ルビィ「消せない想いの行く末」 5

114ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 19:50:29.63ID:qYFABX5l

うつら、うつら。 

寝ちゃ、いけないのにな… 

ルビィのわがままで練習についてきて、しかも一人だけバテちゃって。 

せめてサポートくらいはしっかりやらなくちゃって思うのに。 

そよそよと風が吹いてきて、おひさまが優しい陽射しを落とす。 

あったかい毛布にくるまれて、誰かのおひざの上で頭を撫でられているようなその感覚に、ゆっくりと意識はまどろみの中に溶けていきます…

 

115ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 19:51:23.35ID:qYFABX5l

ふと、誰かのおっきな声が聞こえた気がしました。 

何度かそれが繰り返されて、ふわふわした夢の中をさまようルビィの耳にはっきりと聞こえたのは、 


――『わたくしはいつだってルビィのことが好きよ!愛していますわ!この気持ちが変わることは、万に一つだって有り得ません!!』 


誰かのそんな声。 

ああ、おっきな声を出すなんて珍しいな。 

でも、なんだかとっても嬉しいことを言われた気持ち。 

ルビィも…ルビィも愛してるよ、お姉ちゃん… 

それから続く誰かと誰かと誰かの会話をぼんやりと聞いていました。

 

116ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 19:54:03.28ID:qYFABX5l

やがて、少しずつ意識がはっきりしてきて。 

お姉ちゃんと、果南さんと、鞠莉さんの声。 

ああ…そっか、ルビィ、お姉ちゃんたちの練習についてきてて… 

いつの間にか寝ちゃってたんだ… 

だめだめ、起きないとね。 

起きて、お姉ちゃんに言わなくっちゃ。 

ルビィも愛してるよ――って。 

えっと、でも、なんでだっけ?…ま、いっか。 

あくびを一つ。 

目をひらいて、大好きなお姉ちゃんの姿が―― 


――果南さんに抱き締められた、お姉ちゃんの…姿、が………?

 

117ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 19:54:40.54ID:qYFABX5l

なに… 

どういうことなの… 

なにして… 

ルビィが寝ちゃってた間に、さあ… 


ルビィ「…………るの」 


果南さんたち、さあ…… 

お姉ちゃんに、さあ……… 


ルビィ「なにしてるの」 


そこで、私の意識はもう一度、今度はぷっつりと、途切れました。 

***

 

118ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 19:57:40.35ID:qYFABX5l

ダイヤ「それでは、行ってきます」 

ルビィ「いってきまーす」 

黒澤母「はい、行ってらっしゃい」 


ガラガラ… パタン 


黒澤母「…」チラッ 


6:50 

……………… 

………

 

119ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 19:58:22.37ID:qYFABX5l

ルビィ「みてー!凛ちゃんかいたの」 

ダイヤ「まあ、上手…ではなくって。教科書に落書きしてはだめでしょう」メッ 

ルビィ「だって授業中なにかしてないと眠くなっちゃうもん」 

ダイヤ「まじめに先生のお話を聞きなさい…」 

ルビィ「おねいちゃんは授業中なにしてるの?」 

ダイヤ「先生のお話を聞いてるに決まってるでしょう」 

ルビィ「お友達とお喋りしたりしないの?」 

ダイヤ「しません。…ああでもたまに鞠莉さんがちょっかいを……」ハッ 

ルビィ「…ふうん。鞠莉さんがね…」 

ダイヤ「…っ」 

……………… 

………

 

120ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 19:59:36.25ID:qYFABX5l

ー浦の星校門前ー 


ルビィ「じゃあ、ここまで」 

ダイヤ「ええ。気を付けて行くのよ」 

ルビィ「うん!」 

ダイヤ「…その、ルビィ。なにも毎日送ってくれなくても」 

ルビィ ニコニコ 

ダイヤ「…っ」 

ダイヤ「…ううん、なんでもないわ」 

ルビィ「じゃあ、いってくるね!」 

ダイヤ「ええ…行ってらっしゃいな」 


トコトコトコ… 


7:35 

***

 

121ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:00:25.51ID:qYFABX5l

ダイヤ カリカリ… 

ダイヤ チラッ 


00:25 


ダイヤ「ルビィ。お姉ちゃん、まだしばらくお勉強終わりそうにないから先に、」 

ルビィ「うん。先に歯磨きしてくるね!」テテテ… 

ダイヤ「…っ」 

……………… 

………

 

122ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:00:53.10ID:qYFABX5l

ルビィ「んゅ…」パチ… 

ダイヤ スースー 

ルビィ「んぇへへへ…」モゾ… スリ 

ルビィ スピー 

***

 

123ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:01:49.05ID:qYFABX5l

友達「黒澤さんまたねー」ノシ 

ダイヤ「ごきげんよう」 

先生「あ、黒澤さん…ちょっとだけ手伝ってほしいことがあるんだけど」 

ダイヤ「はい、わかりました…が、少しだけお待ちいただけますか?」 

先生「? うん、職員室で待ってますね」スタスタ 

ダイヤ『先生からお願い事をされたから、いつもより遅くなるわ。帰る時刻がわかったらまた連絡するわね』スマスマ 

ダイヤ「…よし、職員室に」 


 


ルビィ『ルビィ終わったから、学校までおむかえにいくね』 

ダイヤ「…っ」 

ダイヤ『そう?ありがとう、気を付けて来るのよ』スマスマ 

***

 

124ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:02:49.17ID:qYFABX5l

ガラ 


花丸「ルビィちゃーん」 


シン… 


花丸「…やっぱりいないんだ」 

花丸 トコトコ 

花丸 ウーン… 

花丸 ヒョイ 

花丸『胡蝶の夢』 

花丸 ペラ… 

花丸 モクモク… 

花丸 モクモク… 

花丸 モクモク… 

花丸「…ふう」パタ 

花丸「そっか」 

花丸「図書室って静かな場所で、読書って一人ですることだったな」 

花丸「おら…忘れちゃってたよ…」 

花丸 ペラ… 

***

 

126ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:03:29.99ID:qYFABX5l

黒澤母「あら…お醤油を切らしていましたね」 

ダイヤ「でしたら、わたくしが買ってきましょうか?」トコ… 

黒澤母「よいのですか?」 

ダイヤ「ええ。ちょうどポストに行こうと思っていたところですので」 

黒澤母「…」チラッ 

ダイヤ「…大丈夫です、すぐに戻りますわ」サッ 

黒澤母「それでは、お願いしますね…」ソワソワ 

ダイヤ「はい。行ってきます」タタタ… 

……………… 

………

 

127ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:04:09.14ID:qYFABX5l

ガタ… パタパタパタ… 


黒澤母「っ!」ビクッ 


オネーチャー… 


黒澤母「ぁ…だ、ダイヤさん…」 


オネーチャー… ………

 

128ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:05:22.39ID:qYFABX5l

ダダダダダダダダッッ 


ルビィ「おねいちゃあ!!」 

黒澤母「っ!」ビクッ 

ルビィ「おかあさん!おねいちゃんが…おねいちゃんがいない!」ハァハァ 

黒澤母「だ、ダイヤさんは私のお願いでお醤油を買いに」 

ルビィ「…うそ」 

ルビィ「ルビィを置いて出かけちゃったの…」 

黒澤母「あっ、いえ、私が無理やりにお願いをして、」 

ルビィ「おねいちゃあ!うそ!ルビィ置いてっちゃったなんてイヤだ!うそだ!おねいちゃあ!」 

黒澤母「あああ……ああ…」カタカタ… 

ルビィ「おかあさん!おねいちゃんは?!おねいちゃんはどこに行ったの?!」ガッ 

黒澤母「きゃっ。お、おそらくオーモスまで…」ガタガタ 

ルビィ バッ タタタ… 


黒澤母「~~~~っ、………」ヘナ… 

……………… 

………

 

129ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:07:39.20ID:qYFABX5l

ダイヤ タッタッタッタッタッタッ 


ルビィ「はあっ…はあっ…」タタタタタタ… 


ダイヤ タッタッタッタッタッタッ 


ルビィ「はあっはあっ…はっはっ…」タタタタタタ… 


ダイヤ「…!」 ルビィ「…!」

 

130ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:08:20.03ID:qYFABX5l

ダイヤ「る、ルビィ!」 

ルビィ タタタタタタ… 

ダイヤ「ごめんね!少しお醤油を買いにーー」ガサ 


タタタ… 


ペチン


ダイヤ「…っ」フラ… 


……ドテッ

 

131ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:09:39.57ID:qYFABX5l

ダイヤ「…?」ボーゼン 

ルビィ「はあっ……はあっ……」 

ダイヤ「る、ルビィ…」ジン… 

ルビィ「なんで置いてったの」 

ダイヤ「ご、ごめんなさい…お母さまにお醤油を…」 

ダイヤ「…いえ。ハガキを、出したくて…」 

ルビィ「一人で?」 

ダイヤ「その、ルビィ眠ってたから…」 

ルビィ「起こしてくれたらいいのに」 

ダイヤ「そ、そうよね。次からそうするから、」 

ルビィ「うそなんでしょ」 

ダイヤ「え?」 

ルビィ「果南さんと鞠莉さんと会ってたんだ」 

ダイヤ「ち、ちがっ――」 

ルビィ「だったらなんでルビィのこと置いてくの?!おかしいじゃん!」 

ダイヤ「ご、ごめんなさい…」 

ルビィ「もうやだあっ!やっぱりおねいちゃんはルビィよりあの人たちの方が好きなんだ!」ワァァァァァッ 

ダイヤ「そ…そんなことないわ!お姉ちゃんはあなたのことが一番好きよ!本当よ!」ガバッ ギュッ 

ルビィ「うっ……うう…やだよぉおねいちゃあ……ルビィのこと一人にしないでぇ……ずっとルビィのそばにいてよぉ……」 

ダイヤ「ごめんね……ごめんね、ルビィ…淋しい想いをさせてごめんね………」ギュウッ… 

ルビィ「うわあああ………うわあああああああん………」 

ダイヤ「…………っ」ギュ… 

……………… 

………… 

……

 

132ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:13:16.44ID:qYFABX5l

ダイヤ『――解…散?』 

果南 コク 

ダイヤ『な、なぜですの?!やっと曲も三曲になったし、来月には東京のイベントも控えて…これからではありませんか!』 

果南『…』 

鞠莉『…』 

ダイヤ『果南さん…鞠莉さん…』 

果南『なぜって、言わなくたって…わかるでしょ』 

ダイヤ『……っ』グ… 

鞠莉『勘違いしないで、ダイヤ。私も果南もダイヤを責める気なんかないの…もちろん、ルビィのことも』 

果南『そうだよ。ただ、きっと時期が悪かったんだ。まだ早かったんだよ』 

ダイヤ『そ、んな…こと…』 

ダイヤ『わたくしが、ルビィのことはわたくしがちゃんとどうにかしますから――』 

果南『無理でしょ』 

ダイヤ『っ!』 

鞠莉『今日だって、この時間を作るのがどれだけ大変だったか…お母さまと二人で出掛けるように促すのだって、これから練習のたびに同じことを何回でも繰り返せるわけじゃないわ』 

果南『ルビィはまだ中学生。ルビィには、まだダイヤが必要なんだ』 

ダイヤ『そんな…そんな……』

 

133ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:14:26.57ID:qYFABX5l

果南『きっと、いつかルビィも受け入れてくれる日が来る。また三人で、もしくは四人で…かな。スクールアイドルができるよ』 

ダイヤ『でもっ、スクールアイドルができる時間には限りがあって――』 

鞠莉『ダイヤ!』 

ダイヤ ハッ 

鞠莉『はっきり言わないと、だめ?果南に、私でもいいけど…それを言わせれば納得してくれるの?』 

ダイヤ『…………いいえ、ごめんなさい。わがままを…言いましたわ…』 

果南『…』 

鞠莉『…』 

ダイヤ『…』 


そのとき、たった一言、お二人が…いや、三人が呑み込んだ言葉。 


果南『…じゃあ、私は行くね。ダイヤも早くルビィのとこに行ってあげた方がいいだろうし』 

鞠莉『またね、ダイヤ。学校で』 

ダイヤ『はい………お二人とも、』 


私の夢に付き合ってくださって、 


ダイヤ『……ありがとうございました』ペコ… 

……………… 

………… 

……

 

134ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:15:10.30ID:qYFABX5l

ルビィ「…」テクテク 

ダイヤ「…」テクテク 

ルビィ「…ごめんなさい」 

ダイヤ「!」 

ダイヤ「どうして謝るの?」 

ルビィ「おねいちゃんのこと、たたいちゃった」 

ダイヤ「…あんなの、叩かれたうちに入りませんわ」 

ルビィ「それに、ひどいこともゆっちゃった」 

ダイヤ「いいのよ。わたくしはお姉ちゃんなんだから。怒ったりしませんわ」 

ルビィ「ルビィね、いけないってわかってるんだよ」 

ルビィ「…ほんとだよ」

 

135ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:15:59.17ID:qYFABX5l

ルビィ「いつまでもおねいちゃんに甘えっぱなしじゃいけないってこと。 

ルビィ「おねいちゃんにはおねいちゃんの人生があって、ルビィはいつか絶対に一人で歩いていかなきゃいけないんだってこと。 

ルビィ「でも、ね… 

ルビィ「やっぱりイヤなの…おねいちゃんと離ればなれになりたくないし、いつだって一緒にいたいって思う。 

ルビィ「おねいちゃんと一緒の時間が減っていくたびに、不安になっちゃうの。 

ルビィ「おねいちゃんがルビィから離れていっちゃうって、 

ルビィ「ルビィだけのおねいちゃんじゃなくなっちゃうって。 

ルビィ「そう思ったら、さみしくって、悲しくって、どうしようもなくなっちゃうの。 

ルビィ「だから、ごめんなさい、わがままなのはわかってるけど… 

ルビィ「まだ、ルビィだけのおねいちゃんでいてほしい――」

 

137ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:17:07.55ID:qYFABX5l

ダイヤ「…もちろんよ」 


隣を歩く小さな頭を撫でる。 

洗髪料とパーマで、わずかに硬さを帯びた髪。 

変わらない頭の小ささ。 


ダイヤ「言ったでしょう。わたくしはあなたのことが一番好きよ。その気持ちは、絶対に変わらないんだから」 


俯いて、繋いだ手に弱く確かな力が込められる。 

この小さな頭でどれだけのことを悩み、この小さな手をどれだけ必死に伸ばしていたのだろう。 

この小さな足で、身体で、瞳で、肩で、口で、声で。 

たとえ世界中の誰もが敵に回ったとしても、私だけは絶対にこの手を放さない。 

だから、本当に…本当によかったと思っている。

 

138ぬし ◆z9ftktNqPQ (有限の箱庭)2018/07/27() 20:18:33.80ID:qYFABX5l

あの日、絶望の鐘にも似た宣告を受けて、 


――果南『解散、しよっか』 


形になって見えそうなほどの想いを、果南さんが口にしないでいてくださって。 

鞠莉さんが呑み込んでくださって。 

そして誰より他でもない私自身が、 


――『ルビィがいるから、私たちはスクールアイドルを辞める。』 


残酷な音を吐き出してしまわなくて。 


本当に、よかったと思っているのだ。 

***

 

 

144ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 12:57:16.15ID:TNJpj4r7

それから約二年半後… 


コンコン ガチャ 


「理事長、郵便が届いています」 

鞠莉「thank you. 誰から?」 

「ラブライブ!の主催団体からです」 

鞠莉「wao. 


『浦の星女学院 理事長 小原 鞠莉 様』 


「今回こそ、優勝できるといいですね」 

鞠莉「そうね。みんな一生懸命頑張ってきたんですもの…努力と強い想いは報われるということを、きっと示してほしいわね」 

「それでは、私は失礼いたします」ペコ 


バタン 


鞠莉「…これが、浦の星最後のラブライブ!なのね」 

鞠莉「放課後が待ち遠しいわ」 

……………… 

………

 

145ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 12:58:15.86ID:TNJpj4r7

ー放課後ー 

ダムダム キュッキュッ ワァワァ… 


鞠莉「体育館はいつだって賑やかね。マリィも運動したいな~」 

「あ、理事長。こんにちは!」 

「みんな!理事長だよ!あいさつ!」 

「「「こんにちは!」」」 

鞠莉「hello. みんな元気かしら」ニコッ 

「はい!」 

鞠莉「いいわね、basket ball. 執務が落ち着いたら混ぜてほしいナ♪」 

「ぜひ!」 

「ところで、バスケ部にご用ですか?」 

鞠莉「ううん、今日は違うのよ。奥の――そこの部に」 


『スクールアイドル陪』

 

146ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 12:59:15.07ID:TNJpj4r7

「あ…そうだ。予選、通ったんですよね!」 

「わたし予選の動画ネットで観た!よかったな~」 

「確か本選って来月だよね?」 

「ってことは…」 

鞠莉「bingo. 本選の案内が来たから、スクールアイドル部のみんなに連絡に来たんだよ」 

「「「おお~っ!」」」 

鞠莉「それじゃ、私は行くね。練習の横を失礼っと」ススス… 

「「「お疲れさまでーす!」」」 


鞠莉「ウチの生徒はみんな良いコたちね~。やっぱり leader が良いからかしらね☆」ウンウン 


…トコ 


鞠莉「この部屋に来るのも久し振りね」

 

147ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 13:00:13.93ID:TNJpj4r7

千歌「ここでチカと梨子ちゃんがばーって端っこに移動すればさ、」 

梨子「待ってよ千歌ちゃん。そこほとんど音ないのよ?間に合うの?」 

善子「端まで行くならもともと外側にいる私と曜の方がいいんじゃないの?」 

曜「でも次のサビ前の動きを考えるとねー」 

善子「そっか、クロスしなきゃいけないんだものね…う~ん…」 


ガラッ 


鞠莉「チャオ~☆」 

梨子「理事長!」 

曜「わわっ、こんにちは!」ゞ ビシッ 

善子「その敬礼は正式なポージングなの?」 

千歌「こんにちは、鞠莉ちゃん!」 

鞠莉「熱心に打合せしてるとこ失礼するわね」 

曜「なにかありましたか?」 

鞠莉「うふふ…今日が何日か、お忘れかしら?」スッ 

梨子「あ…その封筒…」 

千歌「本選案内が来る日だーっ!!」 

鞠莉「そのとーり!さ、開封しちゃいましょ♪」ニコッ

 

148ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 13:01:13.14ID:TNJpj4r7

『浦の星女学院スクールアイドル部 Aqours の、第××回ラブライブ!本選への出場を通知いたします。』 


千歌「おお~…っ。チカたち、ほんとに予選を突破しちゃったんだね」 

善子「これを見てやっと実感が湧くってどうなの?」 

梨子「ヨハネちゃんだって、何回も『本当かしら』って言ってたくせに」クスクス 

善子「んにゃあ!言うなー!」 

曜「通知の内容は、ほとんど事前にホームページに載ってた通りだね」 

鞠莉「そうね。この通知の大きな主旨はパフォーマンス順序の連絡だからね」 

千歌「ううう…っ、わくわくしてきた!」 

梨子「千歌ちゃんってば。身体動かしたくて仕方ないーってカオしてる」 

千歌「だって!こんなの一秒だってじっとしてられないよ!ね、みんな!屋上行こうよ!」 

曜「り、理事長に来てもらったばっかりだよ?!それに動きだってまだ決まってないし…」 

鞠莉「マリィのことなら気にしないで。通知を持ってきただけだから。少しだって無駄にできる時間なんかないデショ?」 

千歌「よーっし、それじゃ行くよ!屋上に集合ーっ!」ガラッ タタタタタッ 

梨子「あっ千歌ちゃん?!ちょっと…ラジカセ持っていってよー!」タタタ… 

善子「相変わらず慌ただしい人ね」 

曜「あはは…すみません、理事長」 

鞠莉「ううん。あの power こそが、Aqoursを突き動かしてくれる源でしょ。私も含めた浦の星の全員が、願ってるよ」 

曜「ありがとうございます。それじゃ、行こっか。善子ちゃん」 

善子「ヨハネだってば!」 


タタタ…

 

149ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 13:02:13.47ID:TNJpj4r7

トコトコ… 


鞠莉「さて、執務の続きねー」ンーッ 

鞠莉「…あ」 

ダイヤ「…」ジッ 


――善子ちゃん、飲み物買ってこ! 

――ちょっ突然方向転換しないで! 

ワイワイ… 


ダイヤ フゥ… 

鞠莉「ダーイヤっ」ツン 

ダイヤ「鞠莉さん…」ムニ 

鞠莉「溜め息なんか吐いたら、綺麗なお顔が台無しよ」ツンツン 

ダイヤ「…なぜ頬をつつくのですか」ムニムニ 

鞠莉「ダイヤのほっぺた気持ちいーからね♡」 

ダイヤ「肉付きがよいと言いたいのですか?」 

鞠莉「ンー、マリィとしてはもうちょっと柔らかい方が好きかも!」 

ダイヤ「…ふふっ。なんですか、それは」 

鞠莉「いひひ。やっと笑ったわね」 

ダイヤ「ええ…いけませんわね、生徒会長たるわたくしがこんな風に表情をしかめていては」 

鞠莉「あのコたちが、羨ましいのね」 

ダイヤ「…はい」

 

150ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 13:03:13.29ID:TNJpj4r7

ダイヤ「千歌さんが生徒会室に飛び込んできたのが、つい昨日のことのようです。 

ダイヤ「瞳を爛々と輝かせて一体なにを伝えにきたのかと思ったら、『スクールアイドル部を作りたい』…とは。 

ダイヤ「たまたま鞠莉さんが同席してくださっていなければ、つい激昂してしまっていたかもしれない。あるいは、泣き崩れてしまっていたかもしれませんわ。 

ダイヤ「言い出しこそただの思い付きだったのかもしれない。それでも彼女は、彼女たちは、一つひとつハードルを乗り越えてみせましたね。 

ダイヤ「鞠莉さんがわたくしのことを想って突き付けた『初めてのライブで体育館を満員にしてみせろ』という無理難題をはじめとして、一つひとつ…みんなで力を合わせて、乗り越えてみせてくれましたね。 

ダイヤ「そして、今。 

ダイヤ「廃校決定という、もう乗り越えることが絶対にできないと決まっている壁を前にして、なお、それでもできるだけのことをしてやろうと息巻いている。 

ダイヤ「乗り越えられないなら乗り越えられないなりに、自分たちがやり切ったと誇れるよう、満足できるまで、精いっぱいに。 

ダイヤ「それができる彼女たちが、羨ましい――」

 

151ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 13:04:12.51ID:TNJpj4r7

――おねーちゃー…帰ろー… 


鞠莉「この声…」 

ダイヤ「ああ、待たせていたのでしたね…」 

鞠莉「ダイヤ、」 

ダイヤ「…ねえ、鞠莉さん」 

ダイヤ「わたくしたちは、どうすればよかったのでしょう」 

ダイヤ「大切な人を選び取るために、大切な想いを犠牲にしたのは、間違っていたのでしょうか」 

鞠莉「…」 

ダイヤ「わたくしにはね、もう…わからないの」 


ダイヤ「さようなら、鞠莉さん。また明日」 

鞠莉「…ウン。また明日ね」 


黒髪がふわりと風になびいて、夕陽を返す。

 

152ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/07/28() 13:04:56.35ID:TNJpj4r7

廃校が決定したその年、浦の星女学院にはスクールアイドルが立ち上がった。 

発起人は二年生の高海千歌ちゃん。 

隣を駆けるのは、同じく二年生の渡辺曜ちゃんに、桜内梨子ちゃん。そして一年生の津島善子ちゃんの、計四名。 

私の名前はなく、果南の名前も、ルビィの名前もなく。 

当然に、黒澤ダイヤの名前もない。 


浦の星女学院スクールアイドルAqoursはラブライブ!決勝本選に出場するも敗退、物語は無情にもあっさりと、その幕を閉じた―― 

***