一目貴女を見た日から 2

52ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 05:58:39.97ID:r6obDQVR

*** 

in 
高海家 


千歌「 」 

曜「 」 

善子「………あの、」 

ようちか「「ごめんなさい!よくわかりませーーーん!!」」 

善子「うそでしょ、この人達…」ハァ…

 

53ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 05:59:43.88ID:r6obDQVR

衝撃の日曜日から、二日。 

私は、特に深く考えることもなく――それこそ浦女を選ぶ内浦の人達のように――沼津の高校へ通おうと思っていた。 

一年の頃から重ねられてきた進路相談でも、三者面談でも、当然にそう答えてきた。 

なんの変哲もないその回答は先生にもママにもパパにも否定されることなんかなかったし、高校一年生を過ごす場所にこだわることに意味なんか感じていなかった。 

でも、私は、考えた。 

人生の中で初めて、考えて、そして自分で決めた。 

進学先を浦の星女学院にすることを。 

一昨日、家に帰ってからママとパパにそのことを話したら、驚かれたし何度もいいのかと聞かれたけど、身構えていた以上にあっさりと頷いてくれた。 

ただの一度も「やめておきなさい」とは言われなかった。 

それからすぐに自分の部屋に戻って『トモダチ』欄の千歌さんに連絡をして、今に至るのだけど――…

 

54ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:00:44.01ID:r6obDQVR

善子「あなた達、私の一つ上よね?一年前あなた達も同じ勉強したはずよね?それがわからないって、どういうことよ…」 

千歌「ち、チカはほら!高校生になってから家の手伝いする時間が増えちゃって!それでふくしゅーする時間あんまりなかったし!」 

曜「あっちかちゃんずるい!私も私も!えーっと…飛び込みに本格的に時間使うようになってきて、べんきょーの時間とかなくなってきたし!」 

千歌「うそだー、よーちゃん中学生の頃から飛び込みばっかりだったじゃん!変わんないよ!」 

曜「うぐっ…そ、そう言うちかちゃんだって!旅館には志満さんが入ってくれたからだいぶ楽になったって言ってたじゃん!」 

千歌「そ、それは…!」グヌヌ… 

善子「底辺なすり付け合って楽しい?」 

ようちか「「ひどいっ!?」」ガーンッ

 

55ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:01:42.73ID:r6obDQVR

善子「なんにせよ、あなた達が受験勉強の役に立たないことはよくわかったわ」 

曜「そ、そもそも対策なんかしなくたって平気だよ。一般的な国語数学理科社会だけだもん」 

善子「その一般的なレベルを軒並みパスしたのは誰よ」 

曜「ぐはっ!」グサッ 

千歌「てゆーか善子ちゃん頭いいじゃん!別に教えなくてもチカ達よりよっぽど、」 

善子「あなた達じゃ基準にならないから」 

千歌「ぐはあっ!!」グサッ 

善子「誰かこう、頼りになりそうな人いない?勉強ちゃんと教えてくれそうな人」

 

56ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:02:42.10ID:r6obDQVR

千歌「えー、うーん…志満姉は忙しいし、美渡姉…は、ちょっとなあ…」 

曜「あ~、ちかちゃん美渡ちゃんに言い付けちゃおー!」 

千歌「え!?あ、やめてよ!そういうつもりで言ったんじゃないんだから!」 

曜「いひひ、もう遅いよーっだ。へ~、美渡ちゃんじゃ勉強は『ちょっとなあ』なんだー、ふ~ん」 

千歌「よーちゃーーん!もーー、よーちゃんイヤ!」プイッ 

善子「あの」 

ようちか「「はっ!忘れてた!」」 

善子「大丈夫なの、この人達…」 

曜「うーん…あっ!勉強と言えばさ、えっと…」スマスマ

 

57ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:03:41.19ID:r6obDQVR

曜「どうかな!?」つスマホ 

千歌「…おー!いいかも、ちょうどいいかも!」 

曜「でしょでしょ!?」 

善子「なに?いい人が見付かった?」 

曜「うん、ばっちし適任がね!連絡してみるから、ちょっと待ってね…」スマスマ 

善子「怖い人じゃない?」 

千歌「怖くないよ。可愛くて優しいからだいじょーぶ!」 

善子「そう」ホッ

 

58ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:04:49.16ID:r6obDQVR

曜「今日あいてるって!」 

千歌「おっ」 

曜「家にいるってだから、迎えにいこっか」 

善子「近いの?」 

曜「近いよ!歩いて10分くらいだから」 

善子「よし、そのくらいなら私も歩けるわ!」 

曜「…その黒いヒラヒラは脱いでいくんだよ。倒れちゃうからね」 

善子「絶対いや!!」 

千歌「帽子かぶっていこうね」 

善子「あー!ださいの被せないでよ!」 

千歌「ださくないよ!」 

善子「なによこのウ○コみたいな帽子!」 

千歌「し、失礼な!それは東京で人気の某アイドルが愛用してる由緒正しいウ○コなんだよ!」 

善子「ウ○コじゃないのよ!!」 

曜「ちかちゃん、善子ちゃん。その辺でストップ」 

……………… 

………

 

59ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:05:49.50ID:r6obDQVR

千歌「右手に見えますのがー、内浦が誇る二大水族館の一つ、『みとしー』こと伊豆・三津シーパラダイスでございまーす」 

善子「もう一つは淡島水族館よね」 

曜「おっ、善子ちゃんよく知ってるね!」 

善子「言っても沼津市内のことだし、観光スポットくらいはね」 

千歌「ふふふ…そんな善子ちゃんでもこれは知らないでしょ!このトンネルの名前はなーんだ!?」 

善子「だから観光スポットくらいって言ったでしょ。知らないわよ」 

千歌「チカも知らない」 

曜「あはは…私も。さすがにトンネルの名前なんか気にしたこともないなー」 

善子「あ…中に入るとひんやりしてて気持ちいいわね…」 

千歌「ほんとー。ずっとトンネルでもいいねー」 

善子「ここに下宿するわ、私」 

曜「できないよこんなとこに下宿」 

千歌「チカもー」 

曜「自宅に帰りなよちかちゃんはさ」 

……………… 

………

 

60ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:06:49.04ID:r6obDQVR

善子「おー、海」 

曜「まさか善子ちゃん、海見るの初めて!?」 

善子「初めてなわけないじゃない。でもこんなに間近でこんなに広いのは、うん…初めてかも」 

曜「あはは…そうだよね。どう?いいでしょ、内浦」 

千歌「浦女に通うことになったら、毎日この景色の中で過ごせるんだよ!」 

善子「毎日はいいかな」 

千歌「えー!?」 

善子「通学バスだろうし、寝てると思うし」 

千歌「そんなあ!景色と自然を堪能してよ!」 

善子「月イチでね」 

千歌「少なーいっ!」 

……………… 

………

 

61ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:07:50.04ID:r6obDQVR

千歌「着いた!」 

善子「この建物はなに?」 

千歌「総合案内所だよ。この辺の観光情報を調べたり、自転車を借りたりできるとこ!」 

善子「そんなのがあるのね。ここで待ち合わせてるの?」 

曜「うん、わかりやすいからね。『着いたよ』っと」スマスマ 

善子「今から呼ぶんかい」 

千歌「まーそう急ぎなさんな、善子ちゃんや」 

曜「ここから近いからね。すぐ来てくれるよ」

 

62ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:08:56.44ID:r6obDQVR

千歌「みかんアイスくーださい!善子ちゃんも食べるでしょ?」 

善子「ああ、私パス」 

千歌「ええ!?アイス食べたがりの不健康現代っ子善子ちゃんが!?」 

善子「誰が不健康現代っ子よ!私みかんだめなの!」 

曜「ええ!?みかんだめ!?ひ、非国民だああ…!!」ガタガタ 

善子「誰が非国民よ!小さい頃から家でも学校でも親戚のとこでも行く先々であんだけ食べさせられてたらもういいわってなるでしょ!」 

ようちか「「へ?ならないよ?」」 

善子「みかん脳どもめ…」 

千歌「まーまー!まーまー善子ちゃん!みかんアイスは別!別だから!」グイグイ 

曜「これはイケるよ!みかんじゃないから、アイスだから!美味しく食べられるに決まってるから!」グイグイ 

善子「うおおおおおなんなのめっちゃグイグイ来る!!いらないって!私はアイスモナカ食べるから!あなた達はみかんアイス食べればいいじゃないの!一緒である必要ないでしょ!」 

千歌「みかんは一緒に食べるともっと美味しいんだよ!」 

善子「一緒に食べても味覚は変わらなーーーい!!」 

「…あのー」

 

63ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:09:56.33ID:r6obDQVR

ようちかよし ハッ 

「あんまり公共の場で騒がしくしない方がいい、よ」 

善子「………」// ササッ 

曜「やっほー!突然呼び出してごめんね!」 

千歌「ひっさしっぶりー!」 

「久し振り、千歌ちゃん。曜ちゃん」 

善子「…え。じゃあ、この人が待ち合わせした…?」 

曜「うん、そうだよ。学年は私達の一つ下、善子ちゃんと同じだね!」 

善子「同じ…」 

曜「こちらラインで話した浦女進学希望のコで、善子ちゃんだよ!」 

「よしこ、ちゃん…」

 

64ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:10:56.21ID:r6obDQVR

千歌「おー、さすが同い年!さっそく下の名前で仲良さげだよ!」 

曜「いや、それは私が下の名前しか教えてないからなんじゃ…」 

善子「…………ねえ、もしかして、あなた…幼稚園…」 

曜「あっ、そうそう。えっとね善子ちゃん、こちらは私達の幼なじみの―― 

善子「ずら、丸」 

曜「惜しい!ずら丸ちゃんじゃなくて花丸ちゃん…あれ?なんで知って…」 

善子「あんた、あの、ずら丸ぅ!?」 

花丸「善子ちゃん……やっぱり善子ちゃんずらー!」 

ようちか「「……へー?」」 

……………… 

………

 

65ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:11:56.49ID:r6obDQVR

千歌「いや~、素敵な偶然もあるものだねえ」チュー 

曜「ちかちゃーん、おばさんくさいよー」チュー 


千歌さん達が呼んだ助っ人。 

それは、幼稚園時代の知り合い、国木田花丸だった。 

家がお寺だとかでやたらと感性が古く、ちょっとした機械やからくりを見るたびに「未来ずら~」と言っては目を輝かせる。 

人を疑うことを知らないような無垢な女の子で、なぜか懐かれており、幼稚園で過ごす時間はずーっと私の後ろをちょこちょことついてきていたものだ。 

なにかにつけて語尾に「ずら」と言うものだから、私は当時「ずら丸」って呼んでたのよね。 

幼稚園を卒園すると同時に、それっきりぱったりと会わなくなってしまっていたんだけれど――

 

66ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:12:55.95ID:r6obDQVR

善子「ほい、ずら丸」パキッ つ片割れ 

花丸「ありがとう、善子ちゃん」 

善子「まさか、こんな形であんたに再会するとはねえ」 

花丸「ね。事実は小説よりも奇なりずら~」 

善子「出た」 

花丸「なに?」 

善子「あんたまだその口癖直ってないのね。ずら~って」 

花丸「な!き、気にしてるのにぃ…」 

花丸「善子ちゃんこそどうなの、その様子を見るにあんまり成長したとは言えないみたいだけど」 

善子「はあ?あんた、目でも瞑ってるの?あんなちんちくりんの幼稚園児だった頃の面影なんかないでしょ。今や万人が目を奪われるほどの美少女に――」 

花丸「ヨハネさま!」

 

67ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:13:55.86ID:r6obDQVR

善子「フッ…悠久の時を経て再びまみえることが叶ったわね、我がリトルデーモンよ。今こそかつて果たせなかった盟約の誓いを改めて結んでやってもよいぞ」ギラン 

花丸「ほ~ら、ね。変わってないずら♡」ニコッ 

善子「………っ!」// ヒクッ… 

花丸「今のは、う~ん…おおかた『久しぶりに会えて嬉しい。改めて友達になろうね』ってところかな?もちろん、喜んで」 

善子「な、あ、が…っ」// プルプル… 

千歌「おお~っ、すごい!ヨハネちゃんモードの言葉を完全に理解してる!」 

曜「さすが、昔仲良くしてたってだけのことはあるね!…昔からあんな感じだったんだ」 

花丸「さ、千歌ちゃん。曜ちゃん。善子ちゃん。アイス食べ終わったら勉強しよ。時間は有限、時は金なりずら」 

善子「ぅぅぅ………っ、うにゃあ~~~~~~っ!!」// ←なんと言えばいいかわからないけどとにかく照れ臭くなった 

……………… 

………

 

68ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:14:55.34ID:r6obDQVR

千歌「よーし!アイスも食べ終わったことだし、花丸ちゃん家にレッツゴー!」 

曜「おーっ!」 

花丸「え?うちに来るの!?」 

千歌「あれ。だめだった?」 

花丸「だめじゃないんだけど、今日はだめだよ。お昼過ぎからお客さんが来ることになってて、お友達は家に呼べないずら。…こんな大勢になるとなおさら」 

千歌「あちゃー」 

善子「家に行くってまで伝えてたんじゃないんかい」 

曜「いやー…ははは。失念していたであります!」ゞ 

善子「でありますじゃないわよ」

 

69ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:15:55.81ID:r6obDQVR

曜「ちかちゃん家に戻るしかないかな」 

千歌「うちねー、うち…いいんだけど、今日確か美渡姉がお昼で帰ってくるんだよねー」ウーン… 

善子「まずいの?」 

千歌「よーちゃんが変なこと言わなきゃまずくない」 

曜「言わないよ、なんにも」 

千歌「ほんとに?」 

曜「美渡ちゃんじゃ勉強はちょっと…」 

千歌「それー!それがだめなのー!なしなし!チカん家に戻るのはナーーーシ!」 

善子「曜さん…あなたねえ…」 

曜「こればっかりは譲れないのであります…」 

千歌「むむむーっ」プクーッ

 

70ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:16:54.92ID:r6obDQVR

花丸「曜ちゃんのお家はだめずら?」 

曜「いいよ!」 

善子「あ、解決…」 

曜「従弟妹のコ達来てるからめちゃくちゃうるさいけどね!」 

善子「してなーい!」 

千歌「えー!操ちゃん達!?会いたい会いたい!」 

善子「食い付かなーーい!!」

 

71ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:17:57.80ID:r6obDQVR

花丸「まるがお勉強を教えるんなら、千歌ちゃんは来なくてもいいんじゃないの?」 

千歌「えっ」 

善子「あー、確かに」 

千歌「や、ちょっと」 

曜「ママに千歌ちゃん行くって連絡しとくよ!」 

千歌「しとかなくていいよ!てゆか、よーちゃんは!?」 

曜「ちかちゃん家で善子ちゃんの勉強に付き合うよ!」 

千歌「最悪のパターンだろ、それェ!!」 

善子「大丈夫、大丈夫。見張っとくから」 

千歌「チカを追い払うことに熱心にならないで!」 

花丸「でも一緒にいてもなにかできるの?」 

千歌「悪意がない分、花丸ちゃんが一番残酷なんだけど!!」 

……………… 

………

 

72ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:18:57.85ID:r6obDQVR

善子「――で、辿り着いた結論が…」 


花丸「あ、いた。ルビィちゃ~ん!」ノシ 

ルビィ「はなまるちゃん!千歌ちゃんに曜ちゃんも!」ノシシシ 

曜「やっほー、ルビィちゃん」 

千歌「ルビィちゃ~ん、宿題もう終わったー?だめだよ~、31日に徹夜でやろうなんて考えちゃ」 

ルビィ「ちゃ…ちゃんとやってるもん!」 

曜「それはちかちゃんのことなのでは…」 

千歌「ギクゥッ!」 

花丸「えー。だめずらよ、千歌ちゃん。宿題は計画的にやらなくちゃ」

 

73ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:19:58.13ID:r6obDQVR

千歌「き、きききき去年よりはやってるもん。あと残ってるのは数学のドリルと家庭科の裁縫と現代文のプリントと…」ユビオリ 

ルビィ「えええ…大丈夫なの、それ…」 

曜「てゆーか家庭科やってないの!?結構かかるよ、あれ!」 

花丸「人のお勉強より先にやることがあるずら…」 

千歌「んもーーーっ、いいでしょチカのことは!今日は善子ちゃんの勉強をするために集まったんだから!」 

曜「おっとそうだったね」 

ルビィ「よしこちゃん…」 

善子「あ…」 

ルビィ モジモジ… 

花丸「えっと、急にお願いしちゃってごめんね。こちらまるのお友達の善子ちゃんずら。まる達と同じ三年生なんだよ」 

ルビィ「うゅ…」

 

74ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:20:56.99ID:r6obDQVR

善子「わ、私、津島善子っていいます。その、私の都合でお願い事をして、ご迷惑をおかけします。ず――…花丸に勉強を教えてもらいたいんだけど、この人数で使えそうな場所がなくて、ルビィさんのお家なら近くて広いから、もしよかったら、ってことになったんです」 

ルビィ「…うん、はなまるちゃんから聞いてます。みんなが遊びにきてくれるの嬉しいし、お母さんにもいいよってゆわれたから、えっと、黒澤ルビィです。よ…よろしくお願いしますっ」ペコッ 

善子「あ…ありがとう!こちらこそ、よろしくお願いします!」ペコリ 

ルビィ「暑いよね。はいって!」 

善子「ええ。お邪魔します」 

千歌「……あれー?なんか、チカ達と初めて話したときと全然態度が違うような…」 

曜「おかしいですなー。あんな丁寧に接してもらったことないよね?年上なんだけどなー」 

花丸「日頃の振る舞いが原因だと思うずら」 

……………… 

………

 

75ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:21:56.92ID:r6obDQVR

ルビィ「お待たせ~。善子ちゃんもお茶でいいですか?」 

善子「うん、ありがとう」 

千歌「ありがと~ルビィちゃ~ん」 

曜「ありがとう!さっそく頂こーっと」 

ルビィ「えっと、浦の星の受験に向けた勉強ですよね。だったらルビィも一緒にやっていいですか?」 

善子「もちろん、一緒にやりましょう。…あー、ねえ、敬語やめない?私達、ほら、同い年だし。来年から同級生になるんだし…」 

ルビィ「…!うんっ!」ニコッ 

善子「ルビィ、って呼んでもいい?」 

ルビィ「うん!ルビィはよしこちゃんって呼ぶ!」 

花丸「さっきからそう呼んでたよ」 

善子「そうだけど心なしか発音が変わった気がするわ」

 

76ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:23:00.77ID:r6obDQVR

一人用にしては随分と大きな丸机。 

そもそも部屋からして広くて、五人でも窮屈さは少しもない。 

そこかしこにピンク色のもの、ふわふわしたもの、かわいいものが敷き詰められていて、ザ・女の子の部屋って感じ。 

先生役をずら丸にバトンタッチした年長組はさっそくやることを失って、本棚から漫画を選び始めている。 

私達は三人でノートを広げて、簡単な問題集を覗き込む。 


…ずら丸と再会して、かと思えば新たな友達ができて、目まぐるしい展開に私は散りばめられていた数々のピースをことごとく見逃していた。 

考えなくたって辿り着けたであろう一つの真実が、形となって真正面に現れるまで、まるで気付いていなかった――

 

77ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:24:00.30ID:r6obDQVR

善子「本屋で適当に選んできたんだけど、これでよかったのかしらね?」 

花丸「どうなんだろう。学校の図書室になら浦の星の過去問が保管されてたはずなんだけど…」 

善子「さすがに他校の図書室に行くわけにはいかないわね…」 

花丸「そんなに遠くないし、取ってこようか?」 

善子「それは悪いわ。だったら、そうね、もしまた付き合ってくれるんならそれまでにコピーしておいてくれたら――」 

ルビィ「あ!!」 

よしまる ビクッ 

善子「な、なによルビィ!?」 

ルビィ「あ、ご、ごめん…浦の星の過去問なら、おねいちゃんに聞いたらわかるかなって…」 

花丸「お~、それは名案ずら」

 

78ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:24:59.81ID:r6obDQVR

善子「お姉ちゃん?あなたお姉さんがいるの?」 

ルビィ「うん!あ、でもそれなら千歌ちゃん達に聞いてもわかるかなあ」 

善子「あの人達が役に立たないことは確認済みよ」 

ルビィ「確認済みなんだ…」 

善子「見てみなさい、この至近距離で悪口を言われても気付かないほど漫画に熱中してるわ。しかもあの片方は夏休みの宿題すらろくに終わってないというのに」 

花丸「なんだか哀れずら…」 

善子「ところでそのお姉さんは、今いらっしゃるの?」 

ルビィ「今はおでかけしてるけど、たぶんもうすぐ帰って――……きた!」 

善子「え?」 

ルビィ「ちょうど帰ってきた!おねいちゃんに過去問持ってるか聞いてくる!」テテテ 

善子「え、帰って?え…?」 

花丸「ルビィちゃんはお姉さんの匂いを嗅ぎ付けることができるんだよ」 

善子「えなにそれどういうこと…」

 

79ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:26:00.76ID:r6obDQVR

花丸「ルビィちゃんのお姉さんはこの辺だと有名な人でね、とっても美人で格好いいんだよ~」 

善子「へえ…なんだかどこかで聞いたような人ね…」 

千歌「~♪………あ、善子ちゃーん」←漫画読んでる 

善子「なに?」 

千歌「ルビィちゃんのお姉ちゃんって、あの人だよー」 

善子「あの人?」 

曜「ほら、こども祭りで話したでしょー」←漫画読んでる 

善子「え?………え?」

 

80ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:27:00.97ID:r6obDQVR

テテテ… 

ルビィ「はなまるちゃん、よしこちゃん!おねいちゃん過去問持ってるって!」 

善子「あ、ねえルビィ、あなたのお姉さんって――」ガタッ 


――曜『あれはダイヤちゃんだよ。黒澤家の長女で、私達とは幼なじみだからね!』 

――千歌『ダイヤちゃん家は黒澤家って言って、ここらへんでは結構有名なんだよ』 

――ルビィ『――――――えっと、黒澤ルビィです。よ…よろしくお願いしますっ』 

――花丸『ルビィちゃんのお姉さんはこの辺だと有名な人でね、とっても美人で格好いいんだよ~』 


――ダイヤ『皆さん、ごきげんよう。浦の星女学院生徒会副会長、黒澤ダイヤでございます』 


善子「もしかして――………っ」 

ダイヤ「あら。随分と大勢で遊びにきたのね、珍しい」ヒョコ 

ダイヤ「花丸ちゃんに、曜ちゃん、千歌ちゃん。いらっしゃい。それと――…あら?あなたは…」 

善子「……………っ!!」 


ああ、息が詰まるってこういうことを言うのね――なんて。 

私は酸素が行き届かない頭でそんなことを考えていた。 

……………… 

………

 

81ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:27:59.89ID:r6obDQVR

ダイヤ「改めて。わたくし、黒澤ダイヤと申します。すでにご存知かとは思いますが、ルビィの姉です」 

善子「あ、は、初めましてっ。私は津島善子です、千歌さんと曜さんとはこの間知り合って、ずらららっ花丸とはさっき再会して、て、る、ルビィとは友達になったばっかりですっ」アワアワ 

ダイヤ「あら、では皆さんとまだお付き合いは短いのですね。それならばわたくしも遜色なく善子さん達の交友の輪に加わることができるかしら」 

善子「わっ私の交友の輪に!?そ、ぇあ、それはっもう!お姉さんのお好きなように加わっていただければっ私も嬉しい…かも…っ」 

ダイヤ「それにしても、花丸ちゃん達と一緒だったとは言え、ルビィが知り合ったばかりの人を部屋に上げるなんてね。感じなかったかもしれませんが、あの子はとても人見知りなのよ。仲良くしてあげてくださいな」 

善子「もっももももももちろん喜んでェ!!」

 

82ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:29:15.76ID:r6obDQVR

<今日はどちらから? 

<
ぬ、沼津から…バスで…! 

<
まあ、沼津からいらしたのですか。暑い中よく来てくださいましたわ。ゆっくりしていってね。 

<
ひゃ、ひゃいぃ…っ! 


ルビィ「なんだか、よしこちゃん随分と緊張してるね」 

曜「いや~、ダイヤちゃんは美人さんだからねー。姿勢もピンッてしてるから、向かい合ってお話ししてるとこっちまで背筋が伸びちゃう感覚はわかるなあ」 

ルビィ「えー、そんなことないよ。おねいちゃん結構極端なとことかぬけてるとことかあるもん」 

千歌「ほえ。そーなの?」 

ルビィ「うん。一回夜ごはんに遅れてお母さんに怒られてからは、毎日五分前にはリビングにいるしー、初めて自分で買ったアクセサリーとかすっごく大事にしてて、買ってから一年間くらいは毎日ずっと着けてたしー」 

曜「おー、それはなかなか極端ですなー」 

ルビィ「しかも学校に行くときは着けちゃだめだからって、わざわざおうち出る前にはずして、帰ってきたら着けるんだよ。お休みの日には一日じゅう着けてられるからってすっごく嬉しそうでね。そんなんだからチェーンもゆるゆるになっちゃって…」 

千歌「ぷぷっ…ダイヤちゃんらしいかも」 

ダイヤ「ルビィ。千歌ちゃん。聞こえているわよ」コホン 

ちかルビ「「ピギャッ!?」」ビクッ 

曜「ま、初対面で緊張しちゃう人の気持ちはわかるよってことだよね。善子ちゃんも少しお話ししてたらすぐに慣れるよ!」 

千歌「そうだね~」 

花丸「………………」

 

83ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:30:22.52ID:r6obDQVR

<ヨハネさんはなぜ浦の星へ行こうと? 

<
く…ククク、それは冥界からの囁きにより決したこと…! 

<
冥界…うふふ、運命ということですか。素敵ですわね。 


曜「善子ちゃんが堕天使発動しちゃってるであります…」 

千歌「緊張を乗り切るために心が勝手に…」 

ルビィ「え?え??あれなに???」 

ダイヤ「っと、そろそろ時間かしら。行かなくちゃ」 

善子「っぁ…行っちゃうん、ですか…?」 

ダイヤ「ええ、ごめんなさいね。この後お稽古事があるのよ」 

善子「そう、なんですか」シュン 

ダイヤ「…ふふ。そんなカオをしないでくださいな。二時間で終わるから、それまでまだいらっしゃったらまた顔を出させてもらうから」ニコッ 

善子「ほ、ほんとですか!やった…!」 

ダイヤ「それと、これが必要なのよね」つ『浦の星女学院学力入試問題 過去問集』 

ダイヤ「わたくしが書き込んでいる箇所もあるけれど、カンニングせずに自力で解くのよ?」 

善子「は…はいっ」

 

84ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:31:14.35ID:r6obDQVR

ダイヤ「花丸ちゃん達と考えてもわからないところがあったら、まとめておきなさい。後で教えてあげますから。…そこのお二人がなんのためにいらっしゃるのかわかりませんけれど」ジトッ 

ようちか「「~~~♪」」ヒューヒュー 

千歌「おい言われてるぜよーちゃん、ルビィちゃん」ウリウリ 

曜「やだなーちかちゃんってば。ダイヤちゃんの視線をよく見なよ、ちかちゃんとルビィちゃんのことだよ」ウリウリ 

ルビィ「ぴっ!?」 

ダイヤ「千歌ちゃんと曜ちゃんのことに決まっているでしょうが!」 

花丸「千歌ちゃんはこの間に自分の宿題を進めたらいいのに」 

ダイヤ「ほう…?宿題…?」ピクッ 

千歌「あっ花丸ちゃんだめだよそういうこと言っちゃ――」

 

85ぬし ◆z9ftktNqPQ (の眠る深淵)2019/06/18() 06:32:05.35ID:r6obDQVR

ダイヤ「まさかとは思うけれど、千歌ちゃん。その『宿題』とやらは夏期休暇課題のことではないわよねえ…?」 

千歌「あ、あはは…」 

ダイヤ「あははではありません!もう夏期休暇も終わろうというこの時期になぜまだ課題が残っているのですか!その手に持った漫画本を棚に戻して今すぐご自身の課題に取りかかりなさい!よいですか!」 

千歌「は、はいぃ…っ!」 

ルビィ「おねいちゃん、お稽古の時間…」 

ダイヤ「あら、いけない。お稽古から戻ったら、どのくらい進んだのか確認しますからね!」 

千歌「ううう…そんなあ~~」 

ダイヤ「それじゃヨハネさん。お勉強、頑張ってね。来年度、貴女と学窓を共にできることを楽しみにしているわ」 

善子「はい!ダイヤさんも、お稽古頑張ってください!」

 

86ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:32:59.97ID:r6obDQVR

花丸「さて、それじゃお勉強に戻ろっか」 

善子「そうね!張り切って勉強しましょう!」 

千歌「うう~、恨むからね花丸ちゃん…!」 

曜「まあまあ、一人きりでやるよりいいじゃない。家まで付き合うから宿題持ってこようよ」 

ルビィ「お母さんにゆっとくから、戻ってきたらそのままうちに入ってきちゃっていいからね」 

曜「ありがと、ルビィちゃん。ほら行こう、ちかちゃん」グイ 

千歌「あう~~~」ズルズル… 


<
ねー、よーちゃん!お裁縫のやつ手伝って! 

<
ええー?だめだよ! 

<
お願い!チカだけじゃ終わんないよう! 

<
も~、じゃあ最初のとこだけだよ。 

<
ほんと!?やったー!

 

87ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:33:59.99ID:r6obDQVR

『編集:内浦中職員一同』と記された冊子をぺらぺらとめくる。 

なるほど、先生方がこんな風に浦の星への進学を後押ししてくれているのね。 

最初は国語。漢字の読み書き、熟語、慣用句、品詞、それに文章読解。 

頭の数ページ、問題の隣には丁寧な字で答えが記入されている。 

筆跡に迷いもなければ、書いて消した跡もない。 

ところが、何ページかめくると、記入はぴたりとなくなった。 

以降、どのページをめくってもメモ書きなんかはあっても答えの記入は全く見当たらない。 

きっと何ページか進めたところで、直接書き込んでしまうと繰り返し復習ができなくなることに気付いたのだろう。 


――ルビィ『えー、そんなことないよ。おねいちゃん結構極端なとことかぬけてるとことかあるもん』 


善子「………ふふっ」

 

88ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:35:00.15ID:r6obDQVR

善子「ねえ、見てみた感じ、そんなに捻った問題もなさそうね。これくらいなら今から準備すれば充分間に合いそう――」 

花丸「善子ちゃん」 

善子「ん?なに?」 

花丸「善子ちゃん、ダイヤさんと面識あったんだっけ?」 

善子「なによ、急に。面識…は、ないけど。こども祭りで挨拶してるのを見たわよ」 

ルビィ「え!よしこちゃん、こども祭りに来てたの!?」 

善子「行ったわよ。そこで千歌さん達と知り合ったの」 

ルビィ「そうだったんだ~。ルビィも行きたかったな~」 

善子「そういえば会わなかったわね。来てなかったの?」 

ルビィ「うん。用事があって行けなかったんだあ…」

 

89ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:36:01.56ID:r6obDQVR

花丸「善子ちゃんは、なんで浦の星に行こうと思ったの?沼津からじゃ毎日の登下校だって楽じゃないよ」 

善子「だから、なんなのよさっきから…別に、なんでって、その……し、心機一転よ!たまたま千歌さん達とも知り合ったし、もういい年齢なんだから自分の進路くらい周りに流されずに決めたいじゃない!登下校だって、そういうもんだと思えば一年くらい平気よ!知らないの?東京とか都会の方じゃ学校とか仕事に行くのに電車で一時間くらい――」 

花丸「決めたのはいつ?最近?」 

善子「だ、から…こども祭りの日よ!千歌さん達と知り合ったからだって言ったばっかりでしょ!」 

花丸「千歌ちゃん達と、ねえ…」 

善子「なに?さっきからなにが言いたいわけ!?言いたいことがあるならハッキリ――」 

花丸 ニヤニヤ… 

善子 ギョッ!?

 

90ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:37:01.69ID:r6obDQVR

花丸「うんうん、そっかそっか。なるほどねえ、そういうことずらか」ウンウン 

善子「は?な、なにが?」 

花丸「なんでもないよ。こども祭りの日に決めたんずらね~。千歌ちゃん『達』と知り合ったから」 

善子「…………っ、ずら丸、あんた…なんか余計なことを…」 

ルビィ「??」 

花丸「さ!お勉強に戻ろっか。一分一秒だって無駄にできないよね、善子ちゃんは絶対浦の星に合格しなくちゃいけないんだから」 

善子「あの、ねえずら丸、なんか意味不明なこと考えてない?私別にそーゆーんじゃないんだから、ねえ」 

ルビィ「なになに?なんの話してるの?」

 

91ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵)2019/06/18() 06:38:01.97ID:r6obDQVR

花丸「ルビィちゃん。もしよかったら、これからもたまに善子ちゃんをお家に呼んであげてほしいずら」 

善子「なっ」 

ルビィ「え?うん!ルビィもよしこちゃんと遊びたいからいっぱい呼ぶ!…あ、でも受験が終わるまではお勉強だよね」 

花丸「お勉強はたまにでいいから、ただお家に呼んであげたらきっと喜ぶよ」 

ルビィ「へ?」 

善子「ずら丸!」 

花丸「忙しかったらルビィちゃんはいなくてもいいずら。でも誰もいないのはまずいから、そうだねえ…例えばダイヤさんがいる日なんかだったらいいかも」 

ルビィ「???」 

善子「ずーらーまーるーーー~~~っっ!!」 


そうして慌ただしく過ぎていった初日。 

ここから苦節の数ヶ月を経て、私は、ずら丸・ルビィと共に無事浦の星女学院へと進学することができたのだった――。 

***