1名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:36:53.16ID:YLJ37Jp/
占占占
果南「いや~、まさか希が代表に選ばれるとはね~」
希「たまたまやって」
果南「今年は私だと思ってたんだけどなあ」
にこ「あんた何回同じ話すんのよ…演舞の指導補佐やるんでしょーが。それで満足しなさいよ」
果南「そうだけどさー。全然違うじゃん」
にこ「ってか、そんなにやりたい?あれ」
果南「そりゃやりたいよ。目立つしさ。でもま、希ならいいや」
にこ「私は目立つからこそあんなのやりたくないけどね」
果南「にこは選ばれないよ。舞台に立っても遠くから見えないじゃん」アハハ
にこ「ぬぁんですって?!あんたなんかどう可愛く化粧したって男じゃないのよ!」ガタッ
果南「お、やるかー?」ガタッ
希「二人とも。喧嘩するなら静かにやらないかんよ」
2名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:37:44.31ID:YLJ37Jp/
にこ「………」
果南「………ぷっ」
にこ「ふふっ、あはははっ」
希「どうしたん?」
果南「あはは…もう、相変わらず面白いなあ希は」
にこ「ふふ…喧嘩するなら静かに、ね。止めなさいっての」ペシ
希「え、ああ、そういうもの?喧嘩って止めるべきもの?」
にこ「あんたは本さえ読めればいいんでしょうけどね」
果南「なんだっけ、いつも持ってるよね、その本。見せて」
希『棘人とネコ』スッ
果南「『とげじんとネコ』。面白いの?」
希「面白いっていうか、まあ。あと『しじん』やよ」
果南「うそ?!ずっと『とげじん』だと思ってた!」アハハ
にこ「この村にいて『棘人』が読めないのも、その本を読んだことないのも、あんたくらいのもんよ」
果南「そんなことないでしょー。はい」スッ
希「ありがとさん」
3名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:38:19.77ID:YLJ37Jp/
にこ「ま、逆にその本がそこまで好きなのも、それはそれであんたくらいのもんでしょーけどね」
果南「も~。少しは私たちのことも気にしてほしいもんだよ」
希「気にはしてるで?でも二人が本気でやり合わんこともわかってるしな」
にこ「そりゃそうよ。こいつに本気でやられたら一瞬でおじゃんだもの。このか弱いにこにーが」
果南「か弱いぃ?ぷぷーっ、『おにこ』がよく言うよ!」
にこ「あ!果南!それ言うのやめなさいよね!!」
カタン カタン
にこ「………」
希「………」
果南「………誰かいるのかな?」
にこ「…さあ。覗いてみりゃ済む話でしょ」
希「え?!ええんかな」
にこ「自分の学舎でなに遠慮することがあんのよ。へーきよ」
果南「ほらほら、希も希も」オイデオイデ
希「ええ?!うん…」
………………
………
4名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:39:03.48ID:YLJ37Jp/
スゥ、と果南がふすまを引く。
通う学舎の、その廊下。
窓にもたれるように陽を浴びて、右の腕は気だるげにたらりと垂らされ。
物憂げな瞳はどこか虚空を見詰めるようで。
長い睫毛が伏せられ、そして、再び持ち上げられ、こちらを――
スパンッ!
果南「…やば、目合ったかも」
にこ「目は合ったか知んないけど。こんなに勢いよく閉めちゃ、見てたのはバレたわね」
果南「まあ、別に悪いことしてたわけじゃないし…平気だよね」
にこ「へーきよ。それより、アレ…あの人よね?希」
希「う、うん…せやね…」
――いくらか美人だけど、あれならにことは比べるまでもないわね。
――そうだね。髪は二人とも黒いけど、背も高くて美人で胸もある。にことは比べるまでもないね。
――あんたやっぱ喧嘩売ってんでしょォ?!
――お、やるか~?
この村にいて、その名を、その存在を、知らない人はいない。
私たちなんか、同じ学舎に通っているのに。
それなのに、こんなにも近くでその姿を見たのは、初めてだというような気がした。
黒澤ダイヤ。
黒髪だって陽光に煌めくのだと、私はこのとき初めて知った――。
占占占
5名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:39:41.92ID:YLJ37Jp/
黒澤邸。
村民にその名で呼ばれる、文字通り黒澤家の屋敷。
長大な母屋といくつもの離れを有し、村の祀り事や婚礼の場として活用されることも多い。
そんな黒澤邸の一室に、私はいた。
希「……………っ」
ダイヤ「…」
南「これからダイヤさんと希さんにやっていただくのは、かつてこの村で争っていた棘人と人が交わした融和の契りを忘れないための儀式です」
黒澤ダイヤと向かい合って座り、脇には南さん。
私の一つ下、十七歳になる娘を持つ母でありながら、祭事の執行人や立会人として名高い村の重鎮。
日頃は穏和でよくしてくれる方だけれど、責務を負う場にあっては雰囲気を一変させる。
6名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:40:16.50ID:YLJ37Jp/
南「明日より一ヶ月間の稽古を経て、本番は村祭りの日です。よいですか?」
ダイヤ「…」コク
希「は、はい」コク
礼装に身を包み、厳格な面持ちと声音。
私も形だけそれらしい格好をしてはいるものの、『本物』に近い二人を前にしては、なんの助けにもならないようだ。
南「希さん。そう緊張しなくても結構ですよ。今日は顔合わせだけだから」ニコッ
希「はい…」
南「よろしい。では、誓いの握り手を」
にぎりて。
握り手?
ああ、握手のことか。
7名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:40:51.14ID:YLJ37Jp/
この顔合わせから始まる儀の一連の流れなんて、毎年のように教わるのに。
自分がそれに関わるなんて…いや、中心になるなんて考えたこともなかったものだから、頭の中はほとんど真っ白だ。
試験の点だけ取れても、こんなところで不勉強を痛感させられる。
す、と。
白く細い手が差し出される。
黒澤ダイヤ――棘人の、右の手。
覚えず喉が鳴る。
ちらりと覗き見るも、瞳は伏せられ、一切の表情が窺えない。
それなら、怖がることはない。
南さんもいる。
なにも起こらない。
大丈夫、大丈夫。
握手を交わして、「明日からよろしく」と、それだけ。
いやに汗ばむ手のひらを裾にこすり付ける。
8名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:41:26.48ID:YLJ37Jp/
骨が錆び付いたかのように重く軋む右手を持ち上げて、伸ばされた白い手を――
す、と。
希「…え?」
音もなく、握るべき手が下げられ。
純白の足袋と、紅の裾。
ぽかんと見上げる私と、感情なく下される翠緑の瞳。
人差し指は口元のほくろをかしかしと撫でて。
南「ダイヤさん?!こら、戻りなさい!」
脇を抜ける足取りを追うこともできずに。
かすかな福寿草の香りが掻き消えた。
占占占
9名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:41:58.73ID:YLJ37Jp/
◇◇◇
穂乃果 海未ちゃん、どう?
海未 ええ、そうですね…全体の構想くらいはできました。後は細部の設定を詰めれば、なんとか形になると思います。
千歌 さっすが海未ちゃん!だね!
海未 脚本に起こすときには頼りにしていますよ、千歌。
千歌 チカは海未ちゃんほどの文才もないし、頭もよくないけど…でも、できるだけのお手伝いはするからね。
海未 ふふ…ありがとうございます。
ガラガラ
曜 お~い、海未ちゃん!
海未 おや、曜。それにことりも。どうしましたか?
穂乃果 あ!もしかして!
曜 おっ、穂乃果ちゃんはやっぱり察しがいいな~。
千歌 なになに?どしたの?
曜 じゃじゃーん!衣装案ができました~っ!
千歌、穂乃果、海未 おおーーーーっ!
10名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:42:33.40ID:YLJ37Jp/
曜 世界観に合いそうな感じで、ざっくりだけどね。
ことり 物語が固まってきたら、場面に応じて新しく描き起こすし、この衣装案も調整するからね。
曜 ひとまずはイメージってことで!
穂乃果 すごいすごい!さっすがことりちゃんたち!
千歌 うわー!どれもかわいー!あっ、チカこれ着たい!
海未 …うん、なるほど。この衣装で、私の中でもより具体的に世界観が固まりました。筆を進められそうです。
ことり ほんと?よかったあ。
穂乃果 ねえねえ海未ちゃん、穂乃果にはなにか手伝えることある?
海未 そうですね…ああ。それでは、穂乃果にしか頼めないことをお願いしましょう。
穂乃果 穂乃果にしかできないこと?!やるやるっ!なに?!
海未 ある意味では最も大切な役割ですからね、しっかりお願いしますよ。
穂乃果 うん!
◇◇◇
11名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:43:05.20ID:YLJ37Jp/
◆◆◆
『棘人とネコ』
『一人の少女がいました』
『少女は小さな村に住み、まじめで、よく働きます』
『ある日は野菜を売り歩き、ある日は牛小屋を掃除し、ある日は木を伐ります』
『少女は心根優しく、礼儀正しく振る舞います』
『目上の者を敬う心を持ち、幼い者に譲ることをためらわず、誰よりも早く起き、朝を報せる鐘を打ちます』
『しかし』
『村の中に、少女が売る野菜を買う者はいません』
『少女が牛小屋を掃除しようと、木を伐ろうと、礼を言う者はいません』
『一人もいません』
『なぜなら少女は、棘人だからです』
◆◆◆
12名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:43:37.67ID:YLJ37Jp/
c V V V
園田「海未さん」
園田「海未さん。稽古は、一時仕舞いです」
海未「…母上」
稽古の時に母が私を訪ねることは珍しい。
園田「南さんが見えています。客間まで来なさい」
海未「はい」
母はそれだけ告げ、稽古場を後にした。
南さんが?
家柄、訪ねてこられること自体はそう珍しいことではないけれど。
稽古を中断して私が同席すべき用件とは、果たして。
手拭いで汗を拭き、胴着の襟を正した。
………………
………
14名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:44:09.51ID:YLJ37Jp/
南「急にごめんなさい、海未ちゃん。お稽古の途中だって知ってたら、もう少し遅くに来たんだけど」
海未「いえ。それゆえ、このような格好で失礼いたします」
園田「着替えてこなかったのですか、海未さん」
海未「…その時間を頂いてもよかったのですか」
有無を言わせぬ剣幕に従ったのだ、とは。
まさか言うわけにいかない。
けれど南さんの表情を窺うに、どうやらその辺りは汲んでくださっているようだ。
問答はやめにして、母の隣に腰を下ろす。
園田「今日はこの子を、とのことですが」
南「ええ。少しね、話をしておこうと思って……」
15名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:44:47.70ID:YLJ37Jp/
園田「…なにか?」
どこか落ち着かない様子で障子を振り返る南さんに、母が訊ねる。
そこで、私ははたと気付く。
脇に敷かれたもう二つの座布団に。
南「勝手ながら、彼女も呼んでいるのよ」
園田「彼女?」
南「そろそろ来ると思うんだけど」
と。
その言葉を待っていたかのように、障子の向こうが慌ただしくなる。
ああ、この足音は。
??「もー、付き添わなくていいってばー」ドタドタ
使用人「そういうわけにはまいりません。あくまでも客人なのですから」
??「堅っ苦しいわねー、相変わらず。そんなんだからこの村はいつまで経っても縮こまったまんまなのよ」ドタドタ
使用人「それは奥様にお申し付けください」
??「はいはい、ここでしょ!もういいわよ、送り届けてくれてアリガト!」ドタドタ
使用人「奥様。失礼いたします」
園田「構いませんよ」
16名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:45:26.11ID:YLJ37Jp/
スパーーーン、と。
不躾なまでの勢いでひらかれた障子に、しかし驚く者はこの場にいない。
役目を奪われたのであろう使用の者すら、慣れた様子で控えている。
鞠莉「ハァイ!園田さん、南さん。遅くなったわね。…あら珍しい、海未も一緒なのね!」
ツバサ「…」
現れたのは、案の定。
小原鞠莉と、その付き人綺羅ツバサの二名。
園田の家で、また園田家当主を前に、こんな風に振る舞うことができるのは、この村においては彼女くらいのものだ。
園田「いつまで桟を踏んでいるつもりですか。早くお入りなさい」
………………
………
17名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:46:07.28ID:YLJ37Jp/
南「来てくれないかと思ったわ」
鞠莉「まさか!私まで来られないようじゃ、代理に立ってる意味が nothing じゃない」
南「ふふ…それもそうね」
園田「歓談は後ほど。人が揃ったのなら、先に用件を」
鞠莉「海未、久し振りね!いくつになったの?」
海未「あ、えっと、十七です……ご自分の年齢からわかるでしょう」
鞠莉「もー。アイサツよ、アイサツ!母親に似てカチンコチンねー」
海未「は、はは…」チラッ
園田「………」
海未 (勘弁してください…)
園田「…あいさつは終わりましたか。それなら早く話を」
鞠莉「ほーら、貴女もあいさつくらいなさい!」バシバシ
ツバサ「…綺羅ツバサです」ペコ
南「ツバサちゃん。鞠莉に似て、美人に育ったわね」
ツバサ「……」// プイッ
鞠莉「毎日おんなじもの食べておんなじ生活してるからね!この子はマリィと言っても過言じゃないわ!」
海未 (それは過言でしょう)
鞠莉「愛想のない子で悪いわね。人見知りが治らなくて」
南「大丈夫よ。昔からの馴染みですもの。ねっ」
ツバサ「…」コク
18名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:46:40.88ID:YLJ37Jp/
園田「………ハァ」
海未「!」ビクッ
海未「よ、よければそろそろお話を伺いたいのですが…」
南「ああ、そうね。遊びにきたわけじゃなかったわ。若い子たちに囲まれると、どうしてもね」
園田「……鞠莉さんは、当主としていらしたのですね」
鞠莉「そういう風に呼ばれたわね」
海未 (小原家当主と、園田家当主を)
海未 (私が同席させられた理由は置くとして…それならば)
決して小さくない四面の卓に着き、しかし、囲むは三方のみ。
空いたひと席は、埋まらないのだろう。
南「今年の『棘刀式(しとうしき)』について、話をしにきたの」
c V V V
19名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:47:23.34ID:YLJ37Jp/
>< >< ><
ガラリ
南「ダイヤさん」
ダイヤ「一声もなしに開けるとは、些か無礼が過ぎませんか」
南「今日も稽古に来なかったわね」
ダイヤ「腹痛がひどくて。行けませんでしたわ」
南「嘘を言いなさい!」
ダイヤ「…人の家でよくもそんな大声を、」
南「あなたには責任があるんですよ!棘刀式がこの村にとってどれほど大切なものであるか、知らないわけじゃないでしょう!」
ダイヤ「わかりませんわ」
南「…なにがです」
ダイヤ「それほどまでに重きとして扱うこの儀式に、果たしてどれだけの意味があるのか。私にはわかりませんわ」
南「意味…ですって?」
ダイヤ「棘人と、人が、融和を?ふふ…たいそうな絵空事に躍起になるのですね」
南「ダイヤさん!!」
ダイヤ「………」
南「黒澤家の長女でありながら、あなたがそんなことを言うんじゃありません!」
ダイヤ「お小言は結構ですわ。お稽古もね。あの程度、今さら稽古をするまでもない」
スッ スタスタスタ…
南「ダイヤさん!…もうっ!」
>< >< ><
20名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:48:07.75ID:YLJ37Jp/
◇◇◇
女生徒 ねえ、なんか下の子が呼んでるよ。
希 ほんま?ありがと。
トコトコ
希 ね。
穂乃果 うわっ!
希 うちに用があるのって、あなた?
穂乃果 あ…は、はいっ。二年生の高坂穂乃果っていいます!
希 穂乃果ちゃんね。どうしたの?
穂乃果 あの…お願い事があって来たんです。
希 ああ。わざわざ来てくれたん?あ、それとも投書用の紙が切れとったんかな。
穂乃果 あ、そうじゃなくて。生徒会に用があるんじゃないんです。
希 ほ?そうなん?
穂乃果 はい。希先輩に…希先輩たちに、お願い事があって。
希 うちら…?
穂乃果 えっと…希先輩と、果南先輩と、にこ先輩と、鞠莉先輩と、ツバサ先輩、それに絵里先輩と、聖良先輩と、あんじゅ先輩、英玲奈先輩と、あと…ダイヤ先輩に。
希 ……?話を聞くくらいならええけど…どうしたん?
穂乃果 私に――
穂乃果 私たちに、力を貸してもらえませんか!
◇◇◇
21名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:48:46.10ID:YLJ37Jp/
◆◆◆
『ある日、少女が森を歩いていると、小さな泣き声が聞こえてきました』
『声のする方へ行くと、ひざを擦りむいた女の子がいました』
『どうやら、木の根につまずいたようです』
『たいへん。少女は駆け寄ります』
『だいじょうぶ?女の子に差し伸べる手』
『さわらないで!』
『ぱしり、とその手は弾かれました』
『でも、けがをしてるから。村まで一緒に行きましょう』
『ひとりでだいじょうぶ。だから、さわらないで』
『…ごめんね。少女はその場を立ち去りました』
『村の入り口で、少女は叫びます』
『たいへん、たいへん。森で女の子がけがをしているわ』
『やがて、女の子の元には村の大人たちが駆け付けました』
『痛かったろう。心細かったろう』
『よく頑張ったね』
『女の子は笑顔を浮かべて言いました』
『ママの手は、あったかいね』
◆◆◆
22名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:49:47.25ID:YLJ37Jp/
***
花陽「花丸ちゃん、帰ろ~」
花丸「ずら」
テクテク…
花丸「あ。ちょうちんが並んでる」
花陽「ほんとだあ。来月はお祭りだもんね」
花丸「今年のお祭りは盛大にやるんだろうね」
花陽「村のお米がいっぱい食べられるといいなあ」
花丸「まるはなんでもいいからいっぱい食べられるといいなあ。いつもより人も多くなるだろうからね…頑張って屋台を制覇するずら!」
花陽「………」
花丸「花陽ちゃん?どうかしたずら?」
花陽「人が多いってことは、…その…」ブルブル
花丸「大丈夫だよ、花陽ちゃん」ポン
花陽「花丸ちゃん…」
花丸「こっちから失礼なことをしたりしない限り、棘人さんだってなにもしないよ」
花陽「ほ、ほんと?」
花丸「ほんとだよ。ほら、棘人さんの中にも梨子さんや凛ちゃんみたいな人だっているから。みんながみんな怖いわけじゃないずら」
花陽「う、うん…そうだよね…」ホッ
ことり「え~?そうかな~」ヒョコッ
花陽「ぴゃっ?!」ビクッ
花丸「…ことりちゃん」
24名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:50:37.12ID:YLJ37Jp/
ことり「こーんにーちはっ。仲良く帰り道?いいなあ、ことりもご一緒してもいいかな?」
花陽「………」カタカタ
花丸「……ごめんなさい。遠慮してほしいずら」
ことり「えー、ひどいなあ。ことりは棘人さんじゃないよぉ?」
花丸「棘人さんの方がマシだよ」
ことり「あはははっ、言うじゃない。ふうん、そっかあ…残念」
花丸「行こ、花陽ちゃん」グイ
ことり「ばいば~い、花陽ちゃあん」
花陽「あ、さ、さようなら…」
ことり「棘人さんってば、昔は花陽ちゃんみたいな可愛いコを捕まえて食べちゃってたんだってねえ~。気を付けてね~」
花陽「ぴゃあああっ?!た、食べられちゃうの?!」
花丸「花陽ちゃん!いつもの意地悪ずら!嘘だから大丈夫だよ!…もうまるたちに話し掛けないで!」スタタタ…
ことり「うふふ…嫌われてるなあ…」
***
25名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:51:33.87ID:YLJ37Jp/
占占占
南「希さん。ここで壇上へ」
希「はい」
木剣を握る手に力が入る。
壇の中央には黒澤ダイヤ。
その周り、彼女を囲うように棘人と人が半円を為す。
一歩、また一歩。
やがて、黒澤ダイヤの正面へ。
すう…
木剣を構える。
同じくして、黒澤ダイヤが両手を挙げる。
顔を隠すように拡げられた両の手。
南「ダイヤさん」
南さんの短い声。
そして、拡げられた黒澤ダイヤの両手が小刻みに震え。
ぐぐぐ――……と、手の甲から幾本もの『トゲ』が生える。
26名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:52:14.25ID:YLJ37Jp/
南「希さん」
次いで、私の名を。
私の役目は、そのトゲを斬り落とすこと。
仮面を砕き、皮を引き剥ぐかのように。
棘人が棘人たるための証を――尊厳を。
南「安心なさい。練習用の剣で傷は付きません」
希「…はい」
今はね。
でも、つまり、本番では――
その先を思考しようとした瞬間、
「やめて!!」
大きな声によってそれは遮られた。
占占占
27名無しで叶える物語(やわらか銀行)2018/05/11(金) 20:52:58.13ID:YLJ37Jp/
@@@
果南「ワン ツー スリー フォッ ファーイ シックス セブン エイッ」パンパン
南「右付きの二人!遅れてますよ!」
遠巻きに眺める棘刀式の演舞練習。
その中央に舞うのは、大好きな人。
練習用の簡素な格好に身を包んでさえ、美しく映える。
長く繊細な黒髪を振り乱し、一切の表情を湛えることなく。
黙々と、黙々と、長年研鑽してきた舞を魅せる。
周りの何人が汗を弾き、息を乱し、くず折れようとも。
歩くように、跳ねるように。
それが他の誰でもない、彼女自身の舞であるかのごとく。
お姉ちゃんは、ただただ、舞う。
けれど、現実は非情なもので。
理亞「うわー、やってるやってる」
いやらしい声の観客が訪れる。