1ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:06:35.62ID:ZyNImPVe
#1.目覚め
ここは…どこ…
わたしは…だれ…
わたし、は…
曜「あ、目が覚めた?」
目が…あ、そっか。
閉じていた目を、ひらく。
眩しい光に視界が白み、それも一瞬、やがて色が着いていく。
そうして捉えたのは、
「あなたは…だれ?」
曜「私は渡辺曜。よーちゃんって呼んでね!」
「よー…ちゃん」
曜「それで、あなたは高海千歌。ちかちゃんだよ!」
たかみちか。
潮風のように爽やかな笑みを湛えて、あなたがその名をくれたときから。
わたしは私と成った。
***
2ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:07:16.76ID:ZyNImPVe
#2.よーちゃんとちかちゃん
曜「いい?ちかちゃん。ちかちゃんのお家はここで、私と一緒に暮らすんだよ」
千歌「ここがチカの家なの?」
曜「そうだよ」
千歌「よーちゃんの家は?」
曜「ここだよ」
千歌「んんー……??」
曜「ちかちゃんは私の妹みたいなものだから。だから、ウチで一緒に暮らせるんだよ」
千歌「妹みたいなもの…」
よくわからない。
普通、誰しもそれぞれ自分の家があるはずで。
よーちゃんはよーちゃんの家があって、私には私の家があって。
よく、わからない…けど。
千歌「よーちゃんと、ずっと一緒にいられるってこと?」
曜「…そうだよ!」
それならいっか、って思ったんだ。
***
3ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:07:49.14ID:ZyNImPVe
#3.よーちゃんとちかちゃん②
曜「ちかちゃん、あけてくれる~?」
千歌「おかえりなさい、なんだったの…って、わああ!」
曜「と、とりあえず置いちゃうよ」フラフラ
ドサッ
曜「ふう~」
千歌「すごい量のみかん!よーちゃん、これどうしたの?」
曜「親戚のおじさんが送ってくれたんだ。お母さんが、ちかちゃんと好きなだけ食べなさいってさ」
千歌「すごいすごい!こんなにたくさんのみかん、初めて見た!」
曜「えへへ…欲張っていっぱい持ってきちゃった」
千歌「も~、よーちゃんってば食いしん坊。こんなに食べたら晩ごはん入らなくなるよ」
4ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:08:21.35ID:ZyNImPVe
曜「え?あはは、やだなーちかちゃん。今全部食べるわけないじゃん!」
千歌「え?あ、そっか、そうだよね…」
曜「食いしん坊さんはどっちかな~」
千歌「も、もう!チカだって全部食べるなんて思ってないもん!よーちゃんのばか!」ポカポカ
曜「うーん、気持ちの良いマッサージであります!あ、ちかちゃん、もう少し下」
千歌「ふんだ!この一番美味しそうなやつはチカが食べちゃうから!」
曜「あーっ!それ私が目つけてたやつ!」
千歌「早い者勝ちだもーん」プイッ
曜「返して返して!」
千歌「あははっ、もうチカのだからだめ~!」
***
5ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:09:54.37ID:ZyNImPVe
#4.よーちゃんとちかちゃん③
千歌「買い忘れたものない?」ガサ
曜「うん、大丈夫だと思う。…でも、うっ…重いな…」
千歌「へーき?チカが持とうか?」
曜「あはは、私が持てないものをちかちゃんには任せられないな」
千歌「あー、言ったな~!貸して貸して!」
曜「えー。重いから気を付けてね」
千歌「よい…しょ!」グイッ
千歌「あれ…重いけど、持てないほどじゃないかも」
曜「ええっ?!うそ?!」
千歌「うん、大丈夫そう。家までくらいなら全然。早く帰ろ!」
曜「う、うん…」
千歌「えへへ…よーちゃんの役に立ててよかった!」
曜「そうだね、助けられちゃった」
曜「…………」
***
6ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:10:26.02ID:ZyNImPVe
#5.よーちゃんとちかちゃん④
千歌「ん~、今日は暑いねー」
曜「暑いね~……私、暑いの苦手だなあ…」
千歌「って言うわりに、よーちゃん全然汗かいてないね」
曜「えっ、そう?暑いときは汗かいたほうがいいのにな、私の身体はわかってない」プン
千歌「あはは。よーちゃんは身体まで頑張り屋さんだね」
曜「こんなとこ頑張ったって仕方ないのにー!…あ、ねえねえちかちゃん、ここのハンバーグすっごく美味しいんだよ。昔から家族でたまに来る店でね」
千歌「へえ!いいなあ」
曜「今度、一緒に行こうね」
千歌「……ねえ、よーちゃん。今お腹は?」
曜「へ?うーん、空いてるっちゃ空いてるかな」
7ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:10:58.15ID:ZyNImPVe
千歌「じゃあ食べてこ!」
曜「ええ、今?!この暑いのにハンバーグ?!」
千歌「いーま!あついけど!ね、行こっ」ギュ
曜「え、えええ~いいけど…わわ、そんなに走らなくてもハンバーグは逃げないってば!」アワワ
千歌「走ったほうがごはんは美味しくなるんだよ~」
曜「えー、そうかなあ」
千歌「そうなの!」
あなたが好きだと言ったものを。
たった一つも逃したくないの。
今すぐにだって、知りたいんだよ。
………………
………
8ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:11:30.34ID:ZyNImPVe
千歌「んー!おいしーっ!」
曜「えへへ、でしょ?!ちかちゃんと来たいと思ってたんだよね」
千歌「あっさり叶っちゃったね!」
曜「ちかちゃん強引だからな~」
千歌「よーちゃんが美味しいって言ったハンバーグなら食べてみたいもん!」
曜「それにしたって今日この場じゃなくても…」
千歌「うわーー!わさびソースつけるとおいしーー!」
曜「…って、聞いてないし。ちかちゃんちかちゃん、こっちのブレンド塩をつけても美味しいんだよ」
千歌「塩ぉ?!うーん…よーちゃんが言うならやってみよ」
チョイチョイ パクッ
千歌「おーーーいしーーーっ!!」
曜「ちかちゃんはなんでも美味しそうに食べるから、勧めがいがあるなあ」
9ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:12:02.06ID:ZyNImPVe
曜「私はやっぱりケチャップが一番なんだけどね」
千歌「ケチャップ……チカもチカも!」
曜「わ、出た!ちかちゃんの真似したがり!」
千歌「え~?チカそんなに真似したがったことないよー」
曜「ちかちゃん昔からそうだよ。目の前でされたことすぐ真似したがるんだから」アハハ
千歌「え…例えば、いつ?」
曜「え」
ケチャップを握るよーちゃんの手に力が込められる。
目が合い、逸らされ、泳ぐ。
10ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:12:36.15ID:ZyNImPVe
曜「えっと、ほら、例えば………あれ、出てこないや……あはは、勘違いだったかな」
千歌「…もー、よーちゃんってば!すぐチカのことおばかさん扱いするんだから!」
曜「そんなことないって!ごめんごめん」
千歌「ふーんだ、拗ねました~」
曜「デザート奢るからさ」
千歌「ほんとに?!やったー!」
曜「うわ、現金だなあ」
千歌「なんにしよっかな~。プリンもいいし、チョコケーキもいいし…むむ、ソフトクリームも捨てがたい」
曜「ひ、一つだからね?!」
すぐにまた、二人笑い合う。
ねえ、よーちゃん。
昔って、いつのことなの。
***
11ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:21:59.03ID:ZyNImPVe
#6.よーちゃんとちかちゃん⑤
千歌「あれ、なに?」
曜「ん?あれは…」
ふと気になった。
指をさして問うと、よーちゃんは壁からハンガーごと。
曜「私が作った洋服だね」
千歌「えっ!よーちゃん、お洋服作れるの?!」
曜「うん。ナースにスーツにスチュワーデスに…色んな制服が好きでね。そのうち、自分で作るようになっちゃった」
千歌「すごいすごい!みせて!」
曜「たいしたものじゃないけどね」
手渡されたそれは、そんな謙遜をぽいと吹き飛ばすほどに可愛くて、キラキラしていて、まるで魔法のよう。
全体は白と薄めの青で調えられて、首元には大きな青のリボン。
プリーツのスカート、水色のサイハイソックス、指ぬきのグローブにカチューシャ。
こんなの、女の子なら誰でも腕を通したくなってしまう。
12ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:22:31.59ID:ZyNImPVe
千歌「ね、これ着てみてもいい?」
曜「いいよ。ちかちゃんなら私とサイズもあんまり変わらないしね」
千歌「やったー!」
ー着替え中ー
千歌「どう?!」
曜「うん、似合ってるよ!ちかちゃん可愛い!」
千歌「えへへ…よーちゃんのセンスのおかげです」
曜「でも、ちかちゃんは青より黄色を基調にしたほうが合うかもしれないね。今度、作ってみよっか」
千歌「チカにも作れるかな?」
曜「大丈夫!一緒にやれば平気だよ」
千歌「うんっ!よーちゃんだいすき!」
曜「へへ…照れるであります!」
姿見を覗く。
まるで自分とは思えない。
よーちゃんに見えないように、また頬を弛ませた。
***
13ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:23:12.95ID:ZyNImPVe
#7.よーちゃんとちかちゃん⑥
渡辺母「曜…洗濯物、置いておくわね」
曜「あ。ありがとう、お母さん」
渡辺母「それと、制服返ってきたから掛けておくわね…」
曜「うん!」
ふと目が合って、微笑みを返されて、でも。
ふいっと、見なかったことにするような動きで逸らされて。
よーちゃんのお母さんは、足早に出ていった。
曜「ん~~、やっぱり糊のきいた制服は違いますな~」
千歌「…クリーニングに出してたの?」
曜「うん。せっかくの夏休みだからね」
千歌「可愛い制服だね」
曜「そうだね。私、浦女の制服だいすき!」
千歌「制服かあ…」
曜「夏休みのあいだ着られないのは残念だよね」
千歌「ほんとに制服が好きなんだね」
14ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:24:03.13ID:ZyNImPVe
曜「小さい頃とか憧れなかった?巫女さんとか婦警さんみたいな特別なものもそうだけど、花屋さんのシンプルなエプロンだけでも、すっごく羨ましかったなあ」
千歌「今はどの制服が一番すき?」
曜「んーーー、悩むなそれ!でも…王道だけどメイド服かな。あのフリルってこだわり始めたら終わらないからなかなか自分じゃ作れないし、かといってその辺で売ってるやつじゃ安っぽくて着ても逆に切なくなっちゃうし」
千歌「大変そうだね」
曜「本気の『好き』には、いつだって苦しめられるよ…」
千歌「よーちゃん詩人!」
曜「え?あはは…そうかな。でも文を作るのならちかちゃんのほうが得意でしょ」
千歌「え~…チカばかだから、そういうの苦手だよ」
曜「そんなことないよ。ちかちゃんの書く文って、読んでるとたまにあっと驚かされるよ」
千歌「そうなの?」
曜「そうなの!」
文なんて、書いたことあったかなあ。
***
15ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:24:36.81ID:ZyNImPVe
#8.よーちゃんとちかちゃん⑦
曜「ただいま~」ガチャ
千歌「あ、おかえりなさい…よーちゃん」
曜「夏はシャワーだけでいいから楽だね~……って、ちかちゃん?!どうかした?!」
千歌「え、どうして…」
曜「泣いてた?ように、見えた…から…」
千歌「あ、あはは…そんなことないよ。大丈夫」
曜「………なにかあった?」
千歌「…チカ、邪魔になってるのかな…って」
16ぬし ◆z9ftktNqPQ (プーアル茶)2018/04/12(木) 21:25:13.61ID:ZyNImPVe
曜「邪魔?なんで、そんなことないよ!」
千歌「だって、もう一週間もよーちゃん家にいるんだよ。自分の家にも帰らないで、ずっと」
曜「い、言ったじゃん。ちかちゃんの家はここだよ。ここは私とちかちゃんの家なんだよ」
千歌「迷惑になってないの?」
曜「なってるわけないよ!私、毎日ちかちゃんと一緒にいられて楽しいよ!すっごく幸せだよ!」
千歌「…お母さんも、そう思ってる?」
曜「も…もちろんだよ。ちかちゃんのことは昔からよく知ってるんだし、それにきちんと話し合って納得して決めたことだって―― 千歌「よーちゃん」
千歌「話し合って、納得して、なにを決めたの?」
曜「――――っ!!」
千歌「昔からよく知ってるって、どうして?チカは一週間前に目覚めたんだよね?」
曜「あ…その……」
千歌「ねえ、よーちゃん」
千歌「私は誰なの?」
***