49名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 07:57:59.06ID:kMVQe1Ro
∬∬∬
『果南さん。狩野川の花火大会のことなんですけど』
『千歌ちゃんと、行きたくないですか?』
『二人きりで』
『それで私、考えたことがあって…』
∬∬∬
53名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:18:17.15ID:0aMc9i77
***
ー花火大会当日ー
「あれ?ちかちゃーん?!」キョロキョロ
「よーちゃーん!こっちこっちー!」
「いつの間にあんな…動かないで待っててねー!」カランカラン
「…はあ、やっと追い付いた」
「よーちゃん遅いよー」
「ちかちゃんが速いんだよ。なんで下駄でそんなに速く移動できるの?!」
「えー。足痛くなるから脱いじゃった」
「ええっ?!ちょ、裸足?!」
「はだしだよ!」
「だめだよ!ガラスとか踏んだらどうするの!破傷風になるよ!ほら、履いて履いて」
「よーちゃんは心配性だな~」アハハ
「いや笑い事じゃないからね?!」
「あ、お面屋さんだ!チカお面好きなんだ~っ!」タタタ
「あっちょっ下駄ァ!右足ィ!待ってちかちゃ~ん!!」タタタ…
………………
………
54名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:19:08.36ID:0aMc9i77
♪♪♪
「あ…射的なんてやってるのね」
「り、梨子ちゃん射的とか好きなの…?」
「ううん、やったことないわ。千歌ちゃんはある?」
「えっと…あんまりないかも」
「それなら対等ね。勝負しましょう!おじさん、二人お願いします」
「えっ!や、やるの?!」
「あら、だめ?」
「だ…め、じゃないけど」
「なら決まりね。負けたらたこ焼き奢りよ」
「あ!ずるい、後出し!」
「勝負を始める前なんだから後出しもなにもないわよ。さ、千歌ちゃんからどうぞ」
「しかも私から?!」
「内浦の先輩として、お手本を見せてほしいな~」
「関係ないし…梨子ちゃん強引…」
「さ、早く早く。まだまだ回りたいところはたくさんあるんだから、のんびりしてられないのよ!」
「うう…は~い」
………………
………
55名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:20:05.23ID:0aMc9i77
∬∬∬
「チカ、なにか食べたいものとかある?」
「ううん。果南ちゃん…と、おんなじものがいい」
「おっ、可愛いこと言うなあ。へへ…じゃあお腹も減ってることだし、最初は焼きそばかな~」
「うん!焼きそばならさっきあっちで見たよ!久し振りだな~、お祭りの焼きそば」
「よく見てるねー。私はこんな人の群れじゃ、流されないようにするので精いっぱいだよ」
「海なら流されもしないし、魚の群れと一緒になって自由に泳ぐのにね」
「ほんとだよ。ここもすいすい~って泳いで回れたら楽なのになあ」
「ふふ、果南ちゃんらしい」
「あ、ばかにしたでしょ」
「してないよー」
「まったく。そんなんだったら、奢ってやらないぞ」
「えっ?奢ってもらうつもりなんか、……あ、えー。ねーえ、果南ちゃーん」スリ
「うわっ、現金だなあ。ま、いいけどね。たまにはお姉ちゃんらしいことしてあげないとね」
「果南ちゃんはいつも優しいお姉ちゃんだよ」
「ふふ…チカはいくつになっても可愛いなあ」
………………
………
56名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:20:46.11ID:0aMc9i77
***
「ひとつくーださい!よーちゃんもいる?」
「ううん、私はいいよ。まだ焼きそばあるからね…って、ちかちゃんが右手に持ってるのはなにかな~?」
「りんご飴!」
「両手とも塞がったら危ないよ」
「危ないときはよーちゃんが支えてくれるからだいじょーぶ!」
「私はスーパーマンかなにかなのかな~」
「チカにとってはね」エヘヘ
「調子いいなあ。あ、あそこに座って食べよっか」
「うん!」
「お祭りってさ、毎年行くのに飽きないよね」
「そうだね。花火だって毎年見るのに飽きないもんね」
「綿菓子も」
「焼きそばも」
「りんご飴も」
「「毎年食べるのにね」」
「…ひとくちちょーだい、よーちゃん」
「ええっ?!その上でまだ食べる気?!」
………………
………
57名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:21:36.12ID:0aMc9i77
♪♪♪
「あ」
「どしたの?梨子ちゃん」
「千歌ちゃん、ああいうの好きそう」
「あー…好きかも…」
「よし、私が取ってあげるわ」
「え?!梨子ちゃん、輪投げ得意なの?」
「ううん、初めてよ」ウデマクリ
「どうしてそう強気なのかなあ…射的だってチカの圧勝だったのに」
「 」カチーン
「…千歌ちゃん、本当は初めてじゃなかったでしょう。射的」
「へ?いやいや、初めてだってば」
「うーそ!じゃなかったらあんなに上手なわけないもの!」
「いや、私が上手かったというよりは梨子ちゃんが…あっなんでもないです」
「だから、次こそ思い知らせてあげるわ。私の方が上手いってことをね」
「輪投げで?」
「輪投げで!おじさん、二人!」
「梨子ちゃんって結構負けず嫌いなんだなあ…」
「千歌ちゃん!ほら、やるわよ!千歌ちゃんから!」
「ええーー?!またチカが先攻~~?!」
………………
………
58名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:22:27.24ID:0aMc9i77
∬∬∬
「あ!また割れた!なんでかな~」
「果南ちゃんは力み過ぎなんだよ。こうやって力を抜いて丁寧に、丁寧に…」パキッ
「ぶふっ。チカも…割れてるし…」プルプル
「もーー!」ヒョイ パク
「また食べた。味しないでしょ、これ」
「そんなことないよ。変な味しておいしーよ」
「変な味なんじゃん…」
「でも、こうしてると思い出すなー」
「…あ、果南ちゃんいじわるな笑い方してる」
「だって、覚えてるでしょ?くく…っ」
「覚えてるよーだ。果南ちゃんが何回も掘り返すから!」
「型抜きしてる子の隣でじーっと眺めては、割れるたびに『それ食べていーい?』って…ねえ。知りもしない相手にも…」ププッ
「言わなくていーからー!果南ちゃんなんか昔っから型抜き一回も成功したことないくせにー!」
「だーって性に合わないんだよ~、こんなチマチマした作業」
「でも付き合ってくれるよね」
「チカも曜もなんかやりたがったからね、昔から」
「えへへ…果南ちゃんのそういう優しいとこ、好き」
………………
………
59名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:23:16.82ID:0aMc9i77
***
「とうっ!」ピャッ
「ひゃ!ちかちゃん、水飛んでる!」
「真剣勝負だから我慢して!」
「そのやり方を変えてくれれば…って、確かにすごく獲れてるんだけどさ…」
「むむむ…おまえで、20匹目だーーーっ!」パシャァッ…
「…あーーー!破れたーーー!!」
「ポイ一つで19匹も獲れば充分だよ」
「あと2匹で記録更新だったのになー。あ、おじさん、金魚みんな返すね」ザバー
「ちかちゃん、金魚すくい大好きだよね」
「うん!小さくて可愛いし、楽しいし」
「でも飼わないんだよね」
「うん!すぐ死んじゃうの、淋しいから」
「そんで、浴衣はびしょびしょだよね」
「うん!今年もね!!」
「どうしてそこ嬉しそうに言うかなー。まあ、その姿を見るとお祭りに来たなーって感じするけどね」
「ねー、よーちゃんお腹空いてる?」
「今はそんなに。またなにか食べる?」
「ううん。チカね、あれやりたい!」
「あれ?…ああ!そうだね、やろっか!」
「「型抜き!」」
………………
………
60名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:23:55.26ID:0aMc9i77
♪♪♪
「そういえば、あれ試してみない?」
「なに?」
「ほら、この間クラスで話題になったじゃない。かき氷の」
「あ~!実はみんなおんなじ味ってやつでしょ!チカも気になってたんだ」
「じゃあ決まりね。行きましょ」
「梨子ちゃん何味にするの?」
「あんな話を聞いた後じゃ、うきうきして選ぶのも複雑だけど…やっぱりイチゴがいいな」
「じゃあチカはみかんにするね!」
「じゃあって、私がなにを選んでてもみかんにしたでしょう?」
「そんなことないよ。梨子ちゃんがみかんにしたらメロンにしようと思ってたもん」
「そもそも、みかん味なんてあるの?」
「いっつもシロップ10種類用意してるとこあるから、そこ行けばあるよ!」
「さすが、詳しいのね」
「内浦の先輩だから!」ドヤッ
「さっきは否定したくせに」クスクス
「いーの!さ、行こっ!」ギュ
「あ……うん」//
………………
………
61名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:25:13.47ID:0aMc9i77
∬∬∬
「いや~、だいぶ遊び回ったねー」
「そうだね…結構へろへろだよ~」
「情けないなー、チカ。毎日の練習で体力ついてるでしょ」
「果南ちゃんと比べられたら体力なんて無に等しいよ…それに、こんな人混みあんまり慣れてないから…」
「…………それなら、手繋いでよっか」ギュ
「うん…えへへ、これならはぐれなさそう」
「チカは目を離すとすぐどっか行っちゃうからなー」
「あー、またチカのこと子どもみたいに言ったー!」
「私からすればチカはまだまだ子どもだよ」
「一つしか変わらないじゃん!」
「それでもだよー」ニシシッ
「もー…いいもん、いつか追い抜いてみせるもん」
「無理だよ?」
「無理じゃない!果南ちゃんが二年間コールドスリープしてれば追い抜けるもん!」
「しないよ?」
「…あ、やっと少し人混み抜けたね」
「そうだね。こっちのほうは屋台もないからね。休むにはちょうどいいかも…」
「ねえ、果南ちゃん…」ムギュ
「えっ。ち、チカ…?」
「…あのね、私、そろそろ………。…もう、いいでしょ?」
「ああ…うん、そうだね……もうそんなに経ったっけ。そろそろ、する?」
「うん。したい。チカ、いっぱい我慢したよ…早く、」
62名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:25:47.11ID:0aMc9i77
♪♪♪
「早く、交代したいよ――――」
♪♪♪
63名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:32:24.16ID:0aMc9i77
***
曜「でも残念だったね、梨子ちゃん」
千歌「うん…内浦に来て初めての夏祭りだもん。一緒に行きたかったのにな…」
曜「果南ちゃんといるなら目立つと思うんだけどなあ」キョロ
曜「…こんなに人が多いんじゃ、さすがに無理かな」
千歌「花丸ちゃんたちともダイヤさんたちとも会ってないもんね」
曜「小学生の頃は、毎年ちかちゃんと果南ちゃんと三人で来たよね」
千歌「あの頃はずっと一緒だったもんね、私たち」
曜「そうそう。ちかちゃんは昔っから金魚すくいで何匹も獲ってたし」
千歌「よーちゃんは昔っから最初は焼きそばって決まってるし」
千歌「果南ちゃんは…型抜きがへたくそだったよね」
曜「だったっていうか、たぶん今もだよ」
千歌「あー、よーちゃん果南ちゃんに言い付けちゃお~」
曜「ちょっ!裏切りだよ!先に言ったのちかちゃんなんだからね?!」
千歌「えへへー、しーらないっ。あーあ、よーちゃん怒られちゃうな~」
曜「私だってちかちゃんが言ったって言い付けるからねー!…あ」
64名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:33:24.96ID:0aMc9i77
千歌「よーちゃん?どうかした?」
曜「あれ、果南ちゃんたちだよね」
千歌「え?!…あ、ほんとだ!あんな隅っこで…怪しいな~。驚かせよ!」グイッ
曜「あ、う、うん…」
曜 (なんか…不思議な雰囲気に見えるけど、気のせいかな…)
コソコソ
千歌「間違いないね、果南ちゃんたちだ」ヒソ
曜「うん。もう少し近付けば声も聞こえちゃうね」ヒソ
千歌「ん?なにしてるんだろ…」ヒソ
曜「果南ちゃんの髪を結ってあげてる?みたいだね」ヒソ
千歌「仲いーんだね」ヒソ
曜「うん…そうだね…?」ヒソ
曜 (でもなんか…単純に仲が良いってだけの様子でもないような――)
「さ、行きましょうか。千歌ちゃん」
「うん!そろそろ花火だからね、チカのとっておきの場所に連れてったげる!」
ようちか「「…………………え?」」
***
65名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:34:06.32ID:0aMc9i77
♪♪♪
梨子「…あ、やっと少し人混み抜けたね」
果南「そうだね。こっちのほうは屋台もないからね。休むにはちょうどいいかも…」
ふう、と小さく息を吐く。
人に酔う…って、こういうことを言うのかな。
果南さんに手を引かれ、まるで幼い子どものよう。
でも、そんなことはお構いなしだ。
目の前の優しく逞しい腕にすがり付く。
梨子「ねえ、果南ちゃん…」
果南「えっ。ち、チカ…?」
果南さんは呼ぶ。
私を見て、想い人の名を。
梨子「あのね、私、そろそろ………。…もう、いいでしょ?」
66名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:34:35.00ID:0aMc9i77
果南「ああ…うん、そうだね……もうそんなに経ったっけ。そろそろ、する?」
もしかして、まだ少し早かっただろうか。
でも、もうこれ以上は待てない。
梨子「うん。したい」
考えるだけで胸がぎゅうっと締め付けられる。
梨子「チカ、いっぱい我慢したよ…」
私は呼ぶ。
自身に向かい、想い人の名を。
梨子「早く、交代したいよ――――」
ねえ、次はあなたが千歌ちゃんをやる番よ。
果南さん。
♪♪♪
67名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:36:40.78ID:0aMc9i77
∬∬∬
ー花火大会前日ー
スマートフォンがメッセージの受信を告げる。
果南「ん?梨子かな」
最近は、毎日梨子とやり取りをしているおかげで少しずつ操作にも慣れてきた。
それにしても、梨子と過ごす時間は楽しい。
梨子は私が知らないチカをたくさん教えてくれる。
私は梨子が知らないチカをたくさん教える。
高海千歌という存在を求め合う私たちは、いつしかお互いにその影を重ねることで満足できるようになっていた。
果南「なにかなー…っと。そういえば明日は狩野川か。梨子は初めてだから楽しんでくれるだろうなー」
梨子『果南さん。狩野川の花火大会のことなんですけど』
果南「おっ、噂をすれば。さすが梨子、耳が早いなあ」←まだ誘ってなかった
68名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:37:29.52ID:0aMc9i77
梨子から誘ってくれるなんて嬉しいな。
始まるのは夕方からだから、ちょっと早く集合して沼津でぶらっとしてからでもいいかなー。
なんて考えていると、再びスマートフォンが鳴動した。
あれ?返事する前に来るなんて珍しい…な……
続くメッセージに、私は一瞬頭が追い付かなかった。
梨子『千歌ちゃんと、行きたくないですか?』
梨子『二人きりで』
立て続けに二通。
これは、えっと、どういう…
混乱する私に追い討ちを掛けるように、さらにもう一通。
梨子『それで私、考えたことがあって連絡したんです』
果南『なに?どうしたの?』
これ以上、理解の外から攻撃される前に、せめてものカウンターを放つ。
だけど、そんなチンケな反撃に意味はなかった。
梨子はあっさりと私の想像を超えてきた。
梨子『私たち、成りませんか。お互いがお互いの千歌ちゃんに』
∬∬∬
69名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:38:13.46ID:0aMc9i77
∬∬∬
最初は抵抗があった。
梨子「あ…射的なんてやってるのね」
こんなの、すんなり受け入れられるほうがおかしいに決まってる。
果南「り、梨子ちゃん射的とか好きなの…?」
自分のものではない、大好きな人の口調を真似て。
梨子「ううん、やったことないわ。千歌ちゃんはある?」
自分のものではない、大好きな人の名前で呼ばれる。
意味不明で恥ずかしくてばかばかしくて、ちょっとでも冷静になったらその場にしゃがみ込んでしまいそう。
私はなにをしている?
私たちはなにをしている?
それでも梨子は笑う。
優しく、可愛く、艶かしく。
その瞳には「千歌ちゃん」が映っている。
クラスでの話題――わかる。
授業での話題――返せる。
同級生の話題――――その場にいたかのように話せる。
私は確かに、梨子の求める「千歌ちゃん」に成れる。
70名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:39:14.82ID:0aMc9i77
梨子「…ああ、楽しい」
手洗い場の傍。
ふらりと立ち寄り、梨子は呟く。
そして名残惜しそうな表情で言う。
梨子「それじゃ、そろそろ交代しましょうか」
果南「交代…」
梨子「ええ。私ばっかり千歌ちゃんとデートするわけにはいかないもの。次は私が千歌ちゃんに成るわ」
果南「あ、その、梨子。やっぱり私はいいよ…」
梨子「なんで?果南ちゃん」
果南「…っ」
呼称だけじゃない。
彼女独特の抑揚、間伸び、クセ。
梨子「チカと、お祭り回りたくない?」
首を傾げる角度、両手を後ろに組む仕草、はにかみ方、眉尻の下がり具合、上体を少しだけ近付けてきて、代わりに右足を少しだけ引いて、
もう一度、
私の、
名前を。
梨子「果南ちゃん」
果南「……チカと、回り…たい…」
∬∬∬
71名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:40:05.74ID:0aMc9i77
∬∬∬
そこからの時間は、まるで夢でも見ているかのようだった。
果南「チカ、なにか食べたいものとかある?」
目の前の友人を大好きな人だと思い込んで。
梨子「ううん。果南ちゃん…と、おんなじものがいい」
ぎこちないなりの大好きな人が隣で私に笑っていて。
果南「おっ、可愛いこと言うなあ。へへ…じゃあお腹も減ってることだし、最初は焼きそばかな~」
背徳と、罪悪と、羞恥と、困惑と。
現実感のなさと、それでも嬉しくなってしまう現実と、虚しさと、それを超えるだけの愛おしさと。
頭はくらくら、喉はからから、足元はふわふわ。
そして、胸はどきどき。
気が付けば、彼女はいつしか完全に――彼女に成っていて。
果南「ふふ…チカはいくつになっても可愛いなあ」
∬∬∬
72名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:40:54.53ID:0aMc9i77
∬∬∬
梨子「早く、交代したいよ――――」
要請。
切実な声に、仕方ないなと笑う。
繋いでいた手を放して。
果南「じゃ、次は私がチカだね」
梨子「あ…あのね、果南さん」
果南「ん?」
一瞬だけ挟まる現実を見逃すことなく、梨子はさらに夢への拍車を露わにした。
梨子「髪、結ってみるなんてどうかな…千歌ちゃんを真似て」
果南「……それはいいね。やろうか」
想像しただけで、ふふ、頬がにやけてしまう。
虜、虜。
すっかり私を包んだ夢の背中を押す提案に、乗らない手はない。
73名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:41:40.03ID:0aMc9i77
梨子「それじゃ、先に私が結ってあげますね」
果南「うん、お願い」
梨子「嬉しいなあ。千歌ちゃんの髪を結うの、憧れてたのよ」
果南「………。うん、チカも梨子ちゃんに髪結ってもらえるの嬉しいなっ」
梨子「ふふ。ほら、髪飾りもちゃんとあるんだから」
きらりと緑色。
果たして青い髪に映えるのか――なんて。
梨子「うん!とっても似合ってる。やっぱり千歌ちゃんにはこの髪飾りが一番似合うわね」
私の髪は、今は青くなどない。
そろそろ、花火が上がり始める頃だ。
梨子「さ、行きましょうか。千歌ちゃん」
果南「うん!そろそろ花火だからね、チカのとっておきの場所に連れてったげる!」
ようちか「「…………………え?」」
74名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:42:41.68ID:0aMc9i77
声のした方。
聞き間違えるはずもない。
振り向けば、そこにはチカと曜の姿。
二人とも目を丸くして、まるで、
梨子「あら、千歌ちゃん。曜ちゃん。こんばんは」
果南「やっほー、チカ。曜」
曜「あ、うん…えっと、気のせい…かな。聞いてもいい?」
梨子「? ええ、なに?」
曜「今、果南ちゃんのこと『千歌ちゃん』って…それに、果南ちゃん自分のこと『チカ』って…」
千歌「その髪型も…チカみたい…」
梨子ちゃんと顔を見合わせる。
案の定、私と同じ心境のようだ。
よかった、理解できない私が変なのかと思った。
改めてチカと曜に向き直る。
目を丸くして、まるで『理解できないもの』を見るかのような二人に。
果南「それが、どうかしたの?梨子ちゃんがチカのこと『千歌ちゃん』って呼ぶの、そんなに変かな」
二人は――なにも言わなかった。
∬∬∬
75名無しで叶える物語(茸)2018/04/19(木) 11:43:19.43ID:0aMc9i77
***
二人きりの部屋。
愛する貴女と私以外、誰もいない部屋。
「チカ。好きだよ」
「チカも…好きだよ、果南ちゃん」
貴女の瞳には私だけが映っていて。
私の腕の中には貴女がいる。
「千歌ちゃん、好きよ」
「梨子ちゃん。チカも好きだよ!」
ああ――
大好きな貴女といられるだけで、私の胸はこんなにも。
「チカ…」
「果南ちゃん…」
「千歌ちゃん…」
「梨子ちゃん…」
二度と、二度と、誰にも渡さないよ。
だって私はこんなにも貴女のことがね、
「「好き」」
終わり
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