一目貴女を見た日から 6

195ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:23:58.80ID:XaqkmsMa

ダイヤ「遅くなりましたわ」 

曜「あ、ダイヤちゃん」 

善子「!!」 

果南「あれ、ダイヤ。生徒会…」 

ダイヤ「ええ。今週は職員会議がなかったので、生徒会に下りてくる執務が普段より少なかったのよ。今からでも参加してよいかしら」 

千歌「もっちろん!今ちょーど休憩時間でね、ジュースじゃんけんやるとこだよ!」 

ダイヤ「あらそう。それならわたくしが買ってきますわ」 

梨子「え?そんな、じゃんけんに負けたわけでもないのに…」 

ダイヤ「よいのです。練習に遅れたことへのささやかなお詫びと、どちらにせよわたくしも自分の飲み物を買いにいきたいので」 

鞠莉「それならマリー cola がいいなー!」 

千歌「チカはリアルゴールド!」 

曜「私はモーニングショット!」 

梨子「三人ともスポーツに適したものにしなさい!」 

「「「えーーー」」」

 

196ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:25:00.32ID:XaqkmsMa

ダイヤ「なんでもいいから、各自決まった?」 

果南「はは…この人数分、一人じゃ無理でしょ。一緒に行こうか」 

ダイヤ「いえいえ、果南さんは身体を休めていてくださいな。ヨハネ」 

善子「!」ピクッ 

善子「ちょうど私も飲み終わったとこだから付き合ってあげるわ!仕方がないわねー!」タタタッ 

ダイヤ「ではすぐに買って戻ってきますから」 


<
汗くらいきちんと拭きなさい。風邪を引くわよ 

<
えー、だって拭いてもまたすぐかいちゃうもーん 

<
それでも拭くの 

<
やだー、めんどくさいー。そんな言うならダイヤが拭いてー 

<
まったくもう… 


一同「「「………………」」」 

花丸「善子ちゃん、まだ残ってるからいいって…」 

果南「うん、まあ、いいじゃん…好きにさせてあげよ…」 

曜「そうだね…」 


果南 ゴソゴソ… つスマホ 

『今日は生徒会執務にかかります。ヨハネのことよろしくね』 

果南「あの二人は、まったく…」ヤレヤレ 

***

 

203ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:11:40.39ID:2eucazE5

*** 

七月に入ると、練習は激しさを増した。 

主には、雨に邪魔をされて思うように身体を動かせないのが苦痛で仕方なかった特定の人達の憂さ晴らしのような側面が強かったみたいだけど。 


果南「さあ!さあさあさあ!やるよ練習!」 

曜「果南ちゃん隊長!今日のメニューはどうするでありますか!?」ワクワク 

果南「今日は地面も乾いただろうし階段ダッシュがやりたいね。そうだ、階段ダッシュと言えば淡島だ!じゃあ船着き場までランニング、その後淡島で階段ダッシュ十往復でどうだろう!?」 

曜「えーー、十往復…」ションボリ… 

果南「…………」 

果南「じゃあ二十往復だ!」 

曜「いぇーーーーー!!」フゥーッ 

果南「鞠莉!30分後に出発できるように船呼んどいて!みんな、5分後に校門集合!」 

鞠莉「ノーーーーーーッよ!!!」ブッブー


それと…

 

204ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:12:40.28ID:2eucazE5

千歌「危なかったね、鞠莉ちゃんまでノリノリだったらどうしようかと思ったよ…」 

鞠莉「ノンノン。あの筋肉ちゃん達と同じ menu なんて人間の女子高生にはこなせないよ。やるなら二人で勝手にやってなさいっての!」プンプン 


果南「さてじゃー今日はステップ確認をメインにやりまーす…」 

曜「えーー、ステップ…」 

果南「…………」 

果南「じゃー歌の練習もやりまーす…」 

曜「いぇーーーーー…」 


梨子「あんなに意気消沈されると、ちょっと可哀想にもなりますけど…」 

千歌「だめだよ梨子ちゃん!よーちゃんと果南ちゃんにスキを見せたら骨の髄まで筋肉にされるよ!」 

梨子「か、過去になにかあったの…」 

ルビィ「ステップと歌の練習かあ」 

花丸「まるはステップの方を見てほしいかも」 

ルビィ「ルビィは歌の方が気になるかな。よしこちゃんは?」 

善子「私はステップね。最近あんまり動けてなかったし」 

鞠莉「じゃ、せっかくだし step trainingvocal training で二班に分かれよっか!」

 

205ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:13:40.83ID:2eucazE5

果南「ステップは私が見るよ。歌は梨子にお願いしていい?」 

梨子「あ、はい」 

鞠莉「なーんで梨子なの?マリーじゃ trainer に不足だとでも言うのかしら!」 

果南「や、鞠莉はステップを強化したいからこっちに入ってもらいたいんだよ。新曲遅れ気味でしょ」 

鞠莉「アラ?」 

千歌「チカは歌~」 

曜「私もサビ前の音ちゃんと取れるようになっておきたいかなー」 

果南「一年生は、まると善子がステップ、ルビィちゃんが歌でいいのかな」 

一年生ズ「「「はーーい」」」 

鞠莉「ちょうど四人ずつになったわね」 

果南「そんじゃ各班に分かれて、練習開始ね!」 

善子「………」 


それと、七月に入ってから、少し生徒会業務が多忙になったらしい。 

授業と登校義務がない「夏休み」という期間に、まさか生徒会の面々だけお仕事のために登校させるわけにはいかないから。 

夏休み明けに困らないように、との先取りまで含めて、ここから終業式までの半月ほどはそれなりに忙しくなる、ん、だってさ…

 

206ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:14:44.79ID:2eucazE5

のんびりと書類整理をしていればよかったこれまでと違って、校内各所を飛び回る必要もあるとかで。 


――善子『え、放課後も…?』 

――ダイヤ『とは言っても一時的に、終業式まで、よ。果南さんがやっと身体を動かせるとうずうずしていたし、練習はできるだけ休まない方がよいわ』 

――ダイヤ『宿題でわからないところがあったら、夜ならば電話をしてくれてもよいですから。だから放課後は部活動に集中なさいな』 

――善子『………わかった…』 


毎週一回の『お勉強の時間』も、なし。 

生徒会業務が忙しい状態で一日でも部活に顔を出せる日を多くするために、朝も早めに行ってお仕事。 

お昼だって呼び出されることがあってゆっくりできないし。 

終業式までって、それ実質夏休み明けまでじゃないのよ。 

なんか、なんかぁ… 


鞠莉「よーしーこ」 

善子「え?」ハッ…

 

207ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:15:47.73ID:2eucazE5

鞠莉「今マリーがなんて言ったか聞いてた?」ジーッ 

善子「あ、えと、最初に録画したやつ観て自分の課題を見付けよう、って…」 

鞠莉「正解」 

善子 ホッ… 

鞠莉「でも言ったのはマリーじゃなくて果南ね」 

善子「えっ」 

鞠莉「ハァ…練習中は練習に集中しなさい。身体も動かすんだから、ぼーっとしてたら怪我しちゃうわよ」 

善子「ぅ、はい…ごめんなさい…」シュン 

果南「…鞠莉。それとまるも、ちょっと部室に行こっか」 

鞠莉「ン?いいけど」 

花丸「ぱそこんなら持ってきてるよ?」 

果南「練習は後回し。先に済ませておきたいことがある…かなん」 

……………… 

………

 

208ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:16:56.82ID:2eucazE5

部室 


果南「善子さー、もうダイヤに好きって言っちゃいなよ」 

善子「 」 

果南「ってゆーか、好きなのはわざわざ言わなくていいと思うんだけど、付き合っちゃいなよ」 

善子「 」 

鞠莉「え、エット…果南…?」 

果南「ん?鞠莉もまるもわかってるでしょ?ダイヤと善子が好き同士なの」 

鞠莉「や、ウン、もちろんわかってる…よくわかってないのは曜とちかっちくらいだと思うけど…」 

花丸「それにしたって直球に言い過ぎだと思うずらぁ…」 

果南「全員はっきりわかってるんだから、遠回しに言う必要なんかないじゃん。私そういうのニガテだし」 

善子「ぅ、ぁの、なに………」 

果南「ぶっちゃけあれでしょ、ダイヤが練習に来ないとき善子が上の空なことが多いのって、淋しいからでしょ?だったらちゃんと付き合っちゃえば休みの日とか一緒にいられるから解決じゃん」 

善子 /// プシューッ 

鞠莉「か、果南が…」 

花丸「なんだか的確な恋愛指南を…」

 

209ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:17:59.72ID:2eucazE5

果南「付き合ってるからって練習に支障が出たら困るけど、ダイヤのことだからそういうのなさそうだし、どっちかと言うと今の状態が続くと善子が怪我とかしちゃいそうで怖いしね」 

鞠莉「それは、まあ…確かにね…」 

善子「べ、別に私は――  花丸「善子ちゃん」フルフル 

花丸「今さら『ダイヤのことなんかなんとも思ってない!』とか言われても説得力ないずら」 

善子「……っ、…口真似しないで。似てないからっ」フンッ 

善子「………」 

鞠莉「………」 

果南「………」 

善子「…もしかして、私…みんなの邪魔になってる、わよね。ダイヤがいない日に集中できてないってことくらい、自分でもわかるもの…」

 

210ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:19:00.84ID:2eucazE5

果南「あー、違うんだよ善子。邪魔になってるとかじゃないんだよ。ね?」 

鞠莉「そうね」 

果南「なんていうか、」 

善子「うん…」 

果南「もどかしい」 

善子「うん、ごめんなさ……え?もどかしい…?」 

鞠莉「正直もどかしいわ」 

善子「え、マリまで…もど…」 

花丸「まだるっこしいずら」 

善子「あんただけ感想違うんかい」

 

211ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:20:10.36ID:2eucazE5

果南「もっと一緒にいたい系のわがままを言いたいけど、ダイヤ忙しいしあんまり構ってほしそうにしてウザいって思われたらイヤだしな、うう…」イヤイヤ 

善子「………」 

果南「って感じの気持ちが滲み出てて、もどかしい」 

善子「今の私の真似!?」 

鞠莉「どーしてダイヤに遠慮なんかするのよ。もっと甘えたらいいのに」 

善子「だ、だって…ダイヤ忙しいし、そりゃもっと一緒にいたいけど、構ってほしいって言ってわがままだなとか…ぅ、ウザいとか思われたら…やだもん…」 

花丸 (ほぼほぼ合ってる

鞠莉「思わないでしょ。よりによって善子相手に」 

善子「そんなんわかんないじゃない!」 

花丸「あー…鞠莉ちゃん、それは…」 

鞠莉「ホワ?」 

善子「周りから見てたらもどかしくてまだるっこしいのかもしれないけど、そんな簡単に『好きって言っちゃえ』とか、私には考えらんないのよ…!ダイヤが私の気持ち受け止めてくれる保証なんかないし、もしかしたらそれが原因でもう今みたいな時間過ごせなくなっちゃうかもしれないのに…!!」 

鞠莉「……………ぇ…」 

善子「なによ!甘えたいけど、拒否られたらって思うと怖いし…マリや果南センパイみたいにストレートに好意を伝えられるほど器用じゃないもん、私!」

 

212ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:21:04.84ID:2eucazE5

鞠莉「エー………?ねえハナマル、もしかして、善子…」ギギギ… 

花丸「いやー、うん…まるが見るに、たぶん…」 

善子「なによぅ」ムーッ 

果南「拒否られるわけないじゃん。ダイヤあんなに善子のこと大好きなのに」 

まるまり「「っちょおおおおおおおおお!!」」 

果南「へ?」 

花丸「果南ちゃんのばかぁ!どうしてそういうことあっさり言っちゃうの!」 

果南「え、なに?言っちゃだめなことだったの?全員はっきりわかってるって言ったじゃん」 

鞠莉「それは善子からダイヤへの LOVE のことでしょ!」 

果南「ダイヤが善子のこと好きなのも同じことでしょ」 

花丸「同じじゃないよ!そっちは知らない人もいたずら!」 

果南「チカ達いないんだからいいじゃん」 

鞠莉「ちかっち達のことじゃないわよ!ダイヤから善子への LOVE を知らないコがこの場に一人いたのよ!!」 

果南「は~~?いないでしょそんなの。私も鞠莉もまるもわかってたことなんだから…………って、んん………?」 


善子「…………っ」/// カァァァァァ…ッ 


果南「……また私、なんかやっちゃったかなん…?」

 

213ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:22:13.19ID:2eucazE5

色々なことを、考えたことがないと言ったら嘘になる。 

どうして私に優しくしてくれるの? 

どうして私とお昼ごはんを食べてくれるの? 

どうして私を見付けたとき声をかけてくれたの? 

どうして迎えにきてくれるの?どうして放課後一緒にいてくれるの?どうして、どうして、どうして、どうして。 


それってもしかして、私があなたに寄せる想いと、同じ理由だったりするの――――? 


パン!と自分の頬を張る。 

思い上がるなよ、津島善子。と。

 

214ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:23:00.77ID:2eucazE5

ダイヤはとてもできた人だし、私は妹であるルビィの友達だし、ここは内浦だし、生徒会長だし、ごはんは誰かと食べた方が美味しいし、知り合いがいたら誰だって声をかけるし、 

そうしない理由がないでしょ。そうでしょ。 

だから、思い上がるなってば。 

期待をするな。嬉しいと思うな。胸を弾ませるな。喜ぶな。 

落差を生むだけのそんな感情は、全て、全て、押し殺せ。 

これまでだって、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もそうやって押し殺してきたっていうのに―― 


善子「ダイヤが、私の、こと……」 


ああ、だめだ。 

はっきりと言葉にされてしまったからには、もう意識の外になんてやれないわ。

 

215ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:24:05.88ID:2eucazE5

花丸「…………善子ちゃん、」 


じんじんと頬に響く静寂は、そんなか細い声で破られた。 


善子「ねえ、ずら丸。あんた、私と再会した日…初めて黒澤邸に行ったあの日、もう、気付いてたのよね」 

花丸「……うん」 

善子「そうなんだ。私って、わかりやすいのかな」 

花丸「…どうかな。でも、結構露骨かも」 

善子「どう?十何年ぶりに再会した私の気持ちを一瞬で見抜いたあんたからしてさ、どうなのよ」 

善子「ダイヤは、私のこと、………へへ…」 

花丸「ダイヤさん、は―― 

鞠莉「ダイヤは善子に LOVE よ」 

善子「………マリ…」 

鞠莉「ずっと幼い頃から見てきたもの。好きなもの、嫌いなもの、嬉しいカオ、怒ってるカオ、マリーはなんだってわかる自信があるわ」 

鞠莉「ダイヤは、善子に LOVE だよ」 

果南「そう。だから、だからね」 


果南「初めてダイヤに訪れたこの恋を、私たちは絶対に叶えてほしいって、そう思ってるんだよ」 

……………… 

………

 

216ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:25:17.96ID:2eucazE5

果南「また明日ね」 

鞠莉「ねー果南、歩いて帰りましょうよー」 

果南「え、淡島まで?私はいいけど鞠莉平気なの?」 

鞠莉「その気遣いは練習で発揮してほしいわ。ウン、ヘーキよ。だから、ね。ちかっち達も一緒に歩かない?」 

千歌「へー?チカはいいよ、たまに歩くし。梨子ちゃん大丈夫かな、うちまで歩ける?」 

梨子「あ、私もなんだ…みんなと一緒なら大丈夫、かな」 

曜「ちかちゃんが歩いて帰るなら私もー!」 

鞠莉「ルビィとハナマルも行くでしょ?」 

ルビィ「みんなが歩くなら…?」 

花丸「歩くことには吝かじゃない、ずら…?」 

善子「…えっと」 

ルビィ「沼津まで歩くのは、ちょっと…遠いよね…」 

善子「うん…そうね」 

鞠莉「さすがに無理かしら。ウーン仕方ない、それじゃ善子はおとなしく bus で帰りなさい。さーてみんな行くわよ、また明日ね善子!」チャオ

善子「え、ええ…??」 

鞠莉「ダイヤ、まだ帰ってないみたいよ」ボソッ 

善子「はぁ…」 

善子「…………ん!?」 

鞠莉「take it easy, 善子♡」 

……………… 

………

 

217ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:26:14.21ID:2eucazE5

善子「ていきっりーじー、じゃないわよ」 


ぽつりと呟く。 

なんて言われたのかわかんなかったけど、たぶん「上手くやりなさいよ」的なことよね。 

そんなこと言われたって、どうしろってのよ。 

こちとら唐突に突き付けられた事実に面喰らうばっかりで、頭も気持ちも整理が追い付いてないっていうのに。 

でも… 


――果南『ぶっちゃけあれでしょ、ダイヤが練習に来ないとき善子が上の空なことが多いのって、淋しいからでしょ?』 


まさか、ああも的確な指摘をされるなんて。 

淋しい。そう、淋しいんだ、私は。 


――果南『もっと一緒にいたい系のわがままを言いたいけど、ダイヤ忙しいしあんまり構ってほしそうにしてウザいって思われたらイヤだしな、うう…』 


だけど、その気持ちを素直に言えないでいる。

 

218ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:27:37.26ID:2eucazE5

言いたいことはいっぱいある。 

言いたいことはいっぱいあったの。 

朝のお迎えも、一緒のお昼も、特別な放課後もなくなって、言いたいことはいっぱいある。 

声をかけてくれた日、浦女に入学した日、黒澤邸で再会した日、一目あなたを見たあの日から、言いたいことがいっぱいあったはずなの。 

それでも、怖くて言えなかった。 

配慮ができない奴だと思われたくない。自分のことしか考えてない奴だと思われたくない。 

言いたくて伝えたくて仕方ないたくさんのことを、怖くて言えなかったの。 

私にかけてくれる言葉が、割いてくれる時間が、向けてくれる笑顔が、特別でもなんでもないって知ることになりそうで。 

だったら、そんなことになるくらいなら、今の関係に甘えてしまった方がよっぽどいい。 

幼馴染みとも、同級生とも、妹とも違う立ち位置で、あなたの裾を掴んでいる方が、よっぽど、いい。 

そうすれば、私がここを去るまでの間なあなあにしていれば、それなりに仲の良い二人として過ごしていられるんだから。 


善子「それが、一番いいって、わかってるもん――」 


――ガラリ。

 

219ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:28:44.05ID:2eucazE5

すぐ横で引き戸から蛍光灯の灯りが走り抜けて、 


ダイヤ「それでは下校いたします。さようなら」 


喉にはなにかがつっかえたみたいになって、 


善子「ダイヤ」 

ダイヤ「ヨハネ…!?」ビクッ 


――果南『ダイヤあんなに善子のこと大好きなのに』 

――鞠莉『ダイヤは、善子に LOVE だよ』 


ダイヤ「てっきりみんなもう帰ったものだと…」 

善子「ダイヤ」 


――花丸『ダイヤさん、は―― 


見つめる瞳は薄暗い廊下にも規則正しく輝いて、 


善子「私、あなたが好き。好きなの。朝もお昼も放課後も、土曜日も日曜日も一緒にいたい。私をあなたの、隣にいさせて」 


ダイヤはぽかんと口を開けて、大きく大きく目を見開いて、 


ダイヤ「やっと言ってくれましたか」 


それから、 


ダイヤ「明朝から、またお迎えにあがりますわ」 


きゅうっと口元を綻ばせて、薄く薄く目を細めた。 

‐‐‐ 

 

220ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:29:45.61ID:2eucazE5

ダイヤ「まったく善子さんってば、わたくしが提案するなにもかもに頷くばかりで、自分からは希望の一つも言ってくださらないのだから。 

ダイヤ「わたくしだけが空回りしているようで、何度この手を引っ込めようと思ったことか。 

ダイヤ「それでいざ貴女との時間を手放さなくてはならないという段階に至っても随分な物分かりの良さを示すばかりで、食い下がって引き留めてもくださらないのだから。 

ダイヤ「これにはさしものわたくしも、やはり自分の一人相撲でしかなかったのだと内心貴女への気持ちを諦めかねないところだったわ。 

ダイヤ「なにが善子さんに今回の一歩を踏み出させてくれたのかは知る由のないことだけれど、その勇気を忘れることなく、今後もわたくし達が隣同士にい続けるため奮闘してくださいな。 


ダイヤ「………もう、先ほどからへらへらと笑って。聞いているの?」 

善子「――うん、聞いてるわ♡」 


私、頑張るからね。 

ちゃんと隣で見守っててよね。 

***

 

221ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:30:49.38ID:2eucazE5

*** 

それから私達は、それまで以上に一緒に過ごす時間が増えた――ダイヤは忙しかったしスクールアイドル部の練習も活発になっていったし、実際に増えていたのかはわからないけど、少なくともそうなるようお互いに努力をした。 

一つ。 

ダイヤと頻繁にラインのやり取りをするようになった。 

スクールアイドル部のグループラインがあったから連絡先を知ってはいたんだけど、個別でやり取りしたことはほとんどなかった。 

…そもそも知り合ってから一年が経ち、放課後の時間を一緒に過ごしていながらラインの交換すらできていなかったことは、特筆するほどに恥ずべき点かもしれないけど。 

千歌さんや曜さん、ずら丸やルビィなんかとはあんなにもあっさりと交換できたっていうのに。 

そうそう、ダイヤはラインだと口調や態度が随分と軽いのよね。 

え?これほんとにダイヤ?アカウント乗っ取られてない?ってくらい。 

だから、ラインのやり取りから対面に切り替わったり、その逆のときなんかは、結構びっくりする。

 

222ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/19() 23:31:48.23ID:2eucazE5

ダイヤ『おはヨハネ。起きた?』 

善子『まだ起きてない』 

ダイヤ『嘘だー!起きてなかったら私は誰とラインしてるの』 

善子『どうも、善子の母です。いつも善子がお世話になっています。今日は体調が悪いみたいで学校を休ませようと思います』 

ダイヤ『じゃーもーお迎えいかないー』 

『ダイヤがスタンプを送信しました(そっぽ) 

ダイヤ『善子さんにお大事になさるようお伝えください』 

『ダイヤがスタンプを送信しました(あっかんべー) 

善子『ごめん、うそ』 

善子『ちゃんと起きたから迎えにきて』 

ダイヤ『嘘をつくコにはおしおきです!』 

善子『月に代わって?』 

ダイヤ『おしおきよ!』 

『ダイヤがスタンプを送信しました(セーラームーン) 

善子「いやセーラームーンのスタンプ持ってるんかいw 


ピンポーン 


ダイヤ「おはようございます。きちんと起きられたようで、偉いですわね。あら、後ろの髪がはねているわよ」 

善子「やっぱあなたじゃないでしょ今までの!?」 

ダイヤ「は、はい…?」 


…みたいなね。 

***

 

227ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/20() 08:18:10.59ID:EofmyWOT

*** 

とある日の放課後。 


ルビィ「遅くなりましたぁ」ガチャ 


練習着にも着替えず、みんな部室に集合していた。 


果南「お、これで全員揃ったね!」 


パーティ帽子に鼻メガネの超ノリノリな果南センパイが嬉しそうに声を上げる。 


千歌「はいルビィちゃん!オレンジジュース!」 

曜「飲み物も全員に行き渡ったみたいだね!」 


みんなで囲うテーブルにはジュースやお菓子が所狭しと並んでいる。

 

228ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/20() 08:19:06.01ID:EofmyWOT

梨子「こ、これ全員分毎回やるの…?」 

鞠莉「モッチロン!一方的にやってもらいっ放しなんて、マリーの pride が許しまセーーン!」 


そんなハイテンションな空気の中、私はとても居心地が悪かった。 


花丸「それじゃ、今日の主役である善子ちゃんから一言頂くずら」 


なぜなら、 


善子「えー…家族以外に誕生日を祝ってもらえるなんて思ってませんでした、嬉しいです」ペコ… 

果南「なんだか暗いぞー!かんぱーーーい!」 

「「「かんぱーーーーーーい!!!」」」 


ダイヤ「…………かんぱーい」ジトーッ 

善子 (――ダイヤが私の誕生日を知ったのが今日この場でのことで他の七人の誰よりも遅かったせいで非常に不機嫌なせいでーーーす…っ!!

……………… 

………

 

229ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/20() 08:20:02.34ID:EofmyWOT

曜「ここで今日お誕生日の善子ちゃんに質問であります!」 

千歌「おーっ、出たー!よーちゃんの誕生日恒例質問!」 

花丸「待ってました~」 

曜「ズバリ、善子ちゃんは何歳になったのでありますか!?」 

善子「え!?…そりゃ、16歳…だけど…」 

曜「いぇーー!オットナーーー!」 

千歌「ふぅ~~~っ!」 

梨子「……え、なにその質問…する必要あった…?」 

ルビィ「曜ちゃんはお友達のお誕生日会では必ずこの質問をするんですよ!」 

果南「私らの恒例行事だよね~」 

梨子「そ、そうなんだ…」 

鞠莉「ねー、曜。マリーには訊かないの?」 

曜「鞠莉ちゃんには先月きいたから来年まできかないよ!」 

鞠莉「エーーーッ!つまんな~い!」 

梨子「………???」 

善子「は、ははは…相変わらず変な人たちね~…」チラッ 


ダイヤ「………」ムッスーー チビ…チビ… 


善子 (これまで見たことないくらいの仏頂面でオレンジジュースちびちび飲んでるゥ!!)

 

230ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/20() 08:21:00.30ID:EofmyWOT

善子 ススス… 

善子「ぁ、ダイヤ…えへへ。私、こんな風に友達に誕生日のお祝いしてもらうのって初めてなのよ。う、嬉しいものね~」 

ダイヤ「………そうですね。わたくしも友人の一人として貴女の誕生日を祝うことができてとても嬉しいわ」ブスーッ 

善子 (うわー!割と本気で拗ねてるーー!) ガーンッ 

善子「こ、こんな端っこで一人でいないでさ、あっちでみんなとお話ししましょうよ…」 

ダイヤ「………今日は金曜日ですけれど」 

善子「う、うん…?そうね」 

ダイヤ「………明日は土曜日だから前倒しで今日お祝いしただけであって実は善子さんの誕生日は明日であるなどということは」 

善子「な、……ない、かなあ…」 

ダイヤ「………そうですか」フイッ 

善子 (これ誰よりも最初に祝いたかったって拗ねてるやつだー!ふぅーーかっわうぃーー!!) ヒャッホー!

 

231ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝立要塞都市)2019/06/20() 08:22:00.32ID:EofmyWOT

ダイヤ「前回然り」 

善子「う、うん…?」 

ダイヤ「誕生日を祝うと言えど、プレゼントはなし。部員が多いだけに都度用意することは負担になるため、部費と各員のカンパによってささやかなお祝いの会を催すに留めることに決まったのよね」 

善子「そ、そうね。九人もいると毎月かってくらい誰かの誕生日があるし、毎回プレゼント買うってのは、ね…高校生にはちょっと重いもんね…」 

ダイヤ「ですが」 

ダイヤ「たった一人の大切な相手に贈り物を用意するくらいのことはできます」ギロッ 

善子「…………ぅ」 

ダイヤ「貴女と過ごす初めての誕生日に贈り物を用意できなかったという事実は、きっと永劫わたくしの心を苛み続けるのでしょうね」 

善子「え、永劫って…」 

善子「私が言ってなかったのが悪いんだから、別にダイヤのせいじゃないじゃない。その気持ちが嬉しいし、どうしてもって言うんなら月曜にでもくれれば――」 

ダイヤ「わたくしの誕生日は一月ですが、貴女はどうするつもりなの?日付を耳に入れないように努め、万が一知ってしまったとしても当日に贈り物は用意せず座していると?」 

ダイヤ「絶対に、そんなことはないでしょう…?」 

善子「………………………ないです。」