一目貴女を見た日から 5

164ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 05:56:10.81ID:q2ESJKen

善子「いいの、わかってる。…わかってた。生徒会のメンバーでもない私が毎日お仕事を手伝うんでもなくここに来てることが、ダイヤにとってどうなのかなって考えてないわけじゃないもの」 

善子「一人でお仕事に集中することもできないし、かと言って私が拠り所にしてるのをわかってて『来るな』なんて言えない。ダイヤがなにも言わないで受け入れてくれてることに甘えてたわ」 

善子「スクールアイドル部に誘われてることを私に言わずにいたのも、あなたの優しさよね。…ううん、今日まで私の前でその話をしなかった千歌さん達の優しさでもある、のか。みんなに気を遣わせて、へへ…たくさん迷惑かけちゃったわね」 

善子「ごめんなさい、ダイヤ。明日からは来ないようにするから、あなたは自分の気持ちに素直に――」 

ダイヤ「明日からここに来ず、どうするつもりなの?」

 

165し ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 05:57:07.64ID:q2ESJKen

善子「え?」 

ダイヤ「放課後。ここに来ないとしたらどうするつもりなの?善子さん」 

善子「え、っと…それは、どこか…図書室で宿題するか、帰るか…」 

ダイヤ「……………はあああ~」 

善子「えっ」 

善子「な、なに!?なにその反応!?くそでか溜め息ってやつよ、それ!」 

ダイヤ「部活動に行くという発想はないのですか、貴女に」 

善子「…あー」 

ダイヤ「善子さんが毎日ここに来るのは、わたくしと共に過ごしたいと思ってくれているからなのですよね。であれば、どうですか」 

善子「どう、って…?」 

ダイヤ「わたくしがスクールアイドル部に参加して練習へ行くのだとすれば、貴女もそうすることで目的は達し得ると思うのだけど」 

善子「え、あー………あ、確かに…?」

 

166ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 05:58:04.91ID:q2ESJKen

ダイヤ「それとも、わたくしを含むみんなで一緒に部活動に興じるのでは不満で、やはりここで二人きりの方がよいかしら」 

善子「うぐ…」 


本音の本音では、どっちかと言えばもちろん二人きりがいい。 

ここで頷けばダイヤは「仕方がありませんわね」と私の意思を尊重してくれるのだろう。 

でも、私が求めてるのはそういうことなんだっけ。 

ダイヤの、みんなの願いを押さえ込んでまでそうしたいんだっけ。 

この時間を手放したら、ダイヤとの繋がりはなくなってしまう? 

答えはイエスなのかノーなのか、この時間がダイヤの中で私と私以外を分かつ要素の一つであることは疑いようがない、と思う、けれど。 

これしきの時間を手放した程度のことで、二度と『特別』そのものから陥落してしまうほど、この気持ちは軟弱なものじゃ―― 


善子 グ…ッ

 

167ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 05:59:01.60ID:q2ESJKen

善子「やりましょう、スクールアイドル部。一緒に」 

ダイヤ「お返事まで随分とかかりましたね」ニコッ 

善子「うるさい。色々考えたの」プイッ 

ダイヤ「ふふ…そうね。貴女が物事をよく考える方なのは、充分に承知していますわ。だからこそ、多少無理やりにでも背中を押す誰かが傍にいてあげるべきだということも」 

善子「無理、させてない?」 

ダイヤ「ええ。むしろ、やっと我慢をしなくてよくなるのだとすっきりしたくらいよ」 

善子「我慢は、させてたわよね…」

 

168ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:00:06.44ID:q2ESJKen

ダイヤ「本当は、スクールアイドル部に誘ってもらったとき、わたくしは二つ返事で承諾しようと思った。けれどそうしなかったのがなぜだか、わかる?」 

善子「それはだから、私がここに来てるから…」 

ダイヤ「半分正解。正しくは、貴女が部活動に行きたがっていなかったから、です」 

善子「え…?」 

ダイヤ「誘ってもらったスクールアイドル部というものが、とても楽しそうなことであった、それ以上に、貴女と同じ部であったことが嬉しかったのよ」 

ダイヤ「わたくしはね、善子さん」 

ダイヤ「なにか楽しいことをするのならば、貴女と一緒がよかったということよ」 

善子「………っ!?」// 

善子「そ、それってどういう…」 

ダイヤ「さて、それではさっそく千歌ちゃん達に返事をしにいくとしましょうか。『もう少し時間を』と言って、30分も待たせてしまったわ」ガタ 

善子「ちょ、待ちなさいよダイヤ!ねえ今のどういうこと!?なんで私と一緒がいいの!?」 


善子「ねえってばーーーー!!」 

‐‐‐ 
 

 

169ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:01:07.26ID:q2ESJKen

ダイヤ「それでは、本日よりお世話になります」ペコ… 

ダイヤ「なにをぼーっとしているの。貴女も挨拶をなさいな」グイッ 

善子「きゃんっ。や、だって私は四月に入部してたし――」 

ダイヤ「練習に参加するのは今日が初めてなのでしょう。だったらきちんと挨拶をするのが礼儀というものよ」 

ダイヤ「ほら、一緒に」 

善子「もー…わかったわよ。今日からよろしく」ペコッ 

ダイヤ「よろしくお願いいたします」ペコ 

千歌「やったー!とうとうダイヤちゃんが仲間になってくれたよ!」 

果南「うん。これで一気に雰囲気も引き締まりそうだね」 

花丸「随分な重役出勤ずらね~、善子ちゃん」 

善子「ヨハネよ!そもそもから強引に入部させられたんじゃないの。ってかなんであんたそんなに馴染んでんのよ!」 

花丸「練習はきついし難しいけど、身体を動かすのはやっぱり気持ちよくて楽しいよ」

 

170ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:02:05.21ID:q2ESJKen

ルビィ「よしこちゃんとおねいちゃんと一緒にスクールアイドルできるなんて、夢みたい…!嬉しいな…」 

善子「あー…まあ、その、なに。待たせて悪かったわね」 

ルビィ「ううん。やっぱり無理やりでイヤだったのかなとか考えちゃってたから、よしこちゃんが来てくれて、ルビィすっごく嬉しいんだよ」 

善子「ふ、ふん!やってみて楽しくなかったらすぐにやめてやるんだから!」プイッ 

ダイヤ「始める前からなにを言うのですか、貴女は」ポコッ 

善子「んにゃっ」 

ダイヤ「皆さんより開始が遅れる分、きちんと練習に励んで足を引っ張らないように気を付けるわ。ただし、約束した通り――」 

千歌「うん、わかってる。練習に参加できるのは、平日の放課後は週に三回だよね」 

ダイヤ「ええ。身の回りの繁閑に応じて余裕があればもっと参加するし、逆に少なくなってしまう時期があるかもしれないけれど、ひとまずは週に三回を基準として私事や公務との配分を調整させてくださいな」 

曜「と言ってもダイヤちゃんのことだし、週三でも私達なんかよりよっぽど早く上達しちゃいそうだよね」 

花丸「だから問題は善子ちゃんずらね」 

善子「んなっ…!なんでこっちに矛先が向くのよ!」 

善子「わ、私がその気になれば下等な人間どもの限界動作をこの身に宿すことなど、造作もないことです」フッ

 

171ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:02:59.36ID:q2ESJKen

ダイヤ「ヨハネの指導も、一緒にいる時間はわたくしができるように努めますので」 

ルビィ「休み時間とかだったらルビィ達にも教えられるもん、大丈夫だよ!」 

梨子「せっかく各学年にメンバーがいるんだから、部としての練習の時間以外も有効に使わないとね」 

千歌「あ、梨子ちゃん、その件なんだけど…実は現文の宿題でちょび~っとわからない部分があってですね…」 

曜「あ、実は私も日本史の宿題をやり残しててですね…」 

梨子「ええ!?二人とも、それ随分前に出されたやつだよね!?」 

千歌「いやーははは、スクールアイドル活動のことで頭がいっぱいで」 

曜「太陽と海に囲まれた内浦ではなかなか勉強が難しくて」 

梨子「言い訳しないの!っていうか曜ちゃんは言い訳にもなってないから!」 

ダイヤ「…部活動に専念するあまり、学業が疎かにならないようにね」 

梨子「うう…はい、しっかり面倒を見ます…」 

千歌「よろしくー梨子ちゃん!」 

曜「頼りにしてるであります梨子ちゃん!」 

梨子「ちょっとは自分で解決する努力をしなさい!!」 

果南「はいはい、そんじゃそろそろ練習に入るよー」 

「「「はーーーい」」」 

……………… 

………

 

172ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:03:59.07ID:q2ESJKen

善子「た、だい……」フラ… 

善子「ま」バタン 


覚束ない足取りをなんとか舵取りして、もつれ気味にベッドへと倒れ込む。 

時刻は19時半。 

軽いウォーミングアップと発声練習の後、ほんの一時間程度ダンスの真似事と筋トレをしただけのはずだってのに、身体をこれまでに覚えがないほどの疲れが覆っている。 


善子「うそでしょ、これが…これから放課後、毎日……」 

善子「…………」 

善子「辞めよう」ボソッ 


辞めよう。辞めよう辞めよう。 

そうよ、元々ここで部活に参加するつもりなんかなかったんだし、ルビィにだってちゃんと「楽しくなかったらすぐにやめる」って予防線も張っておいたし、そもそも入部させられたのだって騙されたみたいなもんだし、こんなきつい思いをしてまで続ける理由なんかない―――― 


善子「…………」

 

173ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:04:58.76ID:q2ESJKen

――ダイヤ『さて、それではさっそく千歌ちゃん達に返事をしにいくとしましょうか。「もう少し時間を」と言って、30分も待たせてしまったわ』ガタ 


ふと脳裏に甦る、昨日のワンシーン。 


――ダイヤ『正式にスクールアイドル部へ入部させていただきます』 

――千歌『ほんと!?ほんとにほんと!?やったーーーっ!』 

――ダイヤ『明日からはヨハネ共々練習にも参加するわ』 

――千歌『ありがとうダイヤちゃん!善子ちゃん!』 

――ダイヤ『ただ、それにあたって、一つだけお願いしたいことがあるの』 

――千歌『うん。なに?』 

――ダイヤ『平日の放課後、週に二日は生徒会の公務や私事に割かせてほしいのです。もちろん皆さんの活動に後れを取ることがないよう自主的な復習には努めるという前提で』 

――千歌『もちろんいいよ!ダイヤちゃんが忙しいのはよくわかってるもん』 

――ダイヤ『ありがとうございます。それとね……』

 

174ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:06:00.29ID:q2ESJKen

そうして、今日が練習の初日だったわけで。 

運動へっぽこコンビの相方だと思ってたずら丸もひぃひぃ言いながらなんだかんだ練習についていってるし、ルビィなんか息を切らしながらも弱音は少しも吐かない。 

桜内先輩だけは途中休み休みって感じだけど、あの人はそもそも作曲メンバーらしいし… 

ダイヤだって持ち前の器用さと踊りへの慣れで初日から当然のようにメニューこなすし。 

つまり、実質私が最下位。 

こんな辱しめを受けてまで部活に打ち込むなんて、そんな旧世代のスポ根マンガみたいな話が――話が――…… 


善子「…………んもうっ!!」ガバッ

 

175ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:06:59.73ID:q2ESJKen

――ダイヤ『それとね……』 

――千歌『まだあるの?』 

――ダイヤ『わたくしが練習に参加しない二日のうち片方は、ヨハネも参加できないわ』 

――千歌『ほえ?』 

――善子『え!?』 

――ダイヤ『週に一度は勉強を見てあげることにしているの。その分、練習の後れが出ていたらわたくしがきちんとお稽古をつけておくから』 

――ダイヤ『それだけ、受け入れてほしいのです』 

――善子『…………っ!』 

――千歌『ダイヤちゃんと善子ちゃんが仲間になってくれるっていうならなんでもおっけいだよ!じゃあそーゆーことで、今日からスクールアイドル部は八人だーーっ!!』 


善子「仕方なく!仕方なくなんだからね!なんかちょっとでも後輩いびりみたいなのされたらマジのマジですぐ辞めてやるんだから!ママーっ、晩ごはんー……ってえ、今日遅い日じゃないのよ!もーーーーっ!!」 


それから間もなくして『最後の一人』として理事長が連れてこられて驚いたことは――また別のお話、ね。 

***

 

176ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:08:00.44ID:q2ESJKen

*** 

意識もぼんやりとした朝。 

ばたばたと聞こえるのはママが身支度を整える音。 

教師も人間なのね、なんてぬくぬくと頬を緩ませる。 


津島母「善子、いい加減に起きなさいよ!ママもう出るからね、わかった!?」 

善子「んぅー…はーい…」ノ 

津島母「一年だからって気を抜かないのよ!遅刻なんかしたら許さないからね!それじゃ、行ってきます!」 

善子「だってまだ私が起きるには早いしー」 


ガチャガチャと響く施錠の音に呑まれなくても、元から聞こえるはずなんかない声量。 

パパはもっと早いし、ママが出ていった後の我が家にはキーンとした静けさが訪れる。 

これこれ、この朝独特の静かな感じが…またちょうどよく眠気を誘うもんだから……いやあ二度寝しちゃうのだって仕方ないってものよ………ね………………ぐう。 


「なにを悠々と二度寝しているの」 


ぐう………………え?

 

177ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:09:00.55ID:q2ESJKen

ダイヤ「なるほど、こうしてお母様もお父様も出てしまわれて一人になってしまうことが寝坊、ひいては遅刻の一因になっていたのね」 

善子「は、え、あれ…ダイヤ…?」 

ダイヤ「ええ、ダイヤよ。おはよう、ヨハネ。さ、早く布団から出て顔を洗ってきなさいな」 

善子「え、えええ…ちょちょちょっと待って、思考が追い付かないわ」 

ダイヤ「………」 

善子「今日は平日、時刻は早朝、ここは私ん家であなたは内浦の黒澤邸に住んでて、いや、えっと――なに、してるの…?」 

ダイヤ「それだけ饒舌に話せるのなら目も覚めているでしょう。さあ、朝ごはんを車内で済ませたくなければ早くなさいね」スタスタ… 

善子「いや待てえーーーーい!!」ガバッ 

善子「質問に答えていきなさいよ!なんであなたが平日のこの朝早くからうちにいるのよ!」 

ダイヤ「そんなに気にすることですか?」 

善子「気にするでしょうよ!黒澤邸からここまで結構かかるわよ!?」 

ダイヤ「それこそ草木もまどろむほどの早朝というわけでもないのだから、躍起になって追及する点でもないでしょう」 

善子「んっおおおお…絶妙に噛み合わない温度感がもどかしい…っ!」ワナワナ… 

ダイヤ …ハァ

 

178ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:09:59.77ID:q2ESJKen

ダイヤ「遅刻されては困るから、その通り遠路はるばる家の者に無理を言って迎えにきたのよ。インターホンを鳴らす直前にお母様が出ていらして、その旨を伝えてお邪魔させていただいたのですわ」 

ダイヤ「こんな早朝と言うけれど、こんな早朝にわたくしがここにいるのがどういうことか考えて、できれば無為にしないでほしいものね」 

善子「そ…っれ、は…あなたが勝手にしたことで………わかったわよ、二度寝の気分でもないし、ちゃんと用意するってば」 

ダイヤ「結構」ニコッ 

善子「でも、どうしてこんなに早いのよ。いくらなんでも早過ぎるじゃない。こんなの何時に着くと思ってるのよ」 

ダイヤ「………」ポカン… 

善子「…なにそのカオ」 

ダイヤ「ヨハネ、貴女まさか忘れているの…?」 

善子「え、なにを?」 

ダイヤ「今日から、スクールアイドル部の朝練に参加するのよ…?」 

善子「……………………ぁ」 


善子「あーーーー~~~~っっ!!!」 

……………… 

………

 

179ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:11:15.51ID:q2ESJKen

in 黒澤カー 


善子「むり…無理こんなの毎日なんて死んじゃう…」ウッウッ 

ダイヤ「死にません。ルビィだって花丸ちゃんだって同じようにしているのだから」 

善子「だってあの子達は近いもん!今から支度し始めてもいいくらいじゃないの!私だけこんなに遠いのに  ダイヤ「善子さん」 

ダイヤ「わ、た、く、し、も。本当は今から支度を始めればいいのよ」ニコッ 

善子「あ、ぅ――………」タジ… 

善子「…スミマセンでした」(超小声

ダイヤ「わかればよろしい」フンス 

善子 ムー… 

ダイヤ「ああ、そうそう。早いうちに朝食を済ませなさいな。激しい動きはないみたいだけど、それでもできるだけ食事との時間は空けておいた方がよいですわ」 

善子「あ、うん」ガサ 

ダイヤ「あそこまで急いで出ずとも、朝食を食べる時間くらいはあったのに」 

善子「いーの。ごはんは席に着いてお行儀よく食べましょうなんてガラでもないから…」モグモグ 

ダイヤ「食べながら喋らない!」 

善子「えー…」モグモグ…

 

180ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 06:12:36.52ID:q2ESJKen

善子「ごちそうさまでした」 

ダイヤ「はい」 

善子「ダイヤは朝ごはんは?」 

ダイヤ「もちろん済ませてきましたわ」 

善子「え…だって、え……何時に起きたのよ、それ…」 

ダイヤ「草木もまどろむ時間帯に、かしらね」 

善子「げえ…」 

善子「パンとかおにぎりとかにすれば、この車の中で食べられるのに」 

ダイヤ「わたくしは、食事は席に着いてお行儀よく食べましょうというガラなのよ」フフ 

善子「あー、うん。そうよね、そりゃそうか…」 

ダイヤ「なぜそんな声を出すのですか」 

善子「ううん。そうすれば一緒に朝ごはん食べられるのになって思っただけよ。でもさすがに黒澤家の長女サマに車中食を勧めるわけにはいかないわ」 

善子「だったら家で食べてからでもいっか…」ボソッ 

ダイヤ「………」 

‐‐‐ 

ダイヤ「さあヨハネ、着替えたなら出るわよ」 

善子「まだ平気でしょ?今日は朝ごはん食べてくからもう少し待ってもらえる?」 

ダイヤ「ぶっぶーですわ!!」 

ダイヤ「今日はわたくしもおむすびを持ってきましたから、車内で朝食にするわよ!ほら、早く靴を履きなさいな!」 

善子「えー!?」 

***

 

185ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:01:47.03ID:XaqkmsMa

*** 

ダイヤ「毎日ありがとうございます。行ってきます」 

善子「ありがとうございます。行ってきまーす」 

「行ってらっしゃい、ダイヤ。善子さん。気を付けて」 


控えめな音で走り去る黒澤カーを見送って、今朝も部室までの道を二人で行く。 


善子「なんか、毎日悪いわよね」 

ダイヤ「毎朝車を出してもらっていること?」 

善子「うん。黒澤家に仕えてるのに、私のために毎朝二時間くらい割いてもらっちゃってさ」 

ダイヤ「………まあ」 

ダイヤ「以前より早起きしてもらうことにはなったけど、朝は特になにをしているわけでもなかったから」 

善子「そうなの?てっきり朝ごはんから用意してくれてるんだと思ってた」 

ダイヤ「………」 

ダイヤ「それにしても、言い出すのが遅かったですわね。もう送ってもらうようになって二週間になるわよ」 

善子「んな…っ!や、悪いなーってはずっと思ってたもん!なんとなく今まで話題にしてなかっただけで、ちゃんと考えてはいたもの!」アセアセ 

ダイヤ「はいはい」クスッ 

善子「信じてない笑い方やめーーーっ!!」//

 

186ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:03:02.64ID:XaqkmsMa

善子「つまり私が言いたいのは、うちからはバスで行ってもいいんじゃない?ってことよ」 

ダイヤ「ほう」 

善子「ちゃんと調べたんだから」 

善子「うちのバス停を6時半に出るやつに乗れば朝練には間に合うわけよ。ただ、ダイヤの家からこっちに来るバスは一番早くても620分くらいのやつだから、それだと全然間に合わないの」 

善子「だからダイヤをうちに運ぶのだけお願いして、うちからはバスで行く形にして先に帰ってもらえば、拘束時間が減るでしょ。ね、どう?」 

ダイヤ「わたくしも貴女を迎えにいくにあたって、その辺りのことは当然調べたし考えたわ。考えたし、そう申し出たのよ」 

善子「…必要ないって?」 

ダイヤ「端的に言えば、そう言われたわね。それで短縮できる拘束時間はせいぜい40分といったところだけど、だったらそんなに変わるものでもないから、とね」

 

187ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:03:37.84ID:XaqkmsMa

善子「そうなの?でもここでの40分って半分に迫るくらいの時間よ?」 

ダイヤ「わたくしに言われても、本人がそう言うのだからそうなのでしょう。それに――」ジッ 

善子「…なに」 

ダイヤ「拘束時間を気にするのならば、そのような小細工の前に、もっと根本から解決できる手段があると思うのだけど」 

善子「……………」 

善子 ハッ!! 

ダイヤ「起こすだけならば電話で結構、自力で起きられるならばそれすら不要ですわよ」 

善子「や、ぅ、ぐぬぬぬ…っ」(葛藤

ダイヤ「でもね。運転手への配慮はともかく――」 


そう言ってダイヤは、たまに見せるいたずらっぽい笑みを浮かべた。 


ダイヤ「わたくしは存外この朝の時間を気に入っているから――まだしばらくは、甘えてくれてよいのよ」 

***

 

188ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:07:41.12ID:XaqkmsMa

*** 

果南「じゃ柔軟始めるよー」パン 

千歌「よーちゃん、梨子ちゃん!日陰確保したよー!」 

梨子「走ってまで日陰を確保するのね…」 

曜「その元気があるならどこでも柔軟できそうだよね」 

鞠莉「あー、ちかっちズルいよぅ!今日はマリー達に日陰譲って~!」 

千歌「いひひー、早い者勝ちなのだー」イヤイヤ 

鞠莉「むーっ。じゃあマリーがちかっちと組むー!」 

曜「じゃー果南ちゃんとやっちゃおー!」ゞ 

果南「梨子もおいでよ。今日は入れ替えっこだね」 

ダイヤ スッ (無言

善子 スッ (無言)

 

189ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:08:16.87ID:XaqkmsMa

花丸「今日はまるが先に柔軟役やるずら」 

ルビィ「あ!そういえばね、昨日調べ物してたら柔軟体操の効果を上げる方法が載ってたんだよ」 

花丸「そんなのあるんだ。どうするの?」 

ルビィ「えっとね~」 

果南「お、なになに?いい情報なら私らにも教えてほしいな」 

ワイワイ 

果南「ダイヤ達もこっちに――」 


ダイヤ「少しずつ伸びるようになってきましたね」 

善子「ふふん、そうでしょ。お風呂上がりに少しやってるんだもの」 

ダイヤ「よい心がけですわ」 

ダイよし グッグッ 


一同「「「………………」」」 

‐‐‐ 

 

190ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:17:48.67ID:XaqkmsMa

キーンコーンカーンコーン 


花丸「お昼ごはんの時間ずら~っ♡」ワーイ 

善子「ずら丸、今日は?」 

花丸「じいちゃんがさんどいっち作ってくれたんだよ!」 

善子「へえ、珍しいわね」 

ルビィ「ルビィもサンドウィッチにしてもらった~」 

善子「えー!二人ともお揃いなわけ!?ずる!」 

ルビィ「よしこちゃんは?」 

善子「フツーにお弁当よ」 

花丸「こんなこと言っちゃいけないけど、栄養バランスはさんどいっちよりお弁当の方がいいよね」 

善子「そうだけどー。二人がサンドウィッチなら私もそうしてもらえばよかった」ムー 

ルビィ「まあまあ。今度みんなで合わせよ」 

善子「うん」

 

191ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:18:32.78ID:XaqkmsMa

花丸「それじゃ、手を合わせて。いっただっきまー  ダイヤ「ヨハネ」ガラ 

花丸「…す?」 

ルビィ「おねいちゃん」 

善子「じゃ私、ダイヤとお昼食べるから行くわね。また後でね」タタタ 


<
ダイヤもサンドウィッチ? 

<
あら、なぜ知っているの?…ああ、ルビィね 

<
私もサンドウィッチにすればよかった~ 

<
分けっこしましょうか 

<
うん! 


花丸「………」ポカン… 

ルビィ「…ルビィ達とお揃いにする必要、ないじゃん…」 

‐‐‐ 

 

192ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:19:57.48ID:XaqkmsMa

果南 ムムム… 

鞠莉「かーなんっ。どうしたの?」 

果南「あー、ごめん。ちょっと考え事してた」 

鞠莉「なにか悩み事じゃないでしょうね~」ジト… 

果南「そんなんじゃないってば。柔軟の組合せどうしようかなってね」チラ 

善子 ポケーッ (上の空

鞠莉「oh. 善子のことね。考えるくらいならマリーが貰っちゃうわ。さー柔軟始めましょ!マリーは善子とやるー!」イェーイ

果南「あっ鞠莉…」 


<
ずるーい!チカも善子ちゃん狙ってたのにー! 

<
この前ちかっちが言ったでしょ、早い者勝ちデース! 

<
あれは日陰だけー!善子ちゃんチカとやろーよー! 

<
ダーメーー!マリーとやるのー! 

<
どっちでもいいわよ… 


果南「はは…」

 

193ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:20:49.64ID:XaqkmsMa

果南「それじゃ15分休憩ね」パン 

善子「ふう…」ペタン 

ルビィ「お疲れさま、よしこちゃん」 

善子「ああ、ルビィ。お疲れさん」 

ルビィ「慣れてきた?」 

善子「ぼちぼちね。どっちかと言うと朝練で早起きするのがきついかな」 

ルビィ「よしこちゃん、朝ニガテだもんね」 

花丸「お迎えが必要なほどにね」ヌッ 

善子「どっから湧いてきてんのよ、あんたは」 

花丸「ルビィちゃんと善子ちゃんの間から」 

善子「なんでよ。てかヨハネだから」 

花丸「なんでルビィちゃんには指摘しないのにまるにだけ言うずら!」 

ルビィ「うゅ?」 

善子「ルビィはいいのよ、ばかにしてる感じないから」 

花丸「まるも別にばかになんかしてないよ」 

善子「いや、してる感じある」 

花丸「ないよ」 

善子「我が名は?」 

花丸「善子」 

善子「ほら」 

花丸「いや事実でしょ」 

ルビィ「あはは…」

 

194ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/19() 12:22:25.47ID:XaqkmsMa

曜「ジュースじゃんけんやる人ー!」 

千歌「はいはいはいはーーい!梨子ちゃんもやる!」 

梨子「やるって言ってないよ!?」 

果南「おっ、やるやる~」 

鞠莉「マリーもしたい~」 

ルビィ「あー!ルビィも参加するー!よしこちゃんとはなまるちゃんは?」 

花丸「じゃあまるも。行こ、善子ちゃん」 

善子「私はいいわ、まだあるから」 

花丸「あ…そう?」 

善子「行ってきていいわよ」 

ルビィ「うん…」 


<
あれ、善子は? 

<
まだあるからいいって 

<
そっか… 


善子 ゴク…ゴク… 

善子 …プハ 

善子「はあ…」 

善子 ボーッ 


果南「…………ね、善子、  ガチャ