かなりこ、ふたりぐらし。 3

195ぬし ◆z9ftktNqPQ (風靡く断層)2018/08/23() 04:58:57.66ID:ZwSk6q/W

9.一人でできるもん 

トマト、カボチャ、オクラ、ナス、黄パプリカ。 

色とりどりの野菜が並ぶ。 

並ぶ、なんて他人事みたいに言って、並べたのは私だけれど。 

張り切って出掛けていった果南さんのために、美味しい夏野菜カレーを作りましょう。

 

196ぬし ◆z9ftktNqPQ (風靡く断層)2018/08/23() 04:59:58.00ID:ZwSk6q/W

塩茹でして氷水に晒しておいたオクラと、気持ち大きめに切った野菜。 

果南さんは一口が大きいから、ごろごろ具が好きなのよね。 

オリーブオイルで挽き肉と野菜を炒めます――このとき、オクラは炒めないのがポイントですよ。 

水を加えてオクラを入れて、野菜が柔らかくなるまで煮る。 

これも、果南さんは柔らかすぎると残念そうなカオをすることを知っているから、少しだけ硬いうちに切り上げて。 

ルーは市販の中辛。 

辛味の物足りなさは、お皿によそってから香辛料で。 

とは言っても、果南さんも私もそんなに辛いのに強いわけじゃないから、少しだけどね。 

あとは食べる前にトッピング用の野菜を炒めれば、完成。 


梨子 ペロ 

梨子「…うん!果南さん好みの味ね」 


自信を持てることが、とっても嬉しく、誇らしく。 

あなたの帰りを待つ時間は、どうしてこんなにも心が躍るのでしょう。 


9.(二人のためなら)一人でできるもん 終

 

197ぬし ◆z9ftktNqPQ (風靡く断層)2018/08/23() 05:01:00.51ID:ZwSk6q/W

9.闘いの日 

ザッ 


果南「…ここだね」 


時は来た。 

梨子に地図を描いてもらったし、一時間の余裕を持って家を出たから、会場には難なく到着できた。 

水筒も持たせてもらったし、シャーペンを六本、消しゴムを八つ、電卓は百均で五つ買ってもらった。 

絆創膏も目薬も、保険証のコピーも携帯の簡易充電器も持ってきた。 

後ろ髪はお団子結びだし、きっと梨子が美味しいものを作って待ってくれてる。 

鞄はパンパン。 

だけど、そのおかげで。 


果南「心配事は一つもないね」 


いざ行こう。 


簿記検定試験に―――― 

………………

………

 

198ぬし ◆z9ftktNqPQ (風靡く断層)2018/08/23() 05:02:36.32ID:ZwSk6q/W

試験官「では、はじめ」 


バッ カリカリカリカリ カタカタカタ 


試験官 コツ、コツ、コツ… 

試験官 (みんなまじめにやっていますね…ん?

果南 トン…  トン…  トン… 

試験官 (ええーーーーーっ!!机に電卓めっちゃ並んでるーーーーーーーーっ!!

試験官 (しかも電卓のキーを見ながら人差し指で一つひとつ確実丁寧に打鍵してる!!

試験官 (悪いことはない。悪いことは全くないよ。不正をしているわけでもなければ、諦めているわけでもない。試験に向かう姿勢は真剣そのもの、それは目を見ればよく分かります

試験官 (でも…

果南 トン…  トン…  トン… 

試験官 (打つの遅っそーーーーーーっ!!

試験官 (だ、大丈夫なのかな…間に合うのかな…) ハラハラ 

試験官 (まだ大問1番だし…見た感じ理解して解けてはいるみたいだけど、ペースが…) ハラハラ

 

199ぬし ◆z9ftktNqPQ (風靡く断層)2018/08/23() 05:03:35.91ID:ZwSk6q/W

果南 トン…  トン…  トン… 

試験官 ハラハラ 

果南 トン…  トン…  トン… 

試験官 ハラハラ 

果南 トン…  カリ… カリカリカリ 

試験官 ホッ… 

果南 カリカリ… トン…  トン… 

試験官 ハラハラハラハラ 

果南 カリカリ 

試験官 ホッ 

果南 トン… 

試験官 ハラハラ 


受験生ズ (((なんであの人ずっとあそこにいんの?))) 

果南 (なんでこの人ずっとここにいるんだろう

試験官 ハラハラ… 

………………

………

 

200ぬし ◆z9ftktNqPQ (風靡く断層)2018/08/23() 05:05:22.70ID:ZwSk6q/W

果南「いただきまーす」 

梨子「いただきます」 

かなりこ モグ 

果南「美味しい!」 

梨子「うん。美味しいですね」 

果南「何杯でも食べれちゃうね~。頑張ったかいがあったよ」モグモグ 

梨子「手応えはどうでしたか?」 

果南「まあまあ解けたと思うよ。でも、時間足んなくってさ、最後の問題は全部終わんなかった」 

梨子「そっか。合格してるといいんですけど…」 

果南「ま、大丈夫でしょ!」 

梨子「ふふ…そうですね。たくさん勉強しましたもんね」 

果南「そんなことよりカレー美味しいよ!野菜大っきくて食べごたえあるしちょうどいい!」モグモグ 

梨子「そんなことって」 


呆れたように笑って、お代わりたくさんあるからね、と微笑む。 

梨子がいるから毎日を頑張れる。 

願わくば、その期待に応えられていますように。 


9.闘いの日(内心は意外とキてる) 終

 

204ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:07:30.20ID:bmZcf3ob

10.デキる女 

トントン、と低めのヒールを鳴らす音。 


梨子「じゃあ、私は先に出ますね」 

果南「うん。また後で」 

梨子「遅れたら拗ねますから」 

果南「さすがに遅れないよ」 

梨子「ほんとかな~」 


ほんの少し首をかしげる仕草に、思わずドキッとしてしまう。 

いや、いや、梨子だし。いつも通りの梨子だし、うん。 

昨日から梨子が何回も繰り返すから意識しちゃっただけだよ。 

ゆっくりとドアが閉まって、部屋の中で一人になる。 


果南「…よし。準備、準備」 


今日は梨子と久し振りのデートだ。

 

205ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:09:00.05ID:bmZcf3ob

と、意気込んでみたのはいいんだけど。 


果南「デートの準備ってなにするんだっけ」 


梨子相手にばっちり化粧していくってのも違うしなあ。 

なんか照れ臭いし、今さらだし。 

髪型もいつもと同じでいいよね。 

あんまり気合い入れてるようになるのも変だし。 

部屋着で行くのがまずいことはさすがの私にもわかるから、服はあれにすればいいとして。 

スマホと、財布と、ハンカチ…くらいなら、バッグもなくていいか、うん。邪魔になるし。 


果南「コンタクト入れよ」 


…と立ち上がったところで着信アリ。表示された名前は 

『チカ』 

お?珍しいね。

 

206ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:10:10.51ID:bmZcf3ob

果南「はいはーい。どした?」 

千歌『やっほー果南ちゃん。どうしてるかなーって』 

果南「ふふふ…実はね、今から梨子とデートなんだ。その準備してるとこだよ」 

千歌『うんうん、そっかそっか。どう準備してるの?』 

果南「どうって、コンタクト入れるよ。あと服も着替える」 

千歌『持ち物は?』 

果南「スマホと財布。あとハンカチ」 

千歌『バッグは?』 

果南「ほとんど持ってくものないからね、持ってかないことにするんだ」 

千歌『髪型はどうするの?』 

果南「そのままじゃ暑いからさ、お団子にするつもり」 

千歌『お化粧はどのくらい?』 

果南「まあ、それなりに。リップくらいは塗っていくよ」 

千歌『そっか~』 

果南「あはは。なに、どうしたの?やけに気にするじゃん。あ、わかった。チカも梨子に会いたいんでしょ。でも今日はだめだよ、梨子ってば二人っきりでデートするの久し振りだって随分はしゃいでたんだから」 

千歌『…』 

果南「チカ?そう拗ねないでさ、来月の三連休にでも一緒に、」 

千歌『果南ちゃんのばかーーーー~~~~っっっっ!!!!』 

果南「………っ?!」キーーーン

 

207ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:11:16.17ID:bmZcf3ob

果南「ちょ…いきなり電話口で大声出すのやめてよ…」 

千歌『そんなのどーでもいいから!』 

果南「どうでもよくないよ。鼓膜って破れたら元に」 

千歌『聞いて果南ちゃん!』 

果南「…なに?」 

千歌『梨子ちゃんとデートなんだよね?しかも久し振りの』 

果南「そ、そうだよ。一緒に住んじゃうとさ、なんかこうわざわざ『デートだ』って出掛けることってあんまりなくって、」 

千歌『それなのに髪型はいつもと同じなの?』 

果南「え?それはまあ、」 

千歌『お化粧もしないの?手ぶらなの?』 

果南「いや手ぶらっていうか、スマホと財布と」 

千歌『バッグ持たないんでしょ』 

果南「まあ、うん」 

千歌『それは手ぶらって言うんだよ』

 

208ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:12:18.84ID:bmZcf3ob

千歌『服は?どんなので行くつもり?』 

果南「あのほら、覚えてるかな。去年の夏、同窓会やったじゃん、九人で。あのときと大体おんなじ感じだよ。あれなら外に着てっても変じゃないでしょ?」 

千歌『………』 

千歌『…はあ……果南ちゃん…』 

果南「い、嫌な声を出すのもやめてよ…」 

千歌『いい?よく聞いて』 

果南「聞いてるよ」 

千歌『今日ね、果南ちゃんは梨子ちゃんとデートなの。恋人同士の大切な日なの。それは決して適当にしていいものじゃないんだよ』 

果南「適当になんかするつもりないよ」 

千歌『うん、そうだね。そうだよね。果南ちゃんにとってはそうなのかもしれない。でもね、こういうのは相手がどう感じるかが大事なんだよ』 

果南「梨子が?」 

千歌『そう、梨子ちゃんが。久し振りのデートにいつも通りの果南ちゃんが来たら、どう思うかな』 

果南「どう…思うのかな?」

 

209ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:13:58.82ID:bmZcf3ob

千歌『いつも通りの髪型で、いつも通り手ぶらで、いつも通りスッピンに近くて、同窓会に行く格好で、果南ちゃんが来たら。どう思うかな』 

果南「…」 

千歌『これでもまだわかんないなら、思い出して。今日の梨子ちゃんどうだった?髪型は?持ち物は?お化粧は?服装は?一個でも、いつも通りのとこ…あった?』 

果南「!」ハッ 

果南「…えっと、」 

千歌『そういうことなんだよ、果南ちゃん』 

千歌『デートってそういうものなの。わかるよ、いつも一緒にいる相手にわざわざお化粧をするのが恥ずかしいのも、気合いを入れて髪型とか服装とか考えるのが照れ臭いのも』 

千歌『でもね、そうじゃないんだよ。今日はデートなんだから』 

果南「…そっか。ありがとう、チカ。危うく私、梨子のこと悲しませちゃうところだったね」 

千歌『梨子ちゃんのことだから、それも果南ちゃんらしいって笑ってくれると思う。でも、それに甘えちゃいけないってチカは思うな』 

果南「そうだよね、私もそう思う。ただでさえ梨子には普段から色んなことでお世話になってるんだもん。ちょっと照れ臭いけど――めいっぱいおしゃれして、めいっぱい恋人らしくしてくるよ」 

千歌『うん!応援してるよ』 

果南「へへ…チカには助けられてばっかりだね。…あ、でもどうしよう…凝った髪型っていつも梨子とかチカにやってもらってたから、自分じゃできないんだよね…美容室に行ってたら遅くなっちゃうし…」 

千歌『あー、それなら大丈夫だよ。そうかなって思ってたから』 

果南「へ?」 


ピンポーン 


千歌『着いたから、開けて』 

果南「……へ???」 


∬∬∬10.デキる女(その名も高海千歌) 終

 

210ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:15:33.48ID:bmZcf3ob

10.あと10分、開始10 

今日は果南さんとデートです。 

一ヶ月前から約束して、どこに行くか話し合って、ずっとずっと楽しみにしてきたの。 

一緒に住むようになってから、傍にいられる時間はうんと増えた。 

でもその代わりに、減った時間もある。 

それはそれで一つの形なんだって分かっているけれど、でも、やっぱりふと昔みたいな時間を過ごしたくなるときもあって。 

面倒くさがられちゃうかなって思ったけど、勇気を出して誘ってみた。 

そんな心配はよそに『いいよ、どこ行こっか』なんて即答してくれて嬉しかったりして、でもそれはゆっくり話し合って考えればいいやって、一つだけ…どうしても。 

あのね、デートするならね、 


――梨子『待ち合わせ、したいの』 


一瞬きょとんとしたのはもう完全に想定内のことで、続く言葉も予想はできていた。 

けれど。 


――果南『梨子がしたいなら、待ち合わせしよ』 


呑み込んでくれたのでしょう。 

疑問符付きの笑顔が、とってもとっても愛おしかったの。 

………………

………

 

211ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:16:37.07ID:bmZcf3ob

カラン、コロン 


私はSNSをやっていない。 

正確にはアカウントは持っているけれど、ほとんど更新しない。 

取り立ててみんなに話して聞かせるような日常を送っているわけじゃないし、もうそういう年齢じゃないし…と思う気持ちもあるから。 

でもね、たまに――本当にすごくたまに、誰かに話したくって仕方なくなるときがある。 

例えば、 


店員「お待たせしました」 


なんの変哲もないウインナーコーヒーを撮って、千歌ちゃんに送る。 

今も昔も、形は違っても一番の親友。 

今のこの気持ちだって、自分のことのように受け入れてくれるって知っているから。 


『画像を送信しました』 

『あと30分。なう』 


待ち遠しくって、懐かしい。 

………………

………

 

212ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:18:00.66ID:bmZcf3ob

ほろ苦い口を、リップクリームで上書きする。 


梨子「――よし。ばっちり」 


腕時計に目を落とせば、もう10分前に迫っていて。 

想像していた以上に高鳴る胸に、自分でもやや驚いてしまう。 

すっかり馴染んでしまった町の風景に連れられて、待ち合わせの駅へと歩く。 

果南さんはどんな気持ちで来るかな。 

服も、髪も、きっといつもと同じか、変わっても少しだと思うけれど。 

そんなのはね、いいの。わかってるから。 

それよりも、今日という一日に臨む気持ちが、私と同じでありますように。 

どきどき?わくわく?それともうきうきかな。 

こんな言葉を使うと幼稚に聞こえてしまうけれど、でも、それくらい素直な感情。 

手を繋いで、並んで歩いて、そして隣で笑っていて。

 

213ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:19:15.04ID:bmZcf3ob

ふと、スマートフォンがメッセージの受信を告げる。 


千歌『素敵な一日になるといいね』 

梨子「今日は返信が遅かったね。寝てたのかな」 


ありがとう、と返そうとして。 

両手を添えたその瞬間に。 


梨子「きゃ」 


足元につまずいて、スマートフォンを落としそうになって、慌てて受け止めて、そして――……… 


梨子「あっ!」 


肩に流していたストールがふわりと風に乗って、まっすぐに。 

そのまま川面へと浮いてしまった。

 

214ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:22:54.43ID:bmZcf3ob

梨子「そ…そんなあっ」 


川辺に駆け寄るも、だからと言ってどうなるわけでもなく。 

水は流れるし、秒針は止まらない。 


梨子「だめ、あ、ちょっと…待って…」 


服を着ていると泳ぐ感覚は全く違うんだっけ。 

ここから駅まであと何分掛かるかな。 

駅前の服屋さんまだ開いてないよね。 

夏なら川ってそんなに冷たくないのかな。 

あそこの石に引っ掛かれば渡って取れるかも。 

ちがくて、果南さん待たせちゃう。 

汗かいちゃうから走りたくなかったけど仕方ないから。 

えっと、だから、私、今、どうしたら―― 


ふらりと踏み出した肩が、くいっと寄せられる。 


果南「濡れちゃうから」 


大好きな声、颯爽と駆ける青髪と、控えめの水しぶき。 

………………

………

 

215ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:24:51.01ID:bmZcf3ob

梨子「果南さんっ!」 


遥か遠くで陸に上がった果南さんのもとへと駆け寄る。 

その腕には私のストールがしっかりと抱きかかえられていて、だから泳ぐのに手間取ったんだ―― 


梨子「果南さん!果南さん、平気ですか?!」 

果南「…」 

梨子「果南さん!」 


呼ぶ声に反応がなかったのはほんの束の間で、びっくりしてしまうほどの勢いで笑顔が向けられる。 


果南「間に合ってよかった」 

梨子「…よ、」

 

216ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:25:36.93ID:bmZcf3ob

梨子「よくないですも~~~んっ!うわああああん……」 

果南「え、ちょっと梨子、なんで泣くのさ」 

梨子「果南さんのばかあ~~~っ」 

果南「でもこれ取れたし、びしょびしょだけど、梨子は濡れてないし、ねえ、泣かないでよ」 

梨子「わあああああん…」ギュ 

果南「ちょ梨子くっついたら濡れるから!」 

梨子「いいもん私も濡れるもん~~~っ」ビエエエッ 

果南「意味わかんないし!意味ないじゃん!ほら離れてってば…」 

梨子「やだもう今日はここで過ごすの~~~っ」ワンワン 

果南「や、だから意味が…」 

梨子「ああああ~~~~~んっ」ウエエン… 

……………… 

………

 

217ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:26:43.22ID:bmZcf3ob

果南「落ち着いた?」 

梨子「うん」グス 

果南「結局梨子も濡れちゃったじゃん」 

梨子「果南さんほどじゃないもん」 

果南「まあね。そりゃそうだけど。これも濡れちゃったしね」 

梨子「そんなのいいですよ。洗って乾かせばいいんだから」 

果南「一旦帰ろっか」 

梨子「…ううん、このままデートしましょう」 

果南「は?!本気?!」 

梨子「本気です。行きましょ」グイ 

果南「や、でも私たちびしょびしょなんだよ?!」 

梨子「いいの!これだけお天気いいんだから歩いてるうちに乾きますよ!」 

果南「そ、そういう問題かなあ…」

 

218ぬし ◆z9ftktNqPQ (帝国中央都市)2018/08/23() 08:27:43.01ID:bmZcf3ob

梨子「果南さん、その髪型似合ってますよ。服も可愛い」 

果南「うえ?!や、まあ、ほら、デートだし、一応。こんなんなっちゃったけどね…」ビショ 

梨子「編み込みなんてできたんですね」 

果南「あみこみ?」 

梨子「その髪型ですよ」 

果南「あー…これね、うん。通りすがりの美容師にやってもらったんだ」 

梨子「えー、なんですか。それ」 

果南「梨子も可愛いよ。今日も可愛い」 

梨子「えへへ…気合い入れましたからね」 

果南「それより、これで美術館行くの?遊覧船先にしない?」 

梨子「だーめ。プラン決めたじゃないですか」 

果南「そう頑なに守る必要あるかなあ」 

梨子「そういうものなんですよ」 

果南「そういうものなのか~」 


一歩、一歩。ぐしょりぐしょりと音を立てながら、足跡は並んで刻まれていく。 

私たちのデートは、始まったばかりです。 


10.あと10分、開始10(それと充分な幸せ。あ、これは10分と充分をかけた――) 終