。ことりさんは先にご自身の整理をされてください」

ことり「ありがとうございます、そうしますね」スタスタ…

家野「寂しくなりますね。あっという間の二週間でした」

鞠莉ママ「そうね」


──鞠莉ママ「コトリがウチを出るとき、少しでも別れをイヤがってくれたら、それで成功デス」


鞠莉ママ (「これで成功デスよ」なんて、とてもじゃないけど言えないわね……)

 

266>>1(しうまい)2020/05/24() 10:15:37.42ID:qLct1x7D

残酷な通達 3/8


──鞠莉ママ「…マリ、話しておくことがありマス」

──まり「…」

──家野「…」

──ことり「…」

──鞠莉ママ「ワタシは、明後日出発しマス」

──ことり「!」

──まり「あ…そうよね、もうそんなにたっちゃったんだ」

──鞠莉ママ「それに伴って、コトリも…明後日でウチを出ることになるわ」

──まり「ぇ………」

──家野「あっ、そう…でしたね…!」ハッ

──鞠莉ママ「毎日とても真剣に頑張ってくれて、ホントウに感謝していマス。明後日の昼前にはウチを出ることになるので、明日いっぱい楽しく過ごしなサイ」

──家野「すっかり馴染んでしまっていました。まるで昔からご一緒しているようで、それでいてこれからもご一緒していくかのような気持ちでいましたね。寂しいことですが、あと一日、よろしくお願いします」

──ことり「はい。私も、なんだか変な気持ちです」

 

267>>1(しうまい)2020/05/24() 10:16:08.21ID:qLct1x7D

残酷な通達 4/8


──鞠莉ママ「それで明日デスが、せっかくならば四人でどこか出かけて──」

──まり ガタ…

──家野「お嬢様?」

──まり クルッ

──まり スタスタスタ…

──鞠莉ママ「マリ?どうしたの?」

──まり「お部屋に戻るわ。ちょっと寝る」

──家野「え、っと…」

──鞠莉ママ「今スグでなくてもいいでショウ。明日どうするかだけ決めたら、dinner までは自由に…」

──ことり「まりちゃん、明日…」ソッ

──まり「さわらないで!!」パシッ

──ことり「…っ!?」

──鞠莉ママ「マリ!なにをするのデスか!」ガタッ

──家野「お嬢様、どうかなさいましたか──」


──まり ポロポロ……ボロ…ボロ……


──鞠莉ママ「マ、リ…」

──家野「お嬢様…」

──ことり「まり、ちゃん…」

 

268>>1(しうまい)2020/05/24() 10:16:36.15ID:qLct1x7D

残酷な通達 5/8


──鞠莉ママ「マリ、どう…したの……」

──まり「………っぱり……」

──まり「…やっぱり、いなくなっちゃうんだ……」グシグシ…

──鞠莉ママ「…………!!」

──まり「ことりも、まりを置いて……行っちゃうんだ…」グズ

──ことり「まりちゃん、わたし…」

──まり「わかってたことだもん、いいわ。平気。そういう約束だったもんね」

──まり「大丈夫だから。ちょっと、疲れたから寝るだけ」

──まり「おやすみなさい」

──まり スタスタスタ…

──家野「……お嬢様、お部屋までご一緒します」タタッ

──ことり「わたし…」ヨロ…

──鞠莉ママ「…スミマセン、コトリ」

 

269>>1(しうまい)2020/05/24() 10:17:07.19ID:qLct1x7D

残酷な通達 6/8


──ことり「小原さん…」

──ことり「まりちゃん、『やっぱり』って…『ことりも』って…」

──鞠莉ママ「…ワタシのせいなのデス。イエ、ワタシ達のせい…デスか」

──鞠莉ママ「ワタシも夫も家を離れがちだった、とは話したわね。今はこれでも昔よりずっと長くマリと一緒にいられている方なのだけど、今よりもっとずっと幼いマリをイエノに任せて仕事仕事と飛び回っていた弊害が、……ああいう形でマリの心に傷を残してしまったのデス」

──鞠莉ママ「一人、家に置いていかれること。親しい相手が離れていくこと。それを強く怖がるようになりまシタ」

──ことり「……ぁ、だから…あのとき…!」


──ことり「その……今日はちょっと、船に乗るの、は…」

──まり「………」

──まり「…ことり、あなたも…私のこと…」


──ことり (咄嗟に抱き締められて、よかった)

──ことり (…でも結局、寂しい思いをさせちゃうんだ)

──ことり グ…

 

270>>1(しうまい)2020/05/24() 10:18:07.68ID:qLct1x7D

残酷な通達 7/8


──鞠莉ママ「ホントウのことを言うと、コトリ、マリがここまであなたに懐くとは思っていなかったのデス」

──鞠莉ママ「家族以外に心を開く、そのきっかけになる。その程度の変化があればいいと、思っていたの」

──鞠莉ママ「それが、まさか…」

──鞠莉ママ「ごめんなサイ。マリにも、コトリにも、つらい気持ちを味わわせることになってしまいまシタね…」ハァ

──ことり「…ううん、私は。まりちゃんの気持ちに比べたら、なんてことないです」フルフル

──鞠莉ママ「…」

──ことり「…」

──鞠莉ママ「コトリ」

──鞠莉ママ「アツカマシイお願いだとはわかっていマス。でも、どうか…明後日までは、マリのことを…」

──ことり「当たり前です」

──ことり「私、まりちゃんのこと大好きだから。明後日までなんて言いません。これからずっと、もし二度と会うことがなかったとしても、ずっとまりちゃんのことは愛し続けます」

──鞠莉ママ「アリガトウ…コトリ、アリガトウ……」

──ことり「それに、私もう自信あるんです。まりちゃんに好きになってもらえた自信」

──ことり「一度好きになった相手を本当にキライになっちゃうなんてこと、ないって知ってるから。大丈夫です──私も、まりちゃんも…!」

 

271>>1(しうまい)2020/05/24() 10:18:41.34ID:qLct1x7D

残酷な通達 8/8


家野「………おはようございます、小原家の家野です。ええ、ご無沙汰しています。先日はありがとうございました」

家野「はい、そうです、今日もこれからまりさんが果南さんとお邪魔するのですが、おやつを持たせているので冷蔵庫に入れさせておいていただいてもよいですか?…はい、ありがとうございます」

家野「それと、申し訳ありません、厚かましいお願い事で恐縮なのですが、二人が到着したらおにぎりかなにかを出していただけませんか。…ええ、実は昨日少しありまして、まりさんが昨晩の夕飯と…今朝も、はい……すみません、ありがとうございます」

家野「四時には迎えの車を寄越しますので、はい、なにかあればご連絡ください。はい、よろしくお願いいたします。それでは」

家野 フー…

鞠莉ママ「アリガトウ、イエノ」

家野「いえ。果南さん達と一緒であれば、食べてくださるでしょうからね」

鞠莉ママ「だといいのデスが」

家野「あまりお気を煩わずに。まりお嬢様は強い方です、今日は私がとびきりに腕を振るってお夕飯を用意しますので、きっと大丈夫ですよ」

鞠莉ママ「…そうね。そうよね…」

家野「はい」

 

272名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/05/24() 15:19:05.69ID:+u3lDZy2

辛いよ...
毎年長期休みにことりちゃんとまりちゃんが遊んで大人になるとこまで想像した

 

273>>1(しうまい)2020/05/24() 16:22:16.54ID:qLct1x7D

二週間という積日 1/2


まりの部屋


キィ…

ことり「入るね」


お返事は当然ない。

かなんちゃんとダイヤちゃんのお家へ行っているのだから、当たり前のこと。

部屋の中を触ってしまわないように、入口に立ってただぼうっと視線をさまよわせる。

それだけでもふわりと届くまりちゃんの匂い。

眠るまりちゃんの髪を撫でた。指がくすぐったくなるくらいさらさらだった。

お風呂でまりちゃんの身体を洗った。ボディソープがいらないくらいすべすべだった。

船の中でお膝に乗ってくれたこと。バスの中で膝枕をしたこと。目をつむるだけで、じんわりと体温を思い出す。

小原さんに向けた満面の笑み。家野さんに対する優しい笑顔。ことりにいじわるを言って、にやっと笑う。

楽しいこと、嬉しいこと、恥ずかしいこと、いやなこと。好きなこと、キライなこと、したいこと、してほしくないこと。

二週間なんて、きっと嘘だ。私達は、ずっとずっと長い間、一緒に色んなことを分かち合ってきたんだ。そう思えるくらい、数えられないほどの想い出と感情で溢れている。

そう思えるくらい、愛している。

 

274>>1(しうまい)2020/05/24() 16:22:44.24ID:qLct1x7D

二週間という積日 2/2


視界がぐにゃりと歪んで、滲んで、喉がきゅっと苦しくなって。今のうちに、まりちゃんがお家にいないうちに、全てを出し切ってしまおう。

その場にしゃがみ込んで膝を濡らす。

声はできるだけ抑えようとするけれど、しゃくる音、喉が鳴る音、鼻をすする音、漏れる息。

ここがプライベートフロアでよかった、なんて、頭の片隅でいやに冷静な自分が思う。

────────。

ひとしきり理性を忘れていた間、誰も通りかからなかったのは幸いだった。

目が赤くならないように、袖口でとんとんと叩くようにして最後の雫を拭う。

もう四時を過ぎたはず、まりちゃんが帰ってくる。

お夕飯を作りながら、家野さんとなにを話そう。

長く息を吐いて、立ち上がる──その寸前。ふと気づく。


ことり「………あれ…?」


下の階から「奥様!!」と聞こえてくるのと、ほとんど同時だった。

 

275>>1(しうまい)2020/05/24() 16:23:11.89ID:qLct1x7D

ちいさなはかりごと 1/3


黒澤邸前


使用人「お嬢様がお世話になりました」ペコ

黒澤母「いえ。鞠莉さん達はとてもよい子ですので、いつでもいらしてくださいな」

かなん ジーッ

黒澤母「…果南さんもね」

かなん「!」パァァ

ルビィ モジモジ…

黒澤母「ルビィさん。言いたいことがあるのでしょう」

ルビィ「…おやつ、ありがとう。おいしかった」

まり「うん。ことりに伝えておくわね」

ルビィ「ことりちゃん…」シュン

黒澤母「明日で発ってしまわれるとは、残念ですね。またぜひ内浦へいらしてほしいものです」

まり「…伝えておきます」

ダイヤ ジッ

かなん チラ

まり コクン…

 

276>>1(しうまい)2020/05/24() 16:23:38.65ID:qLct1x7D

ちいさなはかりごと 2/3


まり「あ、ねえ。帰りに、寄ってほしいところがあるんだけど」

使用人「はい?」

まり「ことりにお別れのおみやげ買いたくて。ね、いいでしょ?」

使用人「はあ、そうですね。まだ時間も早いですし、家野さんに連絡しておけば大丈夫でしょう──」スッ

まり「あっ、い…いえのにはもう伝えてあるの!実はこっそりお金も預かってて」

使用人「あら、そうなんですか。それなら安心です」

まり「かなんも、まだ時間平気でしょ?」

かなん「うん、うん、もちろん平気だよ。だ、ダイヤは?」

ダイヤ「わ、わたくしも…ことりさんへのお礼の品を選ぶのに、ついて…いきたい、です…」オソルオソル…

黒澤母「!」

黒澤母「…ええ、構いませんよ。そういうことならば、私からも少し出しましょう。お財布を取ってくるので待っていなさいな」ススス

ダイヤ ホッ…

かなん b グッ

ルビィ「!」

かなん「あー、ルビィはお留守番してよっか。私達がちゃんと選んでくるからさ」ポン

ルビィ「ぅゅ…」

 

277>>1(しうまい)2020/05/24() 16:24:05.27ID:qLct1x7D

ちいさなはかりごと 3/3


黒澤母「鞠莉さん、家野さんからは幾らほど?」

まり「え!?えーっと……に、にせんえん…くらい…」

黒澤母「? そうですか。では私からも同じだけお渡ししておきましょう。ダイヤさん、なくさないよう」

ダイヤ「は、はい。……ありがとうございます…」ギュ…

使用人「それでは行きましょうか」

黒澤母「よろしくお願いいたします」

まり「かなん、ダイヤも。後ろに乗りましょ」

かなん「うん」トトト

ダイヤ「行ってきます、お母さま。ルビィ」

黒澤母「行ってらっしゃいな」

ルビィ「いってらっしゃい」

バタン

使用人「どちらへ行きますか?沼津駅の辺りでいいですか?」

まり「ううん、行ってほしいのはね──」


まり「パノラマパークの方なの」

 

278>>1(しうまい)2020/05/24() 16:24:33.73ID:qLct1x7D

知っていること、見えているもの 1/4


ホテルオハラ、私用厨房


家野 (よし、現場の方はもう大丈夫そうですね。今のうちにお夕飯の下準備、……ことりさん、声をかけた方がいいかな)

家野 (最後のお夕飯作りだし、きっとご一緒なさりたいですよね。自室にいらっしゃるでしょうか) スタ…

家野「………」

16:32

家野 (お嬢様のお戻り、随分と遅くないですか?)

家野 (45分には向こうへ渡ったはずだし、道が混んでいたとして、それに黒澤さんと少し話し込んだとして。それにしても…こんなに遅くならないのでは)

家野 (念のため連絡しておきましょうか──)

──♪

家野「! はい、家野です。ちょうど連絡しようと思っていたところでした。帰りが遅いようですが、今どちらに………ええっ!?」

 

279>>1(しうまい)2020/05/24() 16:25:17.66ID:qLct1x7D

知っていること、見えているもの 2/4


家野「奥様!!」タタッ

鞠莉ママ「何事デスか、騒々しい」

家野「今、お嬢様を迎えにいった山岸から連絡があったのですが…」

鞠莉ママ「…どうかしたの?」

家野「まりお嬢様が──逃げ出した、と…!」

鞠莉「なんデスって…!?どういうことなの、詳しく説明なサイ!」

ことり「なにかありましたか…?」オズ…

鞠莉ママ「コトリ、ちょうどよかった。イエノ!」

家野「は、はい。メイドの山岸にお嬢様のお迎えへ行ってもらったのですが、今その山岸から連絡があり、まりお嬢様と果南さん、それにダイヤさんの三人が『逃げ出した』とのことです」

ことり「逃げ出した…?」

家野「慌てていてあまり話が要領を得ませんでしたが、まりお嬢様のお願いで三人をパノラマパークの辺りへ連れていったところ、少し目を離した隙にロープウェイに乗り込んでしまった、という事態のようです」

鞠莉ママ「………っ、また…ハグゥとデスワァが…!!」ギリ…

ことり「……………」

 

280>>1(しうまい)2020/05/24() 16:25:57.08ID:qLct1x7D

知っていること、見えているもの 3/4


鞠莉ママ「イエノ、スグに車の手配を!現場で手透きの者も使うので多めに用意させなサイ!ヤマギシにはロープウェイの麓で待機させておくように!」

家野「はい、すぐに!」

ことり「ちょっとだけ!…いいですか?」

家野「! な、なんでしょう。ことりさん」

ことり「パノラマパーク、ってどういう場所ですか?」

鞠莉ママ「それは行きながらでよいでショウ、まずは追いかけるのが最優先──」

ことり「教えてください」

鞠莉ママ「!? …イエノ」

家野「はい…正式名称は伊豆の国パノラマパークといい、伊豆の代表的な観光施設の一つです。観光の根幹となるのは葛城山の山頂へ至るロープウェイで、山頂からは富士山や駿河湾、伊豆の町並みが一望できます。喫茶店やアスレチックなどもあり、複合的な…」

ことり「星は──星は、見えますか?」

家野「は、星…ですか?そうですね、見えるかどうかでいえば、かなりよく見えるはずです。ですがロープウェイが17時までの運行なので、天体観測で訪れることはそうそうないかと…」

ことり「………」

家野「ことりさん…?」

鞠莉ママ「コトリ、なにが気になるのデスか。こうしている間にもあの二人といることでマリがどんな危険な目に遭うか──」

ことり「小原さんは、お家に残っていてください」

鞠莉ママ「…なにを言い出すかと思えば」

 

281>>1(しうまい)2020/05/24() 16:27:12.30ID:qLct1x7D

知っていること、見えているもの 4/4


鞠莉ママ「ワタシ以外に、カナンとダイヤを叱れる者がいるの!?コトリがちゃんと叱れマスか!?」

鞠莉ママ「これまでもちょっと抜け出すようなことはあった。イタズラだと思って見逃してきたけれど、今回はもう許しまセン!きちんと叱って、もうマリを余計なことに巻き込まないよう──」

ことり「決めつけないでください!!」

鞠莉ママ「………っ!?」

ことり「今まで、まりちゃん達が…かなんちゃんとダイヤちゃんが、どういう風に悪さしてきたか、私は知りません。でも、今回のことがかなんちゃんとダイヤちゃんが言い出したってどうして決めつけられるんですか」

鞠莉ママ「それは、だって…」

ことり「もし二人にお説教をして、『悪いのが二人じゃなかった』とき、小原さんは責任を取れるんですか?かなんちゃんとダイヤちゃんの心に──そして、まりちゃん達の友情に」キッ…

鞠莉ママ「………っ…」タジ…

ことり「家野さん、私も行きます」

ことり「誰を叱るべきなのかはっきりしたら、ちゃんと私が叱ります。もしかしたらまりちゃん達が入れ違いで帰ってくるかもしれないから、小原さんはお家で待っていてあげてください」

鞠莉ママ「…………わかりまシタ」

ことり「行きましょう、家野さん」

家野「は、はい」

 

282>>1(しうまい)2020/05/24() 17:00:58.65ID:qLct1x7D

シャイニーを探して 1/4


ゴトゴト…ゴトゴト…


<
お嬢様ーっ!まりお嬢様~~っ!!


ダイヤ「どうするんですの?おおごとになっていますわよ!」

かなん「あきらめる…?」

まり「イヤ!!」

まり「流れ星にお祈りできなかったら、きっとだめになっちゃう…!」

っ〔星座☆早見盤 北半球版〕と ギュ…


『間もなく、山頂駅に到着します…』


三人 トコトコ…

職員「あ。ねえキミ達、保護者の人は?下で心配してるって連絡があったんだけど…」

まり「!」

ダイヤ コクッ

かなん グイ

三人 ダッシュ!!

職員「あっちょっと、待って!」

 

283>>1(しうまい)2020/05/24() 17:01:25.51ID:qLct1x7D

シャイニーを探して 2/4


かなん「空、遠いね…」

ダイヤ「もっと星がよく見える場所は?」

かなん「わかんない…」

まり キョロキョロ

まり「…あっち!」

ダイヤ「方向は!?」

かなん「この上、行ってみよう!」タタタ

 

284>>1(しうまい)2020/05/24() 17:01:51.79ID:qLct1x7D

シャイニーを探して 3/4


まり ハァ…ハァ…

かなん「くもってる、ね…」

ダイヤ「そんなあ…」

かなん「…これで確かめなきゃ、まだわかんないよ!」っ早見盤 サッ

まり「貸して!」

まり (星──星──星が見える方向──) スッ、スッ、スッ…

ダイヤ「………」ドキドキ…

かなん「………」ドキドキ…

まり「………」スッ、スッ、スッ…


…ポツッ


かなん「! 雨…」

 

285>>1(しうまい)2020/05/24() 17:02:30.61ID:qLct1x7D

シャイニーを探して 4/4


ダイヤ「そんな…これじゃお祈りできませんわ。これじゃ…」

まり「来たのに…」

まり「せっかく、来たのに…」ジワ…

かなん「………っ、泣かないで!」

かなん 早見盤と彡 パシッ

かなん キュキュ…

まり「かなん…?」

ダイヤ「かなんさん…?」

かなん「ほら!」

まり「わぁ…!」

かなん「これで大丈夫!」

かなん「祈ろう、まり!ダイヤ!」

まり コクン

ダイヤ コクン


お星さま。どうか、どうか──わたし達の願いを──