くれた言葉 2

35>>1(茸)2019/08/27() 19:23:09.51ID:T0/JLuFs



『♪』

校門を出ようとしたところで、携帯電話から音が鳴った。
確認すると、海未からメールが来ていた。

真姫「珍しいわね」

別れたばかりの上級生の顔を思い出しつつメールを開く。

海未『まだ校内にいますか?』

ぎりぎり、校内と言えば校内だ。
だからというわけでもないけれど、戻ることにする。
わざわざメールで呼ぶということは、可能なら早いうちにしたい話なのだろう。

振り返って目を凝らすと、部室の灯りが点いているのが見えた。

 

36>>1(茸)2019/08/27() 19:23:50.57ID:T0/JLuFs



海未「呼び戻してしまってすみませんでした」

部室に入るなり、海未が頭を下げて言った。
なぜか立っている。
その脇にはもちろんことりもいて、彼女はパソコンチェアに座っていた。

真姫「構わないけど。私、なにか忘れ物でもしてた?」

海未は小さく頷くと、すぐ傍のパソコンを指差した。

海未「パソコンを消し忘れていましたよ」

 

37>>1(茸)2019/08/27() 19:24:18.05ID:T0/JLuFs

言われ、なんのことだか分からず、一瞬呆けてしまう。
しかし、すぐに部室利用ルールのことだと思い至る。

真姫「……最後に触ったのは私だったわね」

内心苦笑いしつつ、パソコンに歩み寄る。

真姫「わざわざ呼び戻すなんて、徹底した規則管理ね……」

海未「私が真姫を呼び戻したのは、パソコンを消させるためではありません」

 

38>>1(茸)2019/08/27() 19:25:58.81ID:T0/JLuFs

横を通り抜けようとした私に、海未がやや強い口調で告げる。
不信感を覚え、立ち止まる。

真姫「じゃあ、なんのためなの?」

海未「ことり」

私の質問には答えず、海未は座っていることりになにかを促す。
頷いて、ことりは申し訳なさそうに言った。

ことり「ごめんね、真姫ちゃん。これ、聴いちゃったの」

真姫「聴いちゃったって、なにを……」

はっとする。
慌てて止めようとしたけれど、すでに遅く、その音楽が流れた。
私が作曲し、そして、編曲したもののひとつ。

思考が固まって冷めていくと同時に、ああ、海未には勘付かれてしまったんだろうな、と冷静に思う自分にも驚く。

 

39>>1(茸)2019/08/27() 19:27:36.78ID:T0/JLuFs

海未「真姫。これはなんですか?」

咎めるような声で言われる。

海未「今回の曲とは違うものですか?」

真姫「じ、次回曲の案よ」

海未「それにしては、似ている部分があまりに多くはないでしょうか。イントロなど、全く一緒ではありませんか。これでは、カップリングソングとして使うことすら難しいと思います」

真姫「そうね。そこは後で直すつもりだったのよ……」

海未「真姫」

乾いた声で答えた私を、しかし、海未は逃がしてくれるつもりはないらしかった。

海未「これは、今回の新曲なのではありませんか?」

 

40>>1(茸)2019/08/27() 19:28:04.61ID:T0/JLuFs

あっさりと真相に辿り着いたその言葉は、まるで最初から分かっていた答えをただ告げたかのように聞こえた。
反対に、ことりはやや気遣ったような声で訊いてくる。

ことり「真姫ちゃん。曲は、今練習してるやつで完成じゃなかったの?」

真姫「完成よ」

海未「では、これはなんなのですか?見れば、昨日までいじっていたようですが」

すかさず海未が突っ込む。
そんなところまで確認されていては、もう否定のしようがない。

海未「真姫」

ことり「真姫ちゃん」

真姫「……そうよ。昨日、やっと改編が終わったの」

諦めて、渋々頷く。

 

41>>1(茸)2019/08/27() 19:28:40.09ID:T0/JLuFs

海未はある程度予想していたようで、小さく溜め息を吐いた。
ここまで来てしまったので、私も腹を括る。

ことり「真姫ちゃん、今の曲に納得してないの?」

真姫「曲に、じゃないわ」

ことうみ「「……!」」

海未「それはつまり、納得していないのは曲以外──歌詞か衣装ということですか」

ことり「で、でも……それなら、どうして曲の方を変えるの?」

海未「そうです。気になったところがあるのなら、言ってくれれば良いものを……」

ことりの指摘に海未がたじろぐ。

 

42>>1(茸)2019/08/27() 19:30:00.55ID:T0/JLuFs

けれど、迷った表情を見せたのは一瞬だけで、すぐにいつもの凛とした顔付きを私に向け直した。

ことり「ちなみに、真姫ちゃん。なにが気になったの?」

海未「歌詞ですか?」

首を横に振る。

ことり「じゃあ、衣装?」

同じようにし、意を決して言う。

真姫「歌詞も衣装も素敵。それぞれ、すごく素敵よ」

海未「それでは、一体なにが気になっているのですか……?」

真姫「イメージと違うの」

 

43>>1(茸)2019/08/27() 19:30:33.99ID:T0/JLuFs

脳裏に、図書館での衝撃が甦る。
衣装が曲のイメージと掛け離れていたときの衝撃。
そして、歌詞までも期待と全く違っていたときの衝撃。

真姫「私が曲に込めたイメージと、歌詞と衣装の雰囲気が……違うの」

ことり「違うって、どのくらい?」

海未「真姫」

あくまでも冷静なままの声が言う。

海未「ここまで来たのですから、はっきりと言ってください」

真姫「……全然」

思い出すだけで冷や汗が伝う。
まるで、ピアノの鍵盤を叩いてベースの重低音が鳴り響いたかのような、理解すらできないほどの違和感と不協和。

真姫「全然違ったの」

 

44>>1(茸)2019/08/27() 19:31:21.11ID:T0/JLuFs

一人の時間にその耐えがたいずれを呑み込もうとすればするほど、どんどん気が重くなっていった。
誤った曲のデータを渡したのかと思った。
全く別の曲について話しているのかと思った。

思ったのではなく、そう願った。

真姫「私のイメージと海未達のイメージが、全然違ったのよ」

永遠にダンスの練習が続けばいい。
歌の練習はなくていい。
衣装合わせはなくていい。

日を経るにつれその思いは強くなっていき、その願いは私自身を駆り立てた。

 

45>>1(茸)2019/08/27() 19:32:02.60ID:T0/JLuFs

海未「そう感じたのは、いつのことですか」

真姫「……図書館の日」

海未「それでは、最初に歌詞と衣装のデザインを見たときから、今までずっとそう感じていたということですか」

促されるように頷く。

海未「だから、歌詞と衣装に合わせようとして、曲の方を変えることにしたのですね」

 

46>>1(茸)2019/08/27() 19:32:38.29ID:T0/JLuFs

好き勝手に曲作りをすればいい私。
私の曲に合わせて歌詞を作る海未と衣装を考えることり。
そのどちらが大変かは、わかっていた。

だから、曲を改編することにした。

海未「どうして……」

海未「どうしてそう感じたときに言わなかったのですか!」

突然の怒気を孕んだ声に、反射的に身が竦む。

海未「あのときに言ってくれていれば、修正は充分可能でした!なぜ今になるまで黙っていたのですか!」

ことり「う、海未ちゃん!大きな声を出しちゃだめだよ!」

踏み出し掛けた海未を、ことりが制する。

 

47>>1(茸)2019/08/27() 19:33:46.75ID:T0/JLuFs

真姫「だって……だって……」

私は頭が混乱してきて、うわ言のように呟いた。
海未が息を吸うのを感じた。

海未「今から曲を変えるとなれば、ダンスの練習に支障が出ます!立ち位置も振付も決まって、みんなそれを覚えてしまっているのですよ!?ここで曲を変えるなんて、無茶にも程があります!」

真姫「だ、だから……曲は今練習してるやつで完成だって言ったじゃない!その曲は、誰にも聴かせるつもりなんかなかったのに!勝手に見付けて聴いたのは海未達じゃないの!」

海未「真姫は納得していないのでしょう!だから曲を変えたのではないのですか!」

真姫「良いの!あれで良いの!完成なの!」

自分に言い聞かせるように叫ぶ。

曲はあれで良いんだ。
あれで──良いんだ──

ことり 「真姫ちゃん」ギュ

不意に、ことりに抱き締められた。
黒いものが拡がり掛けていた心が、ふと穏やかなものになる。

 

48>>1(茸)2019/08/27() 19:34:27.88ID:T0/JLuFs

ことり「海未ちゃんも。一旦落ち着こ?」

海未「……はい。そうですね」

ことり「真姫ちゃん。こっちに座って」

優しく手を引かれ、椅子に腰を下ろす。
隣にことり、斜向かいに海未が座った。

ことり「そういえばね、ことりクッキー焼いてきたの。練習のときみんなに渡しそびれちゃったから、三人で食べよ」

言うと、ことりは鞄から可愛く包装されたクッキーを取り出し、 半ば強引に私の口へ押し込んだ。

 

49>>1(茸)2019/08/27() 19:34:58.70ID:T0/JLuFs

ことり「美味しい?」

普段は自分から味の感想を求めることなど、ことりはしない。
食べた方が自然に「美味しい」と口にする。
いつだって、そんなお菓子を持ってくるから。
さくさくと小気味良い音を立てるたびに、ふわりと生姜の香りが口内に漂う。

私が無言のまま無愛想に頷くと、ことりは嬉しそうに微笑んだ。

 

50>>1(茸)2019/08/27() 19:36:29.60ID:T0/JLuFs



海未「真姫。今から少し話をしたいのですが、時間は平気ですか?」

控えめに顎を引いて見せる。
窓の外はすっかり日が落ちて暗くなり、わずかに見える校庭にも、もうそんなに多くの生徒はいない。

海未「なぜ、歌詞と衣装に納得していないことを黙っていたのですか?」

真姫「……時間がなかったから」

私が憮然として答えると、海未は虚を突かれたような表情をした後、情けなさそうに溜め息を漏らした。

海未「全て作り直すとなれば、余裕のない納期だったのは確かです。しかし、あの時点で言ってくれていれば、充分許容範囲でした」

今までだって、このくらい過密なスケジュールで曲作りをしたことはあったでしょう、と海未は続ける。

 

51>>1(茸)2019/08/27() 19:39:03.12ID:T0/JLuFs

海未「真姫。本当の理由を教えてください」

それでも顔を背けるだけの私に対して、声色が咎めるような調子に変わる。

海未「私達が過ごしてきた時間の濃さは、生半可なものではありません。それが嘘だということくらい、わかります」

真姫「……嘘なんかじゃ、」

海未「真姫!」

真姫「っ!」ビクッ

ことり「海未ちゃん」

海未「す、すみません」

海未は私を咎め、そんな海未をことりが咎めた。

 

52>>1(茸)2019/08/27() 19:40:43.55ID:T0/JLuFs

ことり「真姫ちゃん。今言ってくれたことは嘘じゃないと思うけど、もしかして、他にもっと大きな理由があるんじゃないかな? ことりに、それを聞かせてほしいな」

ことりの顔を見つめる。
穂乃果と海未、全くタイプが違う二人の幼なじみの間に立っている。
あそこまで正反対の彼女達が離れることなくずっと一緒にいるというのはなかなかすごいことだと思っていた。

けれど、二人の間に、一歩引いたところで見守ることりの姿を思い浮かべれば、そこには疑問など残らない気がした。

 

53>>1(茸)2019/08/27() 19:41:14.32ID:T0/JLuFs

真姫「私が曲を作るのが、μ'sの曲を作る流れの最初だから。歌詞とか衣装に対して、あまり口出ししちゃいけないと思って……」

ことりが首を傾げる。

ことり「真姫ちゃんが曲を作るのが最初だったら、どうして歌詞とか衣装に口出ししちゃいけないの?」

真姫「わ、私が一番楽な立場だからよ!」

ことり「楽?」

向かいで同じように首を傾げる海未。

 

54>>1(茸)2019/08/27() 19:42:08.17ID:T0/JLuFs

真姫「だって、そうでしょ!私はなににも縛られることなく、好きに曲を作ればいいけど、海未達は違う。そのできあがった曲に合わせて作らなきゃいけない」

海未「……そんなことを、誰かに言われたのですか?」

真姫「言われてないわよ。でも、事実じゃない。納期だって、私の曲を待たなきゃいけない分、二人の方が遊びがなくなるし…… 自由に曲を作ってるだけの私が、あなた達に口出しなんかできるわけないわよ」

ことり「真姫ちゃん……」

海未「そんな風に考えていたのですか……」

揃った二人の声は、初めて知る私の思いに驚いた、というより、落胆しているように聞こえた。

 

55>>1(茸)2019/08/27() 19:43:16.15ID:T0/JLuFs

ことり「もしかして、今までの曲の中にも、我慢したものがあるの?」

真姫「ううん。そりゃもちろん、多少イメージのずれがあったことは、何回もあるけど……こんなに違ったのは、初めてだから……」

海未「だから、とても言い出せなかった、と?」

真姫「…そうよ。ここをこうしてほしいとかじゃない、全然違うなんて言ったら、そんなのは意見じゃなくてただの批判になるもの」

ことり「そんな……」

真姫、と呼ばれる。

海未は眉間に強く皺を寄せて、ぽつりと呟いた。

海未「残念です」

 

56>>1(茸)2019/08/27() 19:44:18.39ID:T0/JLuFs

その言葉を聞き、一気に感情が込み上げてくる。
思うように創作活動が進められなかったことへ対する苛立ち。
通じ合えていたはずの相手と感覚がずれたことへ対する悲しみ。
そして、海未から見捨てられたのではないかという、恐怖。

真姫「な……なによ!私だって、ちゃんと考えたのに!」

それらが奔流となって、私の口から溢れる。

真姫「海未達の作ってくれたものを受け入れようともしたし、急いで曲を作り変えれば間に合うんじゃないかと思って改編もやったわ!歌詞と衣装のイメージに合うように改編を完了もさせた!でも、さすがに遅過ぎるってわかったから、もう言わなかったじゃない!なんでそんな言い方するのよ!」

ことり「真姫ちゃん、それは違うよ。海未ちゃんは……」

海未「良いのです、ことり。私がちゃんと言います」

 

57>>1(茸)2019/08/27() 19:44:58.58ID:T0/JLuFs

声を荒げた私を前に、少しの取り乱す様子もなく、海未は静かに続けた。

海未「私は、このタイミングになって曲を変える変えないの話が出たことを怒っているわけではありません。あなたが我慢していたことに対して失望しているのです」

真姫「が、我慢しちゃいけなかったの?それって失望されるようなこと?九人もいる中で、誰一人なんの不満もないものが仕上がるまで頑張らなきゃいけなかったとでも言うの?」

海未「そうです」

 

58>>1(茸)2019/08/27() 19:45:25.61ID:T0/JLuFs

ほとんど八つ当たりのような責めに、端的な答えが返される。

真姫「そ…そんなの無理でしょ。できるわけないじゃない!」

海未「できます。無理ではありません」

それすらも断言し、海未は諭すように語る。

 

59>>1(茸)2019/08/27() 19:46:32.07ID:T0/JLuFs

海未「我慢してはいけません。九人もいる中で、誰一人なんの不満もないものが仕上がるまで、頑張らなくちゃいけないのです。私達には、それができるのですから」

淡々と述べる海未の言葉を、ことりが引き継ぐ。

ことり「真姫ちゃん。私達はね、九人全員が揃って、初めてμ'sなんだよ。それで、初めてμ'sでいられるの。たとえ八人が大満足していても、真姫ちゃんが我慢してちゃだめなの。それじゃμ'sのステージとは言えない……真姫ちゃんを除いた八人のステージになっちゃうから」

はっとする。

 

60>>1(茸)2019/08/27() 19:47:14.22ID:T0/JLuFs

私が我慢していたら、μ'sのステージは完成しない。
その言葉は、なによりもすんなりと私の心に入ってきた。

海未「今までみんなで立ってきたステージの中で、そんなものがあったと思いますか?誰か一人だけが我慢していたステージがあったと」

真姫「……いいえ。なかったと思うわ」

力なく頭を垂れた私の答えに、海未は満足そうに頷いた。

海未「私もそう思います。だからこそ、私達は今も一緒にいるのです。そしてこれからも、ずっと一緒にいたい」

 

61>>1(茸)2019/08/27() 19:48:15.02ID:T0/JLuFs

真姫「だったら……私は、どうすればよかったのよ……」

海未「簡単なことです」

海未「思ったことを、感じたことを、隠さず言ってくれれば、それだけで良かったのです。これじゃないと、曲のイメージと全然違うと、正直にそう言ってくれるだけで良かったのですよ」

ことり「そういうことっ。歌詞と衣装のデザインを考える場に真姫ちゃんを呼んだのは、真姫ちゃんの意見も欲しかったからなんだから」

ね?と、ことりが私に向けて微笑んだ。

ことり「じゃあ、穂乃果ちゃんにメールしておくね。海未ちゃん」

海未「はい。お願いします、ことり」

真姫「え?」

突然空気が切り替わる。
ことりは手早くメールを打ち、海未は鞄からごそごそと筆記用具やノートを取り出す。

 

62>>1(茸)2019/08/27() 19:48:47.62ID:T0/JLuFs

海未「なにをぼさっとしているのですか、真姫」

真姫「え?え??なに?」

まだじわりと濡れた瞳で、交互に二人を見比べる。

ことり「考え直すんだよ、真姫ちゃん。曲と歌詞と衣装!」

真姫「い、今から!?」

思わず素っ頓狂な声が漏れ出る。

真姫「そんなの、無理に決まってるじゃない!」

 

63>>1(茸)2019/08/27() 19:49:15.20ID:T0/JLuFs

海未「無理でもやります。九人全員が心から納得するために」

真姫「だから、私はもう納得してるんだってば……」

海未「それでも、心からの納得というわけではないでしょう。それに、これはあなたのためではありません。私達のために考え直すのです」

真姫「う、海未達のため……?」

海未「はい」

戸惑う私に、海未は慈しむような笑顔を返した。

 

64>>1(茸)2019/08/27() 19:49:44.12ID:T0/JLuFs

海未「ここで真姫の中にある小さな不協和を見逃せば、自身が楽をするため後輩に涙を呑ませたとして、私達は末代までの恥さらしとなってしまいます。園田の家を継ぐ者として、そんな不名誉には耐えられそうにないのです」

ことり「ことりもおんなじ。だから、真姫ちゃん。私達に、新曲を考え直すチャンスをくれないかな」

言葉を失う。
私も不器用だと言われるけれど、この二人だって──大概だ。

 

65>>1(茸)2019/08/27() 19:50:22.10ID:T0/JLuFs

本音で話せばよかった。
海未に諭されるまでもなく、ただそれだけのことだった。

気高く美しい海未。
清く心優しいことり。
こんなに素敵な人達に対して、なにを遠慮していたのだろう。

いつだって、想いを告げれば真正面から受け止めてくれたはずだ。
そんなことは、分かり切っていたのに。
一人で悩んでいた時間が、急にばからしく思えてくる。

表情を見て取ったか、海未が誇らしげに頷き掛けた。

 

66>>1(茸)2019/08/27() 19:51:15.23ID:T0/JLuFs

真姫「……間に合うかしら。今から」

つい弱音が漏れる。
しかし、海未もことりも、全く心配していないようだった。

海未「間に合わせます。それが、私達の希望でもあるのですから」

ことり「うん。最高の一曲を作り上げたいって思いは、一緒だもん」

海未「真姫も──協力してくれますね」

差し出される、白く細い手。
恐る恐る、その手を握り返す。
同時に、温かく柔らかい手が重ねられる。

見れば、海未もことりも曇りのない瞳を輝かせていた。
三人が互いの手を守り合うように、優しく強く握り合う。
ここから生まれる一曲に、私も携わっていたいから。
本気で向き合ってくれた二人への感謝が、胸の内から溢れてくる。

真姫「ありがとう。海未、ことり」

 

67>>1(茸)2019/08/27() 19:51:55.52ID:T0/JLuFs

海未「お礼を言うのは早いですよ、真姫」

ことり「新曲披露のステージを成功させてからだよ、真姫ちゃん」

真姫「そうね。それまでは、安心してなんかいられないわよね」

ことり「うん!」

この二人と、最高の曲を作り上げたい。
μ'sの九人で、最高のステージを作り上げたい。
揺らぐことのない想いを、自覚する。

海未「さあ、真姫、ことり。時間がありません。これまでで最速かつ最高のパフォーマンスで、新曲作りを進めますよ!」

ことまき「「おーっ!」」

すっかり静まり返った校舎で、その声だけが明るく響いた。


終わり